1章-19
「溝畑。よかった。ちょっと手を貸してくれ」
「助けが欲しいのはこっちの方だが、まあいい。おおよそ検討はつく。彼女についてだろ?」
そう言って溝畑はおずおずとこちらを見上げている学恋を指差した。
学恋は出て行くタイミングを逃したせいで居心地が悪いのか、はたまた溝畑が邪魔で動けないのかその場で縮こまっている。
「ああ。学恋さんの能力について、何とか出来ないかなと思ってな」
「具体的に」
溝畑が返すと荻野、御影の二人はコソコソと背を向けて何やら話し込む。
「いいか。オブラートに言うんだぞ。いいな」
「分かってるよ」
不安げに二人を見つめる学恋をよそに荻野は口を開く。
「学恋さんは瞬間移動使いらしいんだがその。瞬間移動した後に・・・・・・出るんだよ」
「アホか!!」
御影が強く荻野を蹴飛ばす。
「ああ。吐くのか」
「お前はお前でなんですぐ理解できるんだよ!!」
「能力者が制御ミスってゲロ吐くのはよくある事だ。不完全な能力制御は使用者に体の不調をもたらす。その中で一番目立つのが嘔吐、吐血、鼻血だからな。おっと・・・・・・」
溝畑は複雑な表情を浮かべる学恋に目をやると、少し砕けた口調で続ける。
「安心しろ。今日中になんとかなる。要するに瞬間移動時に反動が起きないようにすればいいんだろ?」
「そんなにすぐ出来るもの、なんですか? 私も試行錯誤しましたけど全く上手くいかなかったのに」
「まぁ見てろ」
溝畑は近くにあったホワイトボードを引っ張ってくると三人を座らせ、ペンを握った。
赤い線がボードを二つに区切る。左には丸を右にはバツ印をつけた。
「なんか授業みたいで嫌い」
悪態をつく御影をよそに溝畑は口を開く。
「はじめに聞いておきたいんだが、学恋。体調不良が起きるのは瞬間移動前か、それとも後か?」
「後、です。前になる事はありません」
「瞬間移動を使うと絶対に不調が出るのか?」
「いえ。ならない時もあるんです。でも、なぜかは分かりません。波のような偶発的なものだと思うんですけど」
溝畑は顎に手を当て少し考えた後独り言を呟くように小さく続ける。
「瞬間移動能力自体に欠陥があるわけじゃない。不調が起きないパターンがあるということは、不調時とそうでない時に何か明確な違いがあるって事だ。今からそれを調べて行く」
溝畑は学恋に押し付けるようにペンを渡す。
「出来る限りでいい。これまでの経験を思い出してみろ。丸が不調なし、バツが不調だ。場所、時間、健康状態。可能な限り思い返してパターン分けしてみろ。
例えば、学校で不調が出たのなら右のバツの欄に書き込む。逆もまた然り。時間帯や周囲の状況なんかも思い出すといい。・・・・・・これでおおよそは分かるはずだ」
「分かりました」
「じゃあその間に」
溝畑はボードの前で唸る学恋を放置したまま残った二人の方へ歩み寄る。
「やって欲しいことがある。今から言うものをここに持ってきてくれ」
「え? ああ。わかった」
「めんどくさいなぁ」
御影は不満げだったが、やがて二人は練習場の外へと出て行くと、ちょうど学恋が文字を書き終わった辺りで戻ってきた。
二人はパイプ椅子やカラーコーンといった備品を床に放り投げるとその場にへたりこんだ。
「これでいいのか?」
「ああ。学恋。書けたか?」
「はい。これで、いいですか?」
ホワイトボードには綺麗な丸みのある文字が付け加えられていた。
左の丸印には寮の自室。実家。
右のバツ印には練習場。能力検査時の大教室。路地。芝生。
「不調が起きる時と起きない時があるということは、一定の法則があるってことだ。この表を見て気づく事はないか?」
「左は自分の身近にある慣れ親しんだ場所で、右はあまり頻繁には行かない場所・・・・・・いえ。練習場はそこそこの頻度で行ってますからそうじゃないのかも」
「半分正解で半分不正解だな」
「なんかお前からもう全部答えが分かってますって雰囲気出てるぞ。さっさと教えてあげなよ」
御影が横槍を入れる。それとは対照的に荻野は静観の構えを崩さない心づもりのようだった。
「そうだな。元々教えるって言ったしな。先に答えを言うと・・・・・・この両者を区別するのは目印があるかないか、だ」
「目印、ですか?」
「ああ。まぁそれを説明する前に、そもそも能力発動がどのように行われるのか、理解する必要がある。これは瞬間移動に限らない」
捲し立てるように溝畑は言葉をつなげる。




