1章-16
「制限時間は、無しでいいかめんどくせぇ。時間測るの面倒だからな。HP消し飛ばすかどちらかがギブアップするまでだ」
「わかった。いいよ。それで」
御影は能力を起動し、青い機械が腕に装着される。
「じゃあ行くぞ!」
荻野のかけ声と共に二人はそれぞれ攻撃体制に入る。
御影は持っていたカードをスキャンし銃を両手に携え、荻野に照準を合わせる。対する荻野は両腕を前方に突き出し大気の渦を形成し始める。
先手を取ったのは御影。風の形成が追いついていない隙を突き、一発ずつ弾丸を発射する。弾丸は実弾とは程遠いスロースピードで飛んでいく。
それらは綺麗な直線を描きながら荻野の元へと向かうが、彼に着弾する寸前で強風に煽られたかのようにあらぬ方向へ吹き飛んでいく。彼の周りに漂う風が壁となって銃弾を受け流したのだ。
「おい! 弾くなよ。それズルでしょ」
「真剣勝負に卑怯もクソもあるか」
御影の愚痴に困惑しつつも、荻野は生成した風の球を御影目掛けて投げ込む。ドッジボールほどの大きさのそれは奇妙な弧を描きながら彼女を襲うが、直撃する事はなくすぐそばを掠めるように通り抜けていく。
「ノーコンじゃん。下手くそ」
「うるせぇ。二回に一回当たればいい方なんだよこれは。本命はこっちだ」
そう言うと彼は再び手を前方に突き出し、風を起こし始める。今度はさっきよりも大きく、不安定な渦が手元に集まり巨大な気弾を形取っていく。
丸とも角張っているとも言い難い歪な風の球体はどんどんと巨大化し、生き物のようにウネウネと身を捩る。
御影は懸命に銃弾を放ち続けるが、荻野を捕らえるには至らない。
「厄介だな。それ」
御影は能力を一度解除するとまた新たに一枚のカードを取り出した。
棒人間が手を前にかざし何かを放っている、そんな抽象的にしか表現することが出来ない奇妙なイラストが彼女の頭を悩ませる。
「変身! ・・・・・・出ない」
カードをスキャンしても御影の身体に変化は見られない。
「何やってるのか知らねぇが、遠慮しねぇぞ」
そう言って荻野は半身になりながら発射、もとい投球態勢に入った。
同時にガチャリ、と練習場の扉の開く音が響く。それは吹き荒ぶ風音の中で微かに聞き取れる程度の小さなものでしかなかったが、そのゆっくりと扉が開き一人の女子生徒が姿を見せた。
「あの・・・・・・。え?」
来訪者の声は二人に届く事はなく風にかき消される。
「ちょっ! 誰か来たって! それ消せ!」
「無茶言うな。急にそんな事出来るわけねぇだろ!」
「言ってる場合じゃないだろこのバカ! 早く消せ! お前の能力だろ!」
二人はパニックになった。二人はプロテクターを装着しているから問題ないが、生身の人間に攻撃をぶつけたらタダでは済まない。
荻野は咄嗟の判断で気弾を真上に持ち上げるように飛ばす。
「誰でもいいからその場に伏せろ! 拡散するぞ!」
「え? ちょっと・・・・・・」
「うわっ!!!」
直後、暴力的な風の塊は天井を吹き飛ばし、周囲を巻き込みながら拡散し、消えていく。
しばらく辺りは静寂に包まれていたが三人はおずおずと身を起こすと、罰の悪そうな声が響いた。
「すみません。お邪魔でしたか?」
学恋雛乃は申し訳なさそうに頭を下げた。




