1章-24
「もしそうだったら今まで悩んでた私がバカみたいじゃんか」
「そもそも誰が分かるんだよこんなクソみたいに雑な絵。オレの方が上手く描けるぞこんなの」
お互いに悪態をつきながら、少しの間沈黙が流れた。
「・・・・・・百聞は一見にしかず。やってみればいいだろ」
「よし。じゃあ戻る。全部食べ終わった後で」
ファミレスを後にし、溝畑達は練習場へと向かう。放課後という事もあり他の学園生が疎らに路上にたむろしている。
不愉快な視線を浴びながら、練習場に辿り着いた時には既に夕陽が落ちかけ空には薄く暗闇が覆い被さっていた。
突然、大きな衝撃音と共に二人の目の前の扉が吹き飛ぶ。それは何かに押されるように真っ直ぐ二人に向かって飛んでいく。
「うわっ!!」
御影は大袈裟に真横に飛び込み、溝畑は斜めにジャンプし扉を交わす。
ガンガンガンと地面に擦れる音が数秒響いた後、聞き慣れた声が場内から聞こえた。
「え? あ。その、ごめんなさい」
「意外とアクティブだなお前」
平謝りする学恋の後ろから、荻野がひょっこりと姿を見せる。
「いや、これすげ・・・・・・あ。二人とも、もしかして危なかったか?」
「危なかった?じゃない!! 大怪我するところだったじゃんか!」
荻野に詰め寄る御影を尻目に溝畑は学恋に問いただす。
「で、どうしたんだこれ? 急にカンフーにでも目覚めたのか?」
「いや違う。聞いてくれよ。学恋さんの能力は瞬間移動だけじゃないらしい」
*
時間は少し前に遡り、練習場での一幕でそれが起きた。
「結構テンポよく飛べるようになったんじゃないか?」
目印を物から人に変え、何度か練習を繰り返すうちに明らかに瞬間移動の精度が上がっているのを学恋は身をもって感じていた。
無論休みを挟まなければ正確に飛ぶ事はできないため連発は不可能だったがそれでも着地時のグラつき減縮や能力発動までのインターバルの短縮など目に見えて成果が現れてきていた。
学恋は驚きを隠せなかった。漠然とした練習しかしてこなかったとはいえ半日足らずでここまで成長を実感できるようになるとは思ってもみなかった。
「いいんですか? 私の練習に付き合ってばかりで、貴方もやるべきことがあるでしょう?」
学恋はその場で中腰に構えている荻野を見つめた。的は大きい方がいいという事で両足を大きく開いている。プロテクターをつけている事もあり、椅子やカラーコーンよりも視認は楽だ。
「いやいいよ。今必要なのは一緒に戦ってくれる仲間だ。こうやって練習する中で学恋さんが自発的に参加する気になるかもしれないだろ? ようするに接待だよ接待」
「・・・・・・今のところ、その思惑は上手くいってますよ」
「マジかよ・・・・・・。ところで、一つ気になった事があるんだが」
「はい」
「止まっていないと能力は使えないのか? ほら、対抗戦だと当然相手も攻撃してくるわけで、それこそ走ったり横っ飛びしながらすんでのところで飛んで回避、っていう場面もあるだろ。だから動きながら能力を使えるといいと思うんだが、出来るか?」
「歩いたり走ったりしながら能力を使うって事ですか? どうでしょう。実は今までやった事は無いんです。そもそも何か行動しながらだと集中できなくてそもそも飛ぶ事が出来ません」
「一度やってみたらどうだ? せっかく不自由なく飛べるようになったんだし」
「うーん。そうですね。一度だけやってみます」
学恋は小さく屈伸すると、準備を始めた。
「・・・・・・動きながらは、流石に吐くかもしれないな」
「なんで戦意を削ぐような事言うんですか」
多少不安になりながらも学恋は練習場の隅まで行くと振り返り、精神を集中させる。
「ああ。ちょっと待って」
荻野は二つのカラーコーンを立てる。
「これ超えたら飛んでくれ。俺も万が一のために用意しておくから」
「はい。・・・・・・じゃあそこまで走って、それから飛んでみます。位置は、貴方の真横。その丸の位置です」
「よし。いつでもいいぞ。さぁ来い!」
まるで投手の球を受ける捕手のように、荻野は両手を叩いた。
その様子に学恋はクスリと小さく笑うと、床を蹴り走り出す。




