怪しげなバイト
1話 自殺報道
「速報です。人気アイドルグループHNT坂46のセンターの柳瀬風花さん(19)が自宅で首を吊って亡くなっていることが判明しました。」
優斗は首をクイッと振り、目にかかった前髪をどかし、テレビをボーっと見つめた。柔らかく少し癖のついた前髪は一瞬宙に舞い、彼の不健康そうな白い肌にストンと落ちた。
「芸能人の自殺は今年になって3件目ですが、これは若者の自殺の氷山の一角に過ぎません。若者の自殺率で日本は世界最悪の水準です。これから政府は若者の自殺を減らす対策をしていかなければならないでしょう。」
優斗は歳が同じ人間が自殺したという事実に氷水に手を突っ込んだ時のような痛みを一瞬感じた。しかし人間が生きる意味はなんだと他人から聞かれたらそれに答える自信はない。深夜になると突如、自分の将来への漠然とした不安に襲われて、自殺を考える日がないわけではない。朝になると全て忘れているが。
しかしこのようなことは実際誰にでもあるのではないかとも考えたりもする。
「ピローん」
メールの通知に気づき優斗は考え事をやめ意識を完全にスマートフォンに向けた。
栗色の美しい瞳にスマートフォンの光がとてつもないスピードで吸い込まれていく。
「ご応募いただきありがとうございます。若者向けお話サービス代表の木村です。ぜひ日曜日に盛谷市x番地x丁目11-2の建物まで面接を受けに来てください。時刻は午前中に設定していただけると助かります。」
優斗は数日前に奇妙な求人を大学で見つけ、興味本位でメールを送ったことを思い出した。
“”若者向けお宅訪問サービス””
時給 3000円以上
教育学部の学生優遇!!
定員1名
応募はohanasi@xxxxmail.comまで
A4の茶色く変色した古い紙にマジックペンで太く黒色で書かれたいかにも怪しいこの広告に優斗はつまらない日常から脱却するための何かを感じたのだ。
「それでは午前9時にそちらに向かわせていただきます。よろしくお願いいたします。」
ここから優斗の物語は大きくうねりだす。