試験を受けたよ
「オーバンドーさん、お世話になります」
トラディアルに到着した翌日、デビッド達にオーバンドーの店へと案内されたホムは、ペコリと頭を下げた。オーバンドーに学園の入学試験について調べてもらう事になっていたためだ。
「いえいえ、このくらい手間でもありません」
オーバンドーが手をヒラヒラさせてにこやかに答えた。入学試験については既に確認しておいたようだ。
「あまり余裕はありませんが、願書の受付が明後日の締め切りでしたので、ホムさんの名前で提出しておきました。あと、試験は15日後に学園で行われます。過去の問題集も用意させて頂きましたので、ひとまずそれで現在のホムさんの学力をみましょう」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
再度深々と頭を下げるホム。
3年間シルキーに勉強させられたとは言っても、500年前の知識である。現在とは色々と異なるところもあるだろう。特に歴史とか、地理とか。
有り難く過去の問題集を受け取って宿に戻ると、試験内容の確認から始めるのだった。
そしてたまに10級の依頼をこなしながら過去問を解いていったホムは、学園の入学試験の日を迎える事になった。
この日は保護者役として、オーバンドーが一緒についてきてくれた。身寄りがないホムにとっては大変ありがたい存在だ。
「では、私はここのロビーで待ってますから頑張ってきてくださいね」
「はいっ!本当にありがとうございます!」
オーバンドーとロビーで別れたホムは、試験会場である教室に入ると、自分の受験番号が書かれた席へと向かった。既に前後の席には受験者が一生懸命最後の詰め込み作業をしている。
ホムは自分の席に座ると、ふと前の席に座る女の子の頭に視線をやった。彼女の頭には三角形の塊が2つ、時々ぴこぴこ動いている。猫耳だ。もふもふだ。
「っ!」
思わず大声で叫びそうになってしまったが、すんでのところで我慢することができた。だが、そのもふもふにかける情熱が迸ってしまったのか、その猫耳少女がビクッとする。
「あ、驚かしちゃってごめんね」
ホムが小声で謝ると、猫耳少女は少し振り返って軽く頭を下げ、再度前を向いた。どうやら少々緊張しているようだが、今ので少しほぐれたようである。
「はい、時間です。筆記具を置いて下さい。次は実技試験の為、第2訓練場に移動します」
試験官の合図で筆記試験が終了した。ホムは一応全ての回答欄を埋めたが、正解かどうかはわからない。まぁ、多分大丈夫だろうとは思っているが。
そして、前の席の猫耳少女は少々落ち込んでいた。どうやら筆記試験がうまくいかなかったようだ。
「ねぇ、筆記試験はどうだったの?」
「…あ、後ろの席の…。うん、ギリギリだとは思うけど、実技で取り返せるくらい」
「へぇ〜、実技が得意なんだ。私も〜」
ホムがにっこり笑うと、猫耳少女もはにかみながらも微笑んでくれた。耳や尻尾、おかっぱの髪の毛は黒く、艶がある。金色の瞳を持ったあどけなさの残る美少女の微笑みに、ホムのテンションは爆あがりだ。そして仲良くなった二人はそれぞれ自己紹介をし、その流れで雑談を続ける。
「実技試験って、どんなことすればいいんだろ?」
「え、ホムちゃん実技試験の内容知らないで受験してたの?」
「うん、筆記試験の勉強にばっかり集中してて、実技試験については全然調べもしてなかった。お世話になってる人にも問題ないって言われたし」
ホムは実技試験の内容を知らなかった。オーバンドーが「ホムさんなら実技試験も余裕で合格できるから、気にする必要はありません」と言ってくれたのもあるし、先程言ったように筆記試験の方を集中して勉強しないといけなかったからだ。
「まぁ、戦いに関しては、それなりに動けるよ。森で狩りもしてたし」
「ホムちゃんも狩りしてたんだ。私も狩りで鍛えたんだ!」
「へぇ、クリスちゃんも実践派だったんだね。私と一緒だ」
「?実践派って?」
「私達みたいに体動かすのが好きな人達の事。あまり気にしなくていいよ〜」
猫耳少女ことクリスは納得いってない感じではあったが、ホムの言葉は理解できたようだ。二人はそのまま他愛もない会話をしつつ、第2訓練場に到着した。
「受験生はこっちに並ぶように!まずは魔力量の測定をする!その後、的に向かって得意な魔法を使った攻撃をしてもらう」
実技の試験官であろう、ガタイの良いおっさんが大声で説明している。その内容は、確かにオーバンドーが言う通りホムにとっては全く問題がないものだった。
「クリスちゃん、それじゃここに並ぼ?」
「うん、ホムちゃん」
ホムとクリスは、そのまま列の最後に並ぶ。様々なところから受験生が来ているので、多分複数の受験会場に別れているのであろう。それでも筆記試験の時に教室で見た人数よりは明らかに多いので、2つか3つの教室の受験生を一つの実技試験会場に割り振っているようだった。その結果。
「うん、これ終わるの結構遅くなっちゃうね」
測定が遅々として進まない。このままでは試験時間をオーバーしてしまう。そう思っていたホム達に、試験官が後ろの方から的あての試験を開始すると発表した。つまりホムとクリスは最初に的あてをすることになるのだ。
「こちらで試験を受ける者は、受験番号と名前、そして攻撃方法を言うように」
「はいっ!11414番、ホム・クルス!水魔法で攻撃します!」
ホムは一番被害が少なそうな水魔法を使うことにした。的の前に立ったホムは、意識を集中すると、無詠唱で水の弾丸を発射した。
「水弾!」
ホムの発射した水の弾丸は的を貫くばかりでなく、訓練場の壁を盛大に破壊してしまうのだった。
「おぃ、訓練場って結界はってあったよな?」
「ああ、確か上級魔法でも傷一つつかないのが自慢って聞いてたぞ」
「「じゃああの水弾って上級より威力が強いって事か!?」」
周囲の受験生や試験官がひそひそ話しているのがホムにも聞こえる。ホムとしてはあれでも十分に威力を落としたつもりだったのだ。それに水弾は水の魔法の中でも初級に位置し、お世辞にも強い威力を発揮するようなものではない。
つまり、ホムのもつ魔力の多さと制御の甘さが判明してしまったのだった。
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