1章-15
練習場へと向かう中SNSを見ると、総合運動都市関係のニュースがトレンドに挙がっていた。内容は例年通り今年の対抗戦は地上波による全国放送が行われ期間中は一般の観客に向け都市全体が開放される見込みだ、というものだった。
対抗戦は単なる生徒達の日々の努力の成果を披露する力試しの場というだけではない。むしろ興行としての役割の方が大きい。
日本は能力者の育成に多額の費用を費やしており、その多くは国民の税金によって賄われている。能力者の卵である学生達は学費や生活費が支給され、不自由ない生活を送っている。
しかし、能力者への優遇措置を快く思わない者も一定数いる。ガス抜きは必要だ。そのため能力者を活用したエンターテイメントとして対抗戦を一般公開する事になっている。要は国民に向けたポジティブキャンペーンだ。
今年は例年よりも注目が集まっているようだった。その理由はもちろん六堂の廃校だ。廃校を阻止するために対抗戦を戦う生徒達、という構図は分かりやすく世間の関心を高めていた。
御影の沈んだ空気はより一層濃くなった。全国放送されるという事は自分の負ける姿を晒されるという事だ。気分はさながらコロッセオに挑む囚人の気分だった。
練習場に着くと、中からピシュンッ!と弓を射るような短い音が聞こえてきた。中に入ると、強風が彼女の体を襲った。
「うわっ!」
練習場の中心で佇む荻野の頭上には巨大な風の塊が渦を巻き、それは常に形を変え歪んだり尖ったり安定を失っている。
「ん? ・・・・・・おわっ!」
荻野は御影に気がつくと、急いで能力を解除した。集まっていた風はガラス瓶が割れるように砕けて空気中へと散っていく。
その衝撃でバランスを崩した荻野は大きく尻餅をついた。
「いっつ・・・・・・」
「なにやってんのさ・・・・・・」
「急に現れないでくれ。ゾッとするだろ」
荻野は立ち上がり、身体をはたく。
「お前も練習しに来たのか?」
「えー。あー・・・・・・。なんか、じっとしてると頭がおかしくなりそうだったから、ちょっと」
「だよなぁ。俺もだよ。引きこもってるとさ、嫌な考えばっか浮かんで、ならせめて身体動かそうかと」
「なぁ。荻野はなんで対抗戦に出るんだ?」
御影は暗い表情で問いかける。
「ん?」
「なんで出ようと思ったんだ?」
御影の言葉に荻野はしばし逡巡した後答えた。
「家庭的な問題でさ。どうしても退学になるわけにはいかねぇんだよ。だから、出る、というかそれ以外に選択肢が無いんだよ」
「そっか。デリカシーなかった。ごめん」
「構わねぇよ。お前も一緒に戦う仲間だからな。話すに値する相手だ」
そうだ、と荻野は小さく独りごちた後、二人分のプロテクターを抱えて戻ってきた。
「よかったらよ、実践形式で練習してみないか? やっぱぶっつけ本番だと上手くいかないと思うんだよな。少しでも雰囲気慣れしておくべきだと俺は思う」
「え? いや、いきなり言われても・・・・・・」
「練習するんだろ? これが一番手っ取り早い」
御影は渡されたプロテクターと荻野の姿を何度か見やった後、首を縦に振り二人はそれぞれ両端に陣取った。




