1章-14
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ピピッ、ピッ。ピピッ、ピッ。ピピピピピ。
「うるっさい!」
デジタル時計を思いっきり殴りつけると、御影奈央は布団から這い出るように抜け出した。
時刻は午後二時過ぎ。
シャッターを開けると眩い昼の日差しが差し込み、思わず御影は目を細める。
今日は平日だが、御影はこの時間に起きる事が当たり前になっていた。数ヶ月前から御影は学校に通っていない。
六堂学園に落とされて以降、自己研鑽に対する意欲などすっかり抜け落ちてしまった。
好きな時間に起き惰眠を貪り、好きな時間に食事をし好きなゲームを好きなだけする。およそニートのような生活がいつしか彼女の日常になっていた。
御影はテーブルに腰掛けるといつものようにケースから何枚かのカードを取り出し、まじまじと見つめる。
一枚一枚のカードにはそれぞれ違ったイラストが描かれている。それらはどれも抽象的で古代エジプトの壁画のような単純な線で構成された図だった。
御影はそのうちの一枚をまじまじと見つめる。棒人間が両腕にL字型のオブジェクトを携えたイラスト。このカードをスキャンすると二丁拳銃を扱うことが出来る。
御影の能力に明確な詳細を付けることは不可能だ。本人ですら自分の能力がなんなのか説明がつかない。初めはシンプルに武器を作り出す能力かと思いきや、カードは年を追うごとに少しずつその数を増していった。
能力を扱うにつれ徐々にその全貌が明らかになり始めた。大まかに表すとカードをスキャンする事でそのイラストに書かれた能力を使う事ができる。
しかし、彼女が今使えるカードは二丁拳銃の物だけだった。他のカードを使おうとしても、何も起きない。イラストを見てもそれが何の能力であるか検討もつかない。
二丁拳銃にしても、銃を具現化したはいいものの弾が真っ直ぐに飛ばず実用性は皆無だった。そんな彼女が六堂に落とされる事になったのは必然ともいえた。
「はぁ・・・・・・」
手にしたカードをシャカシャカとシャッフルしながら、御影は廃校について、一人想いを巡らせる。
廃校。その言葉を聞いた時、彼女の頭の中には驚愕よりも納得の気持ちが強かった。悔しさやもどかしさもあったがそれ以上に仕方がないという諦めが勝っていた。
彼女自身、元々は六堂学園の生徒を馬鹿にする立場にいた。
能力者のくせに自分の能力もまともに扱えない無能の集まり。それがかつて彼らに抱いていた感情だった。かつての自分と彼らの間には障子の壁ほどの薄い幕しか存在していなかったというのに。
六堂学園に編入して初めて、御影は彼らの気持ちを理解する事が出来た。生徒達は皆努力しないのではなく努力の仕方が分からない。
ルールを知らなければスポーツが出来ないように、御影含む六堂の生徒は皆自分の能力とどう向き合えばいいのか分からず、臭いものには蓋をするように目を背け続けている。
廃校を告げられても、他の学園に編入するため研鑽を積むのではなく自暴自棄になり現実逃避する生徒が多い事がその証拠だった。
御影も例に漏れず、その中の一人だった。
溝畑というイレギュラーな存在に出会い多少その気持ちは揺らぎ始めているが、それでもまだ能力者としての自分に疑いを持ち続けている。
動きやすいジャージに着替え、鏡に映る自分の姿を見る。
ボサボサの髪の毛に寝起きの覇気のない顔つき。入学当初の自身と高揚感に溢れていた自分とは似ても似つかぬ姿がそこにはあった。
「はぁ・・・・・・。行くかぁ」
おぼつかない足取りで玄関を出る。




