色々売り払ったよ
しばらくデビッド達とソファに座って待っていると、ひと段落ついたのか、ギルマスがやってきてホム達の向かいに座った。
「で、街道に盗賊が出たそうだが」
盗賊についての説明をデビッドが行う。30人という人数にギルマスの眉がピクリと跳ね上がったが、全員捕縛済みという説明を聞いたところで元に戻った。
「ご苦労だった。そっちの嬢ちゃんも」
「いえ、森の中の魔物に比べたらなんて事はありません」
「「「「「は?」」」」」
まさか魔物と比べるとは思ってみなかったのか、ホム以外の全員が何を言っているんだと驚きの目を向ける。
「いや、森ですと盗賊なんかより強い魔物なんてゴロゴロしてますよ」
「そりゃそうだが…。もしかして魔物の討伐とかできるのか?」
「勿論です。あ、こっちにくる途中で狩ったのがあるんですけど、買い取りってできますか?」
「あぁ、盗賊の話は終わったし、買い取りカウンターに向かうか?」
「…カウンターよりは解体場に直接行った方がいい気がする。ホム、その魔物ってどのくらいあるんだ?」
「うーんとね、ロックボアが20頭でしょ、ワイバーンが13匹に、ハイオークは15頭、オークは387頭で…」
「わかった。とりあえず解体場に行こう」
「?はーい」
もう既に疲れたような感じのギルマスに連れられ、デビッド達とホムはギルドの解体場に向かった。
「それじゃ、ここに買い取りして欲しいのを出してくれ。だが、全部じゃなくていい」
「んー、とりあえずこんだけでいい?」
どさどさっとホムがインベントリから出したのは、ホムとしては使い所があまりないワイバーンであった。
(こりゃ4級どころか、3級でも良いくらいだが…。それより買い取りの金が足りん)
ギルマスは頭を抱えた。ホムの狩ってきた魔物にちらほらと上級にランクされる魔物があったのだ。
冒険者のランクは最初は見習い扱いの10級からで、その後は知名度と評判、そして討伐できる魔物のランク等で以下のように分けられている。
特級:世界的な脅威に立ち向かい、万人が認めた冒険者に贈られる一種の名誉ランク。
1級:国の脅威に立ち向かい、その国が認めた冒険者
2級:竜種討伐に成功し、複数のギルド長が推薦した冒険者がなる事ができるランク。
3級:上級の魔物討伐を複数回成功させた冒険者がなる事ができるランク。
4級:中級魔物討伐を複数回成功させ、上級魔物討伐が可能とギルドが判断した場合に試験を受けてアップするランク。
5級:中級魔物の討伐が可能とギルドが判断した場合に試験を受けてアップするランク。
6級:対人戦闘も行え、護衛任務もできるとギルドが判断した場合に試験を受けてアップするランク。
7級:数日の野営が必要な採取、討伐依頼を行え、ある程度の魔物の討伐が可能とギルドが判断した場合に試験を受けてアップするランク。
8級:近場の採取で問題がなく、日帰りでの採取及び低ランクの魔物を討伐する事が可能とギルドが判断した場合に試験を受けてアップするランク。
9級:街中である程度顔を売り、ギルドが問題ないと判断する事でアップするランク。
10級:ギルドに登録したら必ずなるランク。
特級から2級は一種の名誉ランクと言え、実質3級が現在のところ最上位の冒険者となっている。
そして、ホムはその3級に値する強さを持っている。
ギルドの規定で最初は必ず10級からで、あとは試験とギルドの判断でランクアップしていく形だ。
尚、試験はほぼ毎月行われるが、合否関係なく受けたら3ヶ月は次の試験を受けることができない。そして10級は適正審査も兼ねているので、最低3ヶ月はランクアップすることはない。
「住民との軋轢を避けたり無法者を生み出さないためとはいえ、中々面倒な仕組みだよなぁ」
ギルマスは深いため息をつくと、混乱する買い取り部門の職員に混じって買い取り査定を行った。
「ほらよ、ワイバーンの買い取り額の見積りだ。問題なければこれを受付に持っていって換金してこい」
査定の結果、金貨130枚になった。この世界の現在の貨幣は、以下のようになっている。金貨130枚は、約1億3千万円だ。ホムはいきなり超大金持ちになってしまった。
鉄貨 1円
大鉄貨 = 鉄貨10枚 10円
銅貨 = 大鉄貨10枚 100円
大銅貨 = 銅貨10枚 1000円
銀貨 = 大銅貨10枚 1万円
大銀貨 = 銀貨10枚 10万円
金貨 = 大銀貨10枚 100万円
大金貨 = 金貨10枚 1000万円
白金貨 = 大金貨10枚 1億円
また、貨幣の単位はゼニーで、鉄貨1枚が1ゼニーになる。
「えーっと、全てを金貨で支払うと持ち運びが大変だから、口座に入れておきましょうか?」
「口座?」
口座とは冒険者カードに紐付けされた冒険者ギルドをはじめとする各ギルド共通の口座の事である。利息はつかないが現金を持ち歩かなくてもよく、ギルドの窓口で預入や引出しが可能だ。ホムは勿論口座に入れておくことにしたのだが、手持ちが全くないのも困るので、金貨5枚分だけを現金でもらうことにした。
「全く、普通は金貨10枚も稼ぐのに、6級でも日帰りじゃできないってのに」
呆れた顔のデビッドと共に、今度は宿へと向かうのだった。ホムとしては学園に通う間、宿住まいよりも家を購入した方が気を遣わなくてすむ。だが既に日も傾いてきているので、家探しは入学試験後にして今日は宿に泊まろうと考えたのだ。
「ほら、ここが俺たちがいつも泊まっている宿、止まり木亭だ。値段の割には飯も美味いし清潔だ。それに風呂もある」
「お風呂あるんだ!じゃあここにする!」
500年前の常識では宿には風呂はなく、タライにお湯をもらってきて濡れタオルで体を拭くくらいしかないというのだったので、あまり期待していなかったのだ。それが風呂があるというのなら文句はない。
「あら、デビッドさんお帰り?そしてそこのお嬢ちゃんは?」
「ああ、先程ギルドに寄ってきたところだ。そしてこの嬢ちゃんは新たな客だ」
「そうなの!歓迎するわ!私はここの看板娘、キャスよ。お嬢ちゃん、お名前は?」
「あ、ホムって言います」
「ホムちゃんね。それじゃ宿泊の手続きするから、こっちに来てくれるかしら」
唐突に現れたのは、ここの看板娘と自称するキャスという女の子だ。年は15、6くらいだろうか。自称するだけあって可愛らしく、またハキハキした印象を受ける。
ホムはとりあえず10日宿泊する事にし、銀貨1枚を払った。どうやら1泊大銅貨1枚の計算のようだ。
食事は朝食は宿泊費に込みになっているが、昼食、夕食は別料金となる。また風呂に関しては、午後から深夜まで入れるが、あまり大きい風呂ではないので空いていたら早目に入るのをお勧めされた。
こうしてホムはとりあえず一晩の宿を確保することができた。
なお、オーバンドーへはデビッドが連絡してくれるそうなので、ホムは安心して風呂へと向かうのだった。
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