1章-27
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翌日、学恋は言われた通り放課後隙を見て屋上へと足を運ぶ。元々来ない御影を筆頭に溝畑と荻野も昨日の宣言通り学校へ来ていない。
自分一人に勧誘を任された事に多少憤慨しつつ、学恋は屋上へと続く扉を開く。
何もないコンクリートの殺風景な景色の先に一人の男子生徒が座り込んでいる。彼はボーッと空を見上げながらしきりに何かを振っている。一目見ただけで印象に残りそうな青い紙が特徴の彼、夜凪玲央その人だ。
小さなそれは遠目からでははっきりと捉えることは出来なかったが、確かにそれは学校に、彼に似合わない物だった。
「え!? ちょっと!? 何してるんですか!?」
学恋は急いで夜凪の元へと駆け寄ると、彼の手からそれを奪いとる。確認すると予想通り、それは火のついた煙草だった。
「何か用か?」
夜凪は顔色を変えず、突き刺すような鋭い目つきで学恋の方を見やる。その視線に軽い寒気を感じ、一歩離れ彼を問いただす。
「いやこれ煙草じゃないですか!? バカなんですか!? まだ高校生ですよ私達」
上擦った声で学恋は問いただす。
「落ち着け。別に喫煙してたわけじゃない」
学恋とは対照的に夜凪は落ち着いた様子で答える。
「知ってますよ! 追い詰められた犯人はみんなそう言うんです」
「・・・・・・そうか。なら先生でも警察でも誰でも呼んでこい。好きにしろよ」
そう言って夜凪は呆然と空を見上げる。
「ダメですよこんな・・・・・・」
学恋は奪った煙草に目をやる。するとある事に気がついた。
燃えているのは煙草の側面で、しかも黒く焼けこげている。まるで吸うためではなくそれを燃やす事自体が目的のような、そんな乱暴な火の付け方だった。
「・・・・・・何か嫌な事でもあったんですか?」
「お前何しに来たんだ?」
心底鬱陶しそうに夜凪が吐き捨てる。
「・・・・・・これ。返すように言われてきたんです」
学恋が持っていた生徒手帳を突き出すと、夜凪は少し逡巡した後無言でそれを受け取った。
「どうも」
「いえ。いやそうじゃなくて! その・・・・・・」
言葉に詰まり閉口する学恋をよそに、夜凪は二本目の煙草を懐から取り出す。
「いやだから吸わないでくださいよ!」
「吸うわけじゃない」
夜凪は指先に小さな炎を灯すと、煙草を近づけ火をつける。それはメラメラと燃え上がりやがて地面で塵となって消えていく。
まるで作業のように淡々と次の煙草を燃やし始める。その様子にしばらく呆然としていた学恋だったが意を決して口を開く。
「対抗戦に出るつもりはありませんか?」
「・・・・・・お前。あいつに言われて来たのか?」
うんざりした様子で夜凪は言う。
「誰の事ですか? 確かに頼まれはしましたけど」
「出ない。用が済んだらとっとと帰れ」
「何故ですか? 知っているでしょう? ここが廃校になれば貴方のその能力も」
「失せろ」
夜凪はにべもなかった。ここまで強く拒絶されてしまっては打つ手がない。
「そうですか。なら諦めます。・・・・・・ただ!」
学恋は右手を夜凪に向けて差し出すと言い放つ。
「んだよ」
「今貴方が持っている煙草は全部預かります。渡してください」
「・・・・・・はぁ」
夜凪は大袈裟にため息を吐くと、ポケットから煙草のケースを取り出すと学恋に投げつけた。
咄嗟のことに上手くキャッチする事ができず、ポトリと床に落下する。
「もう・・・・・・」
拾い上げようと学恋は手を伸ばす。その指先が触れる瞬間、ケースが炎に包まれた。
「きゃあっ!!」
勢いよく腕を引く。燃え上がるケースはあっという間に風に巻かれ消えてしまう。
「これでいいだろ」
「ちょっと! 危ないじゃないですか!?」
「そう思うなら関わらなきゃいいだろ」
夜凪は冷ややかに言い放つと、扉に向かって歩き始める。
「あの!」
学恋は思わず彼を呼び止めた。
すれ違う時に見せた彼の横顔がとても悲しそうで、放ってはおけなかったからだ。
夜凪は振り返る事はなかったが、その場で立ち止まった。
「毎日練習場で特訓してるんです。また来てください! ・・・・・・やる事、ないんでしょう?」
返答はなかった。階段を降りる音が後から聞こえ、一人取り残された学恋は小さく息を吐き、頭を抱えた。
「無理ですって・・・・・・。来るわけないじゃないですかぁ」




