1章-20
「能力を使う事は漫画やアニメのように上手く行くわけじゃない。フィクションはあくまで架空の話。能力は自動で何でもかんでもやってくれる万能の力じゃない。
能力を使ってどうするのか、何に影響を及ぼしたいのかをちゃんと具体的にイメージしなければ、不発に終わったり予想外の結果を招く事になる」
御影が大袈裟に口をへの字に曲げる。それを意に介する事もなく溝畑は続ける。
「今行った事は能力全般に当てはまる事だ。瞬間移動に限定すると・・・・・・そうだな。学恋。お前は瞬間移動で飛ぶ時、どんな風に能力を使う?」
「どんな風に、ですか?」
「難しく考えなくていい。それに、感覚的でいい。言語化できないなら擬音語でも構わない」
「えーっっと。そうですね。練習の時はまずどの辺りに飛ぼうか着地点を大まかに決めます。その後は視線を着地点に向けて、自分のタイミングで飛びます」
「そうか。結論を言うと、それが原因だ」
「着地点の決め方が、という事ですか?」
学恋の言葉に溝畑は感心したように笑みを浮かべた。
「ああ。能力を使った後不調をきたすのは飛ぶ前のイメージと飛んだ後の情景にズレが生じて脳が混乱するからだ」
そう言うと溝畑はペンを持ったまま練習場の中央まで歩くと床にペンを走らせ大きな円を書き込む。
「おいおい。大丈夫なのかよ? 落書きして」
「後で消える」
荻野の注意を気にも留めずに、溝畑は二つ三つと床に円を書き加えていく。
そのうちの一つを指差しながら溝畑は話を続ける。
「大まかに着地点にアタリを取るって事は、まぁ大体こんな感じに範囲を決めるって事だ。だが」
溝畑は手招きし学恋を呼び寄せた。
書かれた円は二人入ってもまだ少し余裕のある大きさで、学恋自身が普段能力発動時にイメージする形とほぼ同じだった。
「この円の縁、真ん中、その中間。それぞれから見える景色は微妙に違うだろ。今は練習場だから分かりにくいが、これが外なら尚更だ」
「一緒ではないですけど、微々たるものですよ?」
「それが脳にとってはそうじゃない。考えてみろ。アタリをつけたとして実際にお前が飛びたいのは、ど真ん中だろ? つまりはこの円の中心だ」
「え? ちょっと!!」
溝畑は円の中心に向かって学恋を軽く突き飛ばす。
「瞬間移動を使う時、お前は無意識に今の位置から見える景色をイメージしている事になる。そして、能力発動時、ピンポイントで座標を指定していない事の弊害が発生する。着地点がブレて、左右前後に多少の誤差が生じる。となると」
溝畑は再び学恋を小突くと彼女は円の縁ギリギリまで下がる。二回目には流石の学恋も嫌気がさしたようで、冷ややか目を溝畑に向ける。
「実際に着地するのはここだ。見える景色は飛ぶ前と後とで微妙にズレている。だから脳が混乱して、それが身体中に波及する。これが、能力を使った後不調に陥るカラクリだ」
一瞬の沈黙が流れる。御影は感心したように目を丸くし荻野は驚きを隠せないでいた。
「すげぇな。ここまで断言するなんてよ」
「あくまで仮の話だ。あってるかどうかは実際に確かめないと分からない。が・・・・・・まぁ。ゲロ吐く可能性があるのにオレの前で能力を使え、というのも酷な話だ。ってわけでだ」
溝畑は先ほど荻野と御影が運んできたカラーコーンやパイプ椅子を等間隔で設置する。




