1章-18
自分だって、努力していないわけじゃない。今だって、めげずに毎日夜に抜け出しては練習を繰り返している。
上手くいかないのは、自分のせいなのだろうか。七星に入ってからも必死に自分の心を奮い立たせて腐らないように頑張ってきた。
いつかはトラウマを克服して一人前の能力者として社会に出る事ができると、今でも雛乃はそう信じている。
しかしその信念は日に日に揺らぎつつあり、あと少しで瓦解しそうだった。
雛乃は鞄を手に取ると背筋の張った姿勢の良い足取りで歩き出す。
何かきっかけが必要だった。
今の自分を根底から覆してくれるような、別次元へと連れ去ってくれるような、そんな何かが。
気がつくと、練習場の前まで辿り着いていた。
中からは言い表し難い雑音と、何かがぶつかる衝撃音が響き渡っており人がいるのは明白だった。
恐る恐る扉に手をかける。
「あの・・・・・・え?」
入った途端、風が頬を撫でた。既に練習していた二人の先客が慌ただしく何か言い合っている。
よく聞き取れなかったが、かろうじて一単語は拾うことができた。
「伏せろ!!」
反射的にその場にうつ伏せになる。次の瞬間何かが弾ける音とともに凄まじい強風が背中を駆け抜けていく。
辺りが静かになった後恐る恐る顔を上げると、見知った一人の男子生徒と知らない一人の女子生徒が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「あの。すみません。お邪魔でしたか?」
立ち上がり、制服についた埃をはらいながら雛乃は呟く。
「いや、まぁ。怪我が無さそうでなによりだな」
「怪我しなくてホントよかった」
二人は安堵の表情を浮かべる。
「来てくれたのか。学恋さん」
「ええ。その・・・・・・一人で練習してても改善しなかったので、人を頼ろうと思いまして」
「改善? 何の話? というか誰?」
静観していた茶髪の女子生徒がまじまじと雛乃を見やる。雛乃がたじろいでいると荻野が呟く。
「学恋雛乃さん。クラスメイトだ。瞬間移動が使えるみたいなんだが、その」
「その・・・・・・」
荻野はバツが悪そうに雛乃に目をやる。
「代償として、出るんだよ。だから克服したいらしい」
「まぁ要するに練習したいってことでしょ。いいじゃん。一緒にやればさ」
御影はあっけらかんとした様子で言う。彼女の掴めない態度が少し苦手だと雛乃は思った。
「さっきの話の聞くに、あれでしょ? 私達に何か協力して欲しくてここに来たんだよね?」
「ええまぁ。・・・・・・実は」
雛乃は出来るだけオブラートに包みながら、自らの能力について二人に説明した。
「瞬間移動するときに気分が悪くなって吐いてしまう、か。うーん。私達に出来ることあるの? ないでしょ」
「そう。ですよね・・・・・・」
御影の言葉に雛乃は小さく俯いた。悪い言い方だったと悟ったのか御影は宥めるように続ける。
「いや協力しないっていうわけじゃないんだけどさ、そもそも人の能力の事なんて分からない、自分の能力の事すらからっきしだからさ」
「そうなんだよな。そもそも六堂にいるのってそういう生徒ばかりだしなぁ。取り敢えず実験してみるか」
「実験、ですか?」
「うん。昨日みたいに一回ここで瞬間移動してみてくれ。それで一度経過を見てみよう」
「えっと・・・・・・ここで、ですか?」
「うん。ああ大丈夫だ。一回見てるから別にここでゲロ吐いても気にしねぇから」
荻野の言葉に雛乃は露骨に不快感を露わにする。それを察した御影が強く荻野の頬を小突いた。
「デリカシーないのかお前は!!」
「いって! 仕方ないだろ。言葉で説明するには限界があるんだからよぉ。俺も一度見ただけで何も分からないんだから。見せてもらうのが一番早いだろ」
言い争う二人をどこか遠い目で見つめながら、雛乃はため息を吐いた。
「やっぱり、帰ります」
「え?」
「迷惑でしたね。二人も自分のことで手一杯で対抗戦のために頑張っているのに、出ない私が相談に乗って貰おうなんて」
「いや。・・・・・・悪い。そういうつもりじゃ。ただ、学恋さんがメンバーになってくれればと思ってな。こっちはただでさえ人不足だからよ」
三人の間に気まずい空気が充満する。雛乃はゆっくりと立ち上がると二人に軽く会釈をして扉に手をかける。
しかし彼女が手を引く前に扉が開き、鞄を手にかけた大柄な男子生徒が立ち塞がった。
「ん? なんだ? 珍しい奴がいるな」




