家を買ったよ
毎回サブタイトル考えるのがめんど…辛くなってきた。
「つ、次っ!」
「はいっ!11413番、クリス!身体強化使います!」
クリスもホムと同じように返事を返すと、身体強化魔法を発動させた。
身体強化魔法は、獣人が得意とする魔法で、身体能力を何倍にも引き上げる効果がある。クリスはその身体強化により、4倍に引き上げることができるようになっていた。
「いきます!」
ダッシュして的を殴る。やったことはそれだけだ。だが、元々敏捷能力の高い猫獣人が能力を4倍に引き上げると、それは普通の人間には目で追うことすら難しくなる。その結果。
バッガーン
試験官ですら開始線から目を動かせぬうちに、的は粉々に砕け散っていた。殆どの受験生がその音で的の方を見るが、数少ない人間だけが音の前に的の方を向いていた。クリスの挙動が見えてたからだ。そして、ホムも見えていた一人だった。
「クリスちゃん、すごい!」
「ありがとうございます。ホムちゃんも凄かったですよ」
「いやー、私のなんてただの力任せだし、制御がちょっと甘かったしね」
きゃいきゃいと話すホムとクリス。周囲はドン引きしているか、「てぇてぇ…」とか訳の分からないことを言っているかのどちらかだった。
次に受けるのは魔力量の測定だ。これは測定用の水晶に魔力を込める事で発光する光の強さで判定するものであるが、ホムはちょっと魔力を込めたところで試験官からストップがかかり、クリスもかなり光が強かった。
こうしてホムの入学試験は終わりを告げ、ロビーに戻るとそこにはオーバンドーが待っていた。
「どうでしたか、ホムさん。試験の手応えは」
「うーん、多分大丈夫だと思うよ。筆記も実技も。あっ、この子クリスちゃん。お友達になったんだ!」
「ど、どうも初めまして。クリスと言います」
「ホムさんの身元引受人のオーバンドーです。クリスさんは獣人の村からこちらに?」
「はい。今は簡易宿泊所に泊まってます」
「せっかくホムさんと仲良くなれたのですから、止まり木亭に移られてはどうですか?
勿論こちらからお誘いしたのですから宿泊代はもちますよ」
オーバンドーが強く勧めるも、クリスはそれを丁寧に断って簡易宿泊所へと戻っていった。ホムは少し寂しそうにしながらも、また再会できることを信じて見送るのだった。
「ホムさん、今日の依頼はもう終わられたんですか?」
「うん、終わったよ!そして、これは森で狩ってきてた分!」
ホムは合格発表までの一週間、元気に10級依頼をこなしていた。そして、時たま森で狩ってきていた魔物の買い取りをしてもらっていた。
「この魔物でしたら、1匹金貨2枚くらいいけそうですね。もうこの街で家でも買った方が宜しいのでは?そのくらいの蓄えはありそうですが」
「そっかー、ずっと宿に泊まるのももったいないかもね。うん、家を買おう!どこで聞いたらいいのかな?」
「それでしたら、こちらでも承っておりますよ。あとは商業ギルドですかね」
「あちこち行くのめんどいし、ここで見せてもらえるならここで!」
「はい、ではこちらへ」
ホムは受付のお姉さんについて2階の個室へと向かった。別に永住するわけではないが、森以外に拠点が欲しかったのだ。
「では、ホムさんのご希望はございますか?」
「うーん、お風呂は絶対条件かな。立地はあんまり変なところじゃないならどこでもいいよ」
ホムの希望はお風呂だけだった。やはり風呂なしの生活は考えられなかったのだ。
「そうですねぇ。お風呂がついている物件でしたら、この3つになりますね」
受付嬢が提示した物件は、スラムに近く中々にボロい物件、広いがオーバンドーの店やギルド、学園からも遠い物件、そしてすごく広いがこの近くの物件であった。
「3つとも白金貨100枚以下で購入が可能です。下見に行きますか?」
「いえ、最後ので契約します」
白金貨100枚とは、金貨で言うと1000枚になる。ホムはちょいちょい森の魔物を買い取りに出すことで、金貨1000枚分を貯めることができたのだ。冒険者ギルドはそれらを商業ギルドや他の街の冒険者ギルド等に売って、資金を回していたのだった。
「では、これでこの物件はホムさんのものになります。清掃作業等がありますから、3日後に鍵を受け取りに来て下さい」
「はい、わかりました。学園の合格発表の日と同じ日なので、合格発表見てから来ますね」
無事に契約を終わらせたホムは止まり木亭に戻ると、3日後に引き払う手続きをしてお風呂で疲れを癒すのだった。
「11414番、11414番…。あった!」
学園の合格発表の日、ホムは学園の掲示板の前にいた。周囲には同じように受験生達がいる。自分の番号を見つけてホムと同じように喜ぶ人もいれば、見つけられずに項垂れる人もいる。ホムはクリスも合格している事に気づき、上機嫌で合格手続きを済ますと、冒険者ギルドに向かうのだった。
街中で偶然会ったクリスは、合格したにもかかわらず沈んでいた。思わずホムは声をかけるのを躊躇ったほどだ。
「クリスちゃん!どうしたの!?」
「あ、ホムちゃん…」
どうやらクリスの所持金がそこをついてしまい、簡易宿泊所にすら泊まれなくなってしまったらしい。それまで生活費を切り詰めてきたが、10級依頼の依頼達成金だけではやっていけなかったのだ。
「そっか…。でも合格したんだから学園には通いたいよね。それなら、私の家に住まない?」
「ホムちゃんの家?」
「うん、家買ったんだ!この街に来る前に、森で狩った魔物をギルドで売ったら家が買えるくらい溜まってたの。これから鍵をもらいに行くから、一緒に行こ!」
「家を買えるくらい魔物を狩ったんですか…。でも、ご好意に甘えるわけには」
「良いって良いって!私まだ物件見てないけど、結構広いらしいから部屋も余るだろうし、是非ともクリスちゃんにも使って欲しいの」
合格手続きをしていないというクリスと学園に引き返して合格手続きを行った後、冒険者ギルドへ向かう。クリスはホムに手を握られ、強引に引っ張られている。
「ホムでーす!鍵、受け取りに来ました!」
物件を紹介してくれた受付嬢の前に行き、そう告げる。受付嬢はにっこり微笑んでから後ろの事務員と言葉を交わすと、そのまま受付から出てきてしまった。
「はい、それではホムさんの購入された家を案内しますね」
「地図もらえれば私達だけでも行けるよ?」
「この屋敷は結界が張られているの。だから、新しい使用者を登録するために私達が一緒に行く必要があるのよ」
「そうなんだ。ん?屋敷?」
「はい、ホムさんが購入されたのは、以前とある上級貴族が別邸として使っていたお屋敷になります。ですので立地も良いし、お風呂もあるんですよ」
ホムの購入した家は、すごいお屋敷だったらしい。その事実を購入後に知ったホムとクリス。ちょっとビビりながらも受付嬢と一緒にそこへ向かって行った。
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