森の異変
結構ギリギリになってしまいました。
「「行ってきまーす」」
今日もホムとクリスの元気な挨拶が屋敷中に響き渡る。トラディアル魔法学園の夏休みも終わり、ホムとクリスは通常通り学園での勉学に励む日々が始まったのだ。
そしてソフィとアリスのトラディアルでの冒険者活動のスタートでもあった。
基本的にまだ10級のホムとクリスは放課後に街中の依頼をこなし、ソフィとアリスはホムの指示に従って近くの森で採取依頼をこなしていた。今日は薬草の採取の為、森の入口から5分ほど入った場所にある群生地で採取を行っている。
「ソフィ、ホムさんの指示にあった群生地での採取、こんなもんかしら」
「そうねぇ。もう少し採取してもいいかもだけど、採りすぎるのも良くないですしね」
この群生地は、ホムに教えてもらったものだ。複数の群生地を知るホムが、他の冒険者が知らないこれらの群生地での採取をローテーションで回すことで効率良く依頼をこなせるようにしているのである。そして余った時間で訓練を行ったり、ゴブリン等の弱い魔物の討伐を行ったりしていた。
「うーん、今日はなんだか森の様子がおかしいわね」
最初に異変を感じたのはソフィである。エルフであるソフィは、森に漂う魔素の流れが前回の採取時と違っている事に気づいた。具体的には、森の奥に向かって多少強く流れているようだ。まるで穴に水が吸い込まれて行くような感じである。
「薬草採取もとりあえず必要な分は採り終わったし、一旦戻りましょうか」
アリスも不穏な空気を感じ取り、街へ戻ることを提案した。9級である2人に森の奥まで行く実力はない。そんなランク詐欺はホムとクリスだけで十分だ。それにホムからも無理はせず、異常を少しでも感じたらすぐに街に戻ることを厳命されていた。無駄に命をかける必要は無いのだ。
冒険者ギルドに戻った2人は、依頼報告と森の異変について報告した。なお、薬草採取の依頼は10束銅貨1枚である。正直これだけでは食べていけないのだが、ホムからは学園が休みの日に訓練をする事にしているので、それまでは金額の多寡に関わらず依頼をこなして実績を積むように言われていたためである。2人にとって家主でありパーティリーダーであるホムの指示は絶対だった。
「森の魔素の流れ、ですか」
「はい。ある程度魔法を使う人か、エルフでしたらわかると思います」
「わかりました。この件はギルマスにも報告する必要があります。すみませんが一緒に来ていただけますか?」
ソフィとアリスは、受付嬢に連れられてギルマスの部屋へ連行されて行くことになってしまった。受付で報告したらすぐ帰れると思っていた2人には予想外である。
「あの、遅くなるとホムちゃんが心配するので、せめて連絡くらい入れたいのですが…」
「問題ありません。ホムさん達は既に依頼を受けて街中に行っています。もうしばらくしたら戻って来られるでしょうから、その時にギルマスの部屋に来ていただくようにしておきますよ」
まさかの巻き込みである。そして現在、ソフィの報告を聞いたギルマスは頭を抱えていた。
「ギルマス、どうなさいました?」
「あぁ、通常なら調査依頼を出すことになる。だが、今回は無理だ」
「どうしてですか?」
「依頼を受けられる4級冒険者がいないからだ」
トラディアル冒険者ギルドでは、森の魔物の脅威度から、調査や討伐依頼を受けることのできる級を制限している。そして、その級は4級。かなりの上級者でなければ森の奥での依頼を受けることはできないのだ。
そして、現在動ける4級以上の冒険者がトラディアルにはいないのだ。
「いや、1組だけいるんだが、調査ではかなり重要な役割である斥候役が怪我しちまってなぁ…」
そのパーティは、ある日別の依頼を遂行中に足の骨を折る大怪我をしてしまったため、現在休暇中とのことであった。なお、怪我の原因であるが、単純に寝ぼけて宿屋の階段を踏み外して落っこちた為であり、依頼は全く関係がない。
「それって斥候としてどうなのよ…」
「全くだ。だが、4級なだけあって、寝ぼけてなけりゃかなり使えるんだぞ」
「そうでしょうね」
まがりなりにも4級冒険者である。逆に寝ぼけてなくても階段踏み外すようなドジではやっていけないだろう。
では、この調査はどうするのか。
「だから、ホムに別依頼で調査させる」
ギルマスの答えは単純であった。級が足りなくても、実力で遂行できる冒険者がいるのなら、その級に合わせた指名依頼を出せば良いのだ。そして、ターゲットはもちろんホムである。
「ギルマス、ホムさん達を連れて来ました」
「おう、入ってくれ」
丁度よくホム達も依頼を終えてギルドに戻ってきたようであった。そして、ソフィは3度目の説明を行う羽目になってしまった。
「うん、わかった。私が調査してくればいいんだね」
「あぁ、だが依頼はどうする?」
「そんなの適当でいいよ。だけど、それなりには依頼料は欲しいかなぁ」
ホムとしては調査そのものに否応はない。だが、タダ働きもごめん被るのだ。ブラックな労働環境はノーサンキューなのである。
「それは大丈夫だ。調査依頼と同額を出そう」
ギルマスが提示した金額は、調査依頼と同額。つまりは今回正規で受けられないのでウソの依頼となるが、実際は調査依頼になるのでその分の金額を出すというものである。
「それと、お前ら半年たったろ。9級にあげるからカードを預けておけ」
そういえば、級をあげるのに最低半年必要だったよね、とホムとクリスは思い出しながら冒険者カードを受付嬢に渡す。依頼達成数はここ数年でダントツだし、評価も上々、おまけに勝手に森に行って訓練と称して魔物を狩ってくる。上げない理由がなかった。
「というわけで、表向きの依頼は採取依頼だ。採取対象は普通の薬草にしているが、量を多くしている。その量を確保するために奥に行ったことにしてくれ」
「はーい」
「あぁ、それとホム以外の3人はホムとは別行動になるだろう。流石に一緒には行動できないよな」
「うーん、そうですね。今回は別行動の方がいいかも」
「「「そ、そんな〜」」」
流石にホムも初心者を連れて森の奥に行く危険性は理解している。クリスもまだダメだ。流石に身一つでワイバーンと渡り合えなければ連れて行くことはできない。
そういうわけで、ホムが単独で調査に出向く事に決定したのだった。
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