1章-2
「ただ、廃校を回避する手段が一つだけあって、六学園間での対抗戦に勝つことが出来れば、この学園の存続価値が認められ廃校が取り消されるそうです」
「学長がそう言ったのか? 都合が良すぎるな。リップサービスだろ」
「真偽がどうであれ、私達はそれに縋るしかありません。しかし、そもそも無理難題です。メンバーも全然集まっていませんし・・・・・・」
「そりゃそうだろ。砂漠で金探すようなもんだ」
対抗戦は毎年行われる六学園間での競技大会の事だ。五人のメンバーを選抜し、順番に能力を用いた一対一の勝負を行う。先に三本先取した方が勝つというルールだ。
それぞれの学園が選ぶ五人は基本的に各学園で最も能力の扱いに長けた五人が集められる。そのため前提として数字が小さい学園が圧倒的に強く、事実ここ五年ほどは一条学園が優勝旗を独占している。
「貴方の事を少し調べました。この時期に来る転入生という事で少し気になって。それで、貴方が一条学園に在籍していた昨年、一年生であるにもかかわらず対抗戦メンバーに選ばれた生徒だと知りました」
「よくご存知で。財閥の力は偉大ってか?」
溝畑はあっけらかんとした様子で呟いた。
懐かしい過去の記憶が脳裏をよぎった。優勝の喜びを分かち合う自分とチームメンバーの姿。だが、もう過去のものだ。
「転入早々無茶なお願いだという事は重々承知しています。しかしもう猶予がありません。対抗戦のメンバーに入ってもらえませんか? 貴方がいてくれれば」
「勝てるって? ・・・・・・どうだろうな」
溝畑の返事に学恋は顔を曇らせた。
「オレ一人出たところでどうにもならない。最低でもオレ以外に四人必要だ。他にいるのか? 物好きな奴が」
溝畑の問いかけに学恋は暗い顔をさらに歪めながら呟いた。
「・・・・・・一人だけです。期限までもう三週間もありませんが、揃う気配はありません」
「お前は? 出場しないのか?」
「いえ・・・・・・。私は役に立ちませんから」
「オレが出るのは別にいい。が、あまり変なことに巻き込まれたくはない。ただでさえここの教師のオレに対する印象は悪い」
「そういえば暴力事件を起こしてここに来たんでしたわね」
「表向きは。・・・・・・出場に関しては考えておく。案内どうも」
「いえ・・・・・・」
溝畑は軽く手を振ると、玄関へと向かう。
学校を出た時には既に夕日には影が差し始め、自転車のライトが目立ち始める時間帯になっていた。溝畑の帰路に着く足取りは重く背負っているリュックもずっしりと感じる。
『災難は立て続けに降りかかるもの』、そんな言葉はただの迷信に過ぎないと思っていた。しか現実は非常だ。
六堂学園の廃校、昨年までならその言葉を漫然と聞いていた事だろう。しかし今は違う。傍観者ではなく当事者なのだ。現状を打破しなくてはならない。学恋には煮え切らない返答をしたが、溝畑は対抗戦に参加するつもりだ。
ここで能力者人生に終止符を打つわけにはいかない。
問題は対抗戦で勝つにはメンバーの数が足りないこと。五人集まらない限りそもそも試合にすらならない。溝畑自身と学恋が口にしていた生徒が一人、合わせて二人が埋まっているわけだがあと三人工面しなければならない。
問題は山積みだ。六堂学園に通う生徒は他の学園の生徒よりも劣っている。能力の制御すら上手くできない者やそもそも既に能力者としての未来を捨てたものも多くいる。
そんなはずればかりの生徒の中から他の学園の生徒と肩を並べられるような、一芸ある生徒を探さなければならない。
「・・・・・・ちっ」
小石を蹴り飛ばしながら溝畑は一人悪態を吐く。
前途多難、泣きっ面に蜂。あまりの理不尽さに乾いた笑いが出た。初めて通る道を堪能しながら寮へ向かう最中、溝畑の視線はある一点に留まった。
寮周辺にある各学園ごとに設けられた練習場。大きな体育館のような建物では日々能力の練度を高めたいといった向上心を持つ生徒が自主トレに励んでいる。一条学園にいた時は毎日のように大勢の生徒が集い、練習には予約が必要になるくらいだった。
溝畑が興味を持ったのはそこが六堂学園にあてがわれた練習場だったからだ。六堂生の中にも危機感を持って自己研鑽に励む者がいるらしい。最も、他の学園の生徒が無断使用している可能性も捨てきれないが。
練習場を尻目に寮へと引き上げようと考えていたがなぜか目が離せなかった。何かに誘われるように溝畑は練習場の重い扉を開いた。
「次!! ・・・・・・またハズレかよ」
練習場内は思いのほか涼しく、頬を撫でる弱い風が心地よい。練習場にいたのは一人の男子生徒だった。ジャージに身を包み、右手には白いボールのような球体が握られている。よく目を凝らしてみたが詳細は判別がつかない。
彼は中腰になり、大きく振りかぶると白い球体を放った。彼の指先を離れ、球体は奇妙なスピンを帯びながら進んでいく。その先には壁に貼り付けられたダーツの的があった。
しかし、その球体は突然右に歪曲し、あろうことか溝畑の方へと飛んできた。
「おいおい」
「あ。まずい! 危ないぞ!! 避けてくれ!!」
溝畑の間抜けな声を切羽詰まった声がかき消す。
球体はスピードを維持したまま溝畑に向かい、そして・・・・・・。
溝畑に命中することなくまたも右にそれ、そのまま固まった糸くずがほつれるように空気の中へと消えていく。
「ああ悪ぃ。まさか俺以外に人が来るなんて思ってなかったからよ。ケガはないか?」
ジャージ姿の男子生徒はこちらに駆け寄ると大げさに頭を下げた。
「気にするな。・・・・・・その恰好。六堂の生徒か?」
「え? ああ。俺は荻野風真ってんだ。見たところ・・・・・・お前も六堂だよな? おかしいな。知らない顔だ。下級生か?」
荻野と名乗った男子生徒はまじまじと溝畑の姿を見つめる。お返しとばかりに溝畑も彼の姿を凝視する。スポーツ刈りの男子生徒は血色の良い顔付きでいかにも体育会系といった印象を受ける。
「溝畑才志だ。今日転入手続きを終えた転入生だ。知らないのも当然だ」
「転入生か。どうりで」
「ここで練習を?」
「ああ。毎日放課後にやってんだよ。・・・・・・対抗戦がある。練習しねぇとな」
「そうか。学恋が言ってた唯一のメンバーっていうのはお前の事か」
「ああ。だけど、メンバー集めが滅茶苦茶難航してて、いろいろ動いてはいるんだが、みんな乗り気じゃないみたいでな、その、大変だ。はぁ・・・・・・」
荻野は小さくため息を吐いた。
「珍しい奴だな」
「ん?」
「今日初めて六堂に足を運んだが正直、豚小屋みたいだった。みんな目が死んでる。お前みたいな前向きな奴は稀だ」
六堂生から感じた負のオーラが荻野からは感じられない。彼の表情からも悲観の色は余り見えない。
「そうか? まぁ決まってしまったものは仕方ねぇからよ。解決策が残ってるなら、当たって砕ける以外ねえだろ?そう思っただけだ」
「殊勝な心掛けだな。だが、五人揃わないなら砕ける以前の問題だ」
「そういう事言うなよ・・・・・・。転入生っつってたが、どこからだ?」
「一条」
溝畑が呟くと荻野は一瞬硬直した。
「おおう。そうか。貴族にでもあった気分だぜ」
「随分と大きく出たな」
「雲の上の存在だからな。俺にとっては・・・・・・。溝畑も六堂ってことは立場は俺と同じってことだろ? 対抗戦には出場するのか?」
「まぁ、このままだとオレも退学になるからな。だがオレが入ったところでまだ二人。後三人必要になる」
「三人か。遠いな」
荻野は弱気に小さくため息を吐く。
「嘆いても現状は変わらない」
「わぁってるよ。・・・・・・と言ってもなぁ。勧誘しても断られるばかりで、そもそも上級生は参加する意味がないしよ、厳しいんだよ現状」
廃校は来年度、今の三年生が卒業した後に行われる。つまり今の三年生は廃校に関して何もリスクを負わない。対抗戦に参加する意味がない。
必然的に一、二年生のみのチームで対抗戦を勝ち上がらなければならない。能力の練度は年齢に影響されることは少ない。子供の内から能力の制御をある程度行える者も珍しいわけではなく事実そういう優秀な能力者は一条学園をはじめとする上位の学園に入学する。
「結局はメンバーが集まるか、全部それにかかってる。他の生徒も廃校の意味を分かってないわけじゃないっつうのによ、みんな名乗り出ねぇんだ。もしかして俺がおかしいのか?」
「さぁな」
「・・・・・・やるか」
荻野は少し逡巡した後、立ち上がる。
「考え込んでも、埒が明かねぇ。・・・・・・練習するよ。お前は?」
「悪いが帰る。気分じゃない。明日また来よう」
「おう。またな」
軽く挨拶を交わし荻野と別れると溝畑は寮へと戻った。




