調査しました
うむむ、今回もかなりギリギリ。
館を出て4時間後、ホムは森の木々の間からその洞窟の入口を監視していた。本来3時間で到着できるところを1時間多くかかってしまったのは、魔物の数が予想よりもかなり多かったせいである。
「うーん、見張りは特になし。出入りする魔物もなし。ただ、魔素は明らかに洞窟内に流れ込んでるね」
魔素の流れもかなり早く、激流と言っても良い。人や魔物から漏れ出る魔力も一緒に流れて行っているが、この距離では何も対策を行っていなかった場合強制的に魔力を吸い取られてしまうだろう。
だが、ホムと38号は普通ではない。無尽蔵と言っても良い魔力の多さで多少は吸い取られても行動に影響は出ないし、そもそも魔力を漏らしていない。そんなもったいない事はしないしできないのがホムンクルスであるホムなのだ。
体内の魔力制御を完璧に行えるホムと、その制御データをシルキー経由で移植された38号は、吸い取られようとする魔力を体内に留めておく事が全く問題なくできていた。
しばらく入口の監視を続けていたホムであるが、状況に変化がないと判断して中に突入してみる事にした。入り口だけ見つけて終わりはホム自身面白くないのだ。どうせならもう少し楽しみたいのである。
洞窟に突入したホムであるが、少し後悔していた。魔素がものすごい勢いで奥に流れていっているせいでもあるが、魔物がいないのだ。多分ダンジョンが生み出そうとしても、その前に魔素が流れてしまい実体化できないのだろう。そのためか、やたらと罠が多い。
「今度は床!どんだけ罠が仕掛けられてるの!?」
ひどいところでは、直線の通路を3歩くらい歩くと次の罠が現れ、そこをクリアしてもまたすぐ次の罠という箇所があったりもした。幸いにもクイズやとんち形式の罠は無かったが、そんなのがあったらホムは怒りのあまり周囲をぶち壊しながら進んだことだろう。
既に階層は10階層に達していたが、それでも魔物は発生していない。魔素の流れも速い上に濃く、普通の冒険者では体調を崩してしまうだろう。そんな中をホムは奥へと進んでいた。ダンジョン・コアの波動を捉える事ができたからだ。
ダンジョン・コアはあくまでもダンジョンの管理を行う事が目的であるため、別に人類に対して敵対しているわけではない。ただ、ダンジョンを好き勝手に荒らし、ダンジョン踏破のついでとばかりにコアを破壊していく冒険者が容認できないだけである。
そんなダンジョン・コアの助けを呼ぶような波動を捉えたホムは、緊急にコアを保護する必要があると判断して最下層へと向かっているのだった。
「こんなところに人が!」
ダンジョン・コアの脇には、黒いローブを着た壮年の男が立っていた。彼の前には何やら機械らしきものがあり、それが魔素を集めているのがホムには理解できた。
「おや、ここまで来れる冒険者がいるとは思いませんでした。ですが、時既に遅しですね」
壮年の男はニヤリと笑うと、機械の方へ手を翳した。インベントリに入れるつもりなのだろうか、先程までの魔素の奔流は既に停止している。
「それは置いていってもらおうかな」
ホムの抜き打ちが壮年の男の手に襲いかかる。学園に通うようになってから知ったのだが、インベントリへモノを収納するには手などを翳して意識を集中する必要があるのだ。いきなりのホムの動きについてこれなかった壮年の男の手は手首から斬り飛ばされ、機械もインベントリに収納することに失敗してしまった。
「ちっ!こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」
「それは残念だったね」
先程までの余裕は男にない。何か行動を起こそうとすると、すぐに斬られる未来しか見えなかった。
「少し寝ててもらうよ」
「ちぃっ!」
逃げようとする間も与えず、ホムが脇差で峰打ちをする。男はそのまま気を失って倒れるが、それをホムは片手で受け止めて、38号と一緒に簀巻きにしてしまった。なお、口には猿轡までしておき、舌を噛んだり、万一歯に毒を仕込んでいても噛めないようにしておいた。切り落とした手首の止血もバッチリだ。
「次はダンジョン・コアの方だね。随分と魔素を注ぎ込まれてるね」
ダンジョン・コアはかなり苦しそうだ。現在のコアのもつキャパをはるかに超える魔素が注ぎ込まれていて、爆発寸前といった感じになっている。
ホムはダンジョン・コアに手を翳し、コミュニケーションを図った。同じ魔法生物だからこそできる芸当である。普通の冒険者ではコアとコミュニケーションを図る事なんてできないか、コアと契約したダンジョンマスターを介するしか無いだろう。
「んー、今のダンジョンの能力を超える魔物を生み出してしまうのかぁ。スタンピードになっちゃうねぇ」
ダンジョン・コアに蓄えられた膨大な魔素を元に魔物を生み出してしまうと、どうしてもダンジョンの能力を超えた数と強さになってしまう。だが、今の状態でコアを壊すと、その魔素が暴走してかなり広範囲の爆発が起きてしまうのだ。
その辺の打ち合わせをダンジョン・コアと行ったホムは、とりあえず一旦館に戻ることにした。ダンジョン・コアに接続された機械もインベントリに入れて簀巻きの男を小脇に抱えると、コアに物理結界をかけて再度同じような目にあわないようにしておいた。
「さて、忙しくなるぞー!」
ホムは館に戻るとシルキーから今回の資料をもらい、そのまままたトラディアルへと向かっていった。なお、男は途中で気がついたが、ホムの小脇に抱えられている上に半端ない揺れで再度気を失ってしまっていた。
「あ、門番さん、お久しぶりです!ホムです!」
「おぅ、久しぶりだな。だが、その簀巻きは何だ?」
「これは森の奥で変なことをしていた悪い人です!一旦説明のためにギルドに持っていきますけど、そのあとは衛兵さん達にお渡ししますね!」
一応身分証としてのギルドカードを渡してざっくりしすぎる説明をしたホムは、そのまま冒険者ギルドへと向かう。途中、出会った人達が子供が大人の男を小脇に抱えているのを見て脇に避けるが、気にすることもない。
そうしてホムは、久しぶりにトラディアル冒険者ギルドへと戻ってきたのだった。




