1章-29
「声出せ。能力を使う時、出したい物をイメージしながら、その名前を叫べ」
「声? え? 火!! みたいな感じでって事?」
御影は怪訝な顔つきで呟いた。
「ああ。能力を発動するトリガーを決めておくといろいろとやりやすい。声、仕草、動作。なんでもいいが声が一番分かりやすい。お前もいつもやってるだろ?」
「変身のこと? あれは初めて能力を使った時の名残。まぁ。漫画やアニメだとよく見るけどさ。技名叫んだり? 特定の仕草を見せたり? でも実際あれ意味あるの? フィクションじゃんあれ」
「あるに決まってんだろ」
「おおう。そうなのか」
溝畑の自信満々な様子に御影は少したじろいだ。
「厳密には違うが、スポーツ選手のやるルーティンのようなものだ。サッカー選手とか野球選手とかがやってるだろ」
「ああうん。それなら分かる。FK蹴る前とかそれ意味あるの?っていう動きする選手いるし」
「ルーティンを行うと緊張がほぐれてパフォーマンスが発揮しやすくなる。動作と動作を関連づけているわけだ。能力に関してもほぼ同じだ。この動作をしたら能力を発動すると予め決めておく。動作と能力発動を連結させておくわけだ。
そして何回も反復する。すると次第にその動作を取るだけで勝手に能力が発動するようになる。以前お前には自動で能力は発動しないと言ったが、それに近い事が出来るようになる」
「・・・・・・あんまし。よく分からない」
「じゃあやってみな」
溝畑は苦笑いを浮かべながら再び御影と距離を取った。御影はボードの二番目の文字を確認すると、能力を起動する。
「えーっと。水!!」
御影の手からチョロチョロチョロ、と効果音が聞こえてきそうなほどの少量の水が飛び出す。それは溝畑のはるか手前に溢れ堕ち、二人の間に気まずい空気が充満する。
「・・・・・・何故?」
「イメージが悪い」
「いや。お前の教え方が悪い!」
「じゃあお前のイメージした水を聞かせてもらうぞ。どんな風に想像した?」
「ええ・・・・・・」
歯切れの悪い様子の御影に溝畑はさらに畳みかける。
「お前、蛇口をイメージしただろ。だから前に飛ばずにこぼれ落ちた」
図星だった。御影はバツが悪そうに目を逸らす。
「う。・・・・・・水は、無し! 次行こう次」
御影は気持ちを切り替え、次の検証に入る。しかし
「俺まで届いてないぞ」
「風に乗ってどっかいったぞ」
「攻撃力が無けりゃ出せても意味ないだろうが」
さっきまでの流れを踏襲するかのように、失敗ばかりが積み重なっていく。溝畑の罵倒のバリエーションも早々に底をつき、そのうち冷ややかな目で御影を見つめるのみとなった。
「・・・・・・諦めるか」
「待て待て待て待て。まだ残ってるから!!」
残された候補はあと五つだった。その内の一つを御影は指差す。見覚えのない横文字に溝畑は眉を細めた。
キャノンバースト、溝畑には初見の単語だ。
「次、これ」
「なんだそれ?」
「私がゲームで使うキャラの必殺技。手からデカい砲弾を出して攻撃するスキル。当たると敵にスローと防御低下のデバフが・・・・・・あ」
饒舌に語る御影の姿に、溝端は小さく笑みを浮かべると
「よし。やるぞ」
「あれ? いいんだ。絶対呆れられると思ったのに」
「お前には合ってそうだからな」
御影は首を傾げつつ、準備を始める。ふと、彼女が口を開く。
「声ってさ。別に名前じゃなくてもいい?」
「ん? ああ。なんでもいい。口上でも数字でも叫び声でも、重要なのはそこじゃないからな」
「分かった。じゃあこれで」
両手を突き出し、溝畑に照準を合わせる。そして叫ぶ。
「治安を乱す下界の屑どもが、砕け散れ!!」
凄まじい衝撃音と共に溝畑の身体が吹き飛んだ。いや、押し潰された。御影の両手から放たれた巨大な黒い鉄球が溝畑に直撃し彼を壁まで追いやったのだ。
鈍い音が鳴った後、鉄球は煙のように姿をくらまし、後に残ったのはその場に蹲る溝畑のみとなった。
しばらく唖然としていた御影だったが、我に返ると溝畑の元へと駆け寄り心配そうに彼を見つめた。
「大丈夫?」
溝畑は立ち上がると、自身のHPゲージを見つめた。
「なんだ。出来たじゃないか」
御影は横からそれを除き見ると、彼のHPは3割ほど削れていた。
「生身だったら本当に全身がバラバラになってたかもな」
「一瞬ヒヤッとした。けど、うん。これで良さそう。ちゃんとスキル通りだった。出てきたの」
御影は喜びを隠し切れなかった。今まで扱えなかった能力が使えるようになった。感慨深い瞬間だった。
「攻撃力はそこそこある。基本的には銃の能力と使い合わせて、戦うべきだ。他のカードについては今は忘れろ。器用になっても頭が追いつかなければ意味がない」
「そうかも。・・・・・・ん? 今遠回しに私の事馬鹿って言ったか!?」
「さあな」
溝畑は倉庫からマネキンをいくつか持ってくると、等間隔で壁に設置した。
「次はその能力の限界を見極める。連発が可能か、軌道を途中で変えられるか、複数個同時に出すことは出来るか、検証することは山ほどある」
「それはいいけど、ちょっと。休憩したい」
御影はその場にグッタリと倒れ込むと、大きく息を吸い込んだ。
「じゃあ明日にするか。今日は十分前に進んだ」
「嫌!! 今日やる」
「・・・・・・15時に再集合。それより前に練習していたら、ここからつまみ出す」
そう言って溝畑は座り込むと、寝息を立て始めた。
御影が一つ、息を吐くと彼女の腹部が低く唸り声をあげた。時刻を確認すると1時を回っていた。
彼女は身なりを軽く整えると昼食を取りに自宅へと戻った。その足取りは普段よりも遥かに軽く、雲の上を歩いているようだった。




