1章-25
普段からあまり運動をしない学恋はそのぎこちない手足の動きで前へと走る。目印となった荻野を視界捉えながら、コーンの間を通り抜けると同時に能力を発動する。
フッとその場から学恋の姿が消え、荻野のすぐ真正面に再び姿を見せる。位置がズレてしまった。
それどころか、学恋は何かに押されるようにそのまま前へと向かう。体勢を戻す事が出来ず、バランスを崩したまま思わず両手を前へと突き出す。
「いっ!!!!!?」
彼女の両手が荻野の身体に触れたその瞬間。荻野の身体が強風に煽られたかのように大きく後ろへと吹き飛び、彼は壁に背中をしたたか打ちつけた。
「うぁっ!? うう・・・・・・」
突然の衝撃に息が出来ずその場にうずくまる荻野に対し、学恋は口元を押さえてその場にしゃがみ込む。
気怠さと軽い吐き気が彼女を襲う。
「っっはぁ! 死ぬかと思った。これ無かったらヤバかったぁ・・・・・・」
荻野は立ち上がると、背中を目一杯摩る。
「すみません。迷惑を」
「ああ気にすんなよ。俺が言った事だしな。それより気分は? その、出そうか?」
「いえ。もう大丈夫です。私よりも・・・・・・貴方の方が心配です」
「生身だったら骨折れてるかもな。・・・・・・いやそうじゃねぇよ! なんなんだよ今の」
そうだ、と学恋は一連の流れを思い返す。
「瞬間移動の位置が少しズレて、そのせいで貴方にぶつかって、そしたらものすごい勢いで飛んでいって・・・・・・」
「マジで危なかったぞ。いや待てよ」
荻野は少し考える素振りを見せ、再び続ける。
「今のは対抗戦で使えるかもしれない。人に衝撃を与えて吹き飛ばせるんだろ。攻撃手段には十分だ」
「どうでしょう。たまたまなのかもしれませんし」
「もう一度やってみるか。次は、そうだな。あれでいいんじゃないか?」
荻野は練習場の扉を指差した。
「いや。そのマネキンとかでいいんじゃ・・・・・・」
「これはダメだろ。ほら、軽くて俺でも投げ飛ばせる。威力を確かめたいからな。まぁ、流石に飛びはしないだろうけどな」
「ものすごく抵抗あるんですけど、あれにぶつかれって事でしょう? それにさっきのが偶然かどうか確かめるならマネキンでも・・・・・・」
「どれぐらいの威力があるのかも確かめたいからな。的は頑丈であればあるほどいい」
「ああ・・・・・・。もうなに言っても意味なさそうなのでやりますよ」
学恋は小さくため息を吐くと、扉の正面に位置どり距離を取る。
そして走り出す。その後のことはさっき見た通りだ。




