55.旅立ち
今回で王国編は終わりです。
次回から世界旅編がスタートします。
今後も応援よろしくお願い致します。
「いや、その必要はない」
扉の裏から革のフードを深く被った、フードの隙から見える白い髭で老人だと辛うじてわかる人物が立っていた。
実は俺は既に扉の裏に誰かいるのは気付いていた。
魔力を使える者特有の気配がしていたからだ。
「あんたは?」
「私はシャクール・オニール。魔法使いだ。君達のような才能のある若者を探し、旅をして来た。私から魔法を学んでみないか?」
俺達は互いの顔を見合わせた。
確かどこかで聞いたような名前だが思い出せるのは前世の有名なNBA選手位であった。
俺は少し考えて答えを出した。
「町に行く必要はないと言ったな。それは何故だ?」
「私が兵隊を全て倒した。見て見ぬふりも何だったしな」
「それは助かった。ありがとう。だがあんたから魔法を習うメリットは何だ?逆にあんたが俺達に教えるメリットは?」
「お前達は仮にも魔王軍の10番隊を消し去った。10番隊が戻って来ないとなったら更に強い隊がこの国に来るだろう。国が滅ぶかお前達が死ぬかどちらかしか選択肢は今の所ないと言う事だ。更に強くなって魔王軍を迎え撃てる力が欲しくはないか?」
「それを言われると弱いな…。だがあんたのメリットも聞いてないぞ?」
「私のメリットか?そうだな…未来を託せる」
「未来?」
「ああ。この世界の未来だ。人の魔法は年々衰退して行く。その中魔法が衰退しない種族は魔族だ。段々と人が魔族に勝てなくなる未来が近付いている。そんな未来が来ないよう君達に託したい」
「魔族と戦争をしろと言う事か?」
「それは違う!私は魔族を嫌ってはいない。ただ魔王と勇者と言う存在がこの世にある限り争いはなくならない。勇者になれとは言わない。だが近い将来人が駆逐される未来が来る。それを食い止めて欲しいのだ」
「それは魔族と戦争するのと変わらないんじゃないか?」
「ふっ。君の持つスキルがあれば争わずして治める事が出来るのではないか?」
俺はその言葉に驚いた。
「そうだ。私には君達のスキルが見えている。もうステータスが見えている者も何人かいるかも知れないがそのスキルを鍛えると更にスキルなども見る事が出来るようになる。だがこのスキルは使用した相手に不快感を与え覗き見た事がバレる時がある。私がこのスキルを使用したのに嫌な感じがした者がいないのであれば、まだ感知スキルは低いと言う事になるな」
確かに戦闘中に変な感じはしたんだ。
誰かに見られているような…ドアの裏にいる者の存在がわかっていた為、その性かと思っていたが…。
「あ、俺感じたぜ!おっさんがドアの裏にいる事も感じてたし。あ、ステータス?ってのも見えるようになったんだ。多分魔族倒した後からだと思うけど」
突然レイが驚く事を言った。
レイの感知と目は俺と同等のスキルに成長していると言えるだろう。
「うむ。そのスキルを更に成長させれればもっと相手の事が見えるようになるが、逆に覗き見をレジストもスキルによって出来るんだ。ちなみにステータスを見られたくなければ顔を隠せば良い。このスキルは顔が見えない…正確には目、鼻、口の見えない相手には使えない。逆に言えば目、鼻、口が見えていればヘルメットを被っていても見えると言う事だ。どうだ?勉強になるだろ?」
「あ!」
するとアレンが何かを思い出したように声を上げた。
「どうしたの?アレン」
スーカがアレンに聞く。
「この人、魔法書の人だ。名前が書いてあった」
その発言に俺も思い出した。
魔法書にはこう記されてあった。
「この世界には魔法が強く根付いていた。年々魔法は衰退して行き、今では魔法の才能を全く持たず生まれて来る者まで現れた。このまま魔法を衰退させぬべく、私の知りえる魔法をこの書に記す。著者:シャクール・P・オニール」
と。
「おお!私の魔法書を読んで勉強したのか!これまで30冊程書いたが…そうか。お前達がその一冊を手にしていたのだな。と言う事は既に私は君達の師である訳だ。更に君達に魔法と言う物を教えてやろう!私がこれまで学んだこの世界の事全てを君達に託す!私と一緒に来い!トゥキー・ウィリアモーゼ!レイズ・ワシントン!シーナ・キャベロ!アレン・ウォーカー!スーカ・マクアダムス!クリン・イーフォン!」
俺達は少し考えたが確かに師は必要だと考えていた。
俺の知識だけの無茶振り独学の魔法では限界がある。
その為答えは一つしか思いつかなかった。
「…よろしくお願いします」
「うむ。そうと決まればこの国をどうするのを決めよう。君達はこの国を皆平等な町にしようとしているのだろう?知識は貸してやれるが国を作る事に関しては私は全く興味がない。主だった者を集めて話し合うのが良いだろう」
シャクールさんの言う通りだろう。
俺達はこの国を出る。
魔王軍も撃滅してしまった為魔王軍がこの国に来るのは必須。
その対策はどうするのか話し合う必要があったし、もう俺達は王にはなれない。
いや、ならない方がいいのだ。
俺達がこの国にいる限り魔王軍からの報復は止む事はないだろう。
どこのグループも舐められたら終わりなのだから。
と言うのは前世で学んだ事である。
そんな話しをしているとどこからか声が聞こえた。
「あ、あの…」
声がする方向を見ると玉座の裏にある垂れ幕の隙間から一人の男の子が顔を覗かせていた。
髪は茶色の癖毛で肌は褐色、目はグレーがかった色をしていた。
「お前は?」
俺はその子供に声を掛けた。
「僕はトト・エジファトです。ラムセス・エジファトの息子です。あの…ずっと見てました。とってもお強いのですね!」
前国王の子か…俺はこの子に真実を話す事にした。
「俺はトゥキー・ウィリアモーゼ。こいつらは俺のファミリーだ。なぁ、トト。お前の父を殺したのは俺だ。憎いか?」
「あ、あなたがお父様を!?何で…そんな…」
トトの顔は見る見る泣き顔になっていく。
「俺達は貧民だ。この国の身分差制度をなくす為、止むを得ずお前の父を殺した。そうでもしないとこの国が変わる事はないと判断した。これからこの国は王のいない皆平等の国になる。王もいない、貴族もいない、皆平等だが努力する者はその分の対価を貰え、努力しない者はそれに見合った金しかもらえない。自給自足、皆平等に国民だ。お前も王子ではなくなる。俺はお前の父を殺した事がこの国を良い方向へ変えていくと信じている。憎むなら憎んで構わない。強くなって俺を殺しに来い。それまで死ぬなよ、トト。行くぞ」
「ん゛、ん゛ん゛ん゛!!」
そう王子に話すと俺は皆にここを出る事を指示し、バティスヌーラをひょいと持ち上げ王の間を後にした。
城を出ると一人の衛兵が声を掛けて来た。
「トゥキー様」
「ああ、イムホテプか。この度はご苦労だった。報酬の金貨とこいつを頼む」
俺は魔袋から白金貨2枚とバティスヌーラをイムホテプに渡し町に向かった。
その後王国中に王国軍敗北の情報は瞬く間に広がり、王政廃止、身分制度廃止の命令を国中に流したのだ。
アザレアが燃え滓となった頃、魔王城では…。
「ん?まさか…」
魔王は魂が一つ消えた事を身体で感じた。
「どうしました?魔王様」
サイモンズが魔王の異変を感じ取って言った。
「…アザレアが死んだ」
「何ですと!?」
「あの国に勇者は?」
「いません。そんな情報は入ってないですし、今も魔王大陸外で特訓中です」
「あの国に何かあるな…文を出せ。あとバラキエルを向かわせろ」
「バ!…あやつは国を塵にしかねませんぞ!?」
「良い。念には念をだ。それにあんな利益のない辺境国一つなくなった所でどうって事はない」
「わ、わかりました」
そういうとサイモンズは王の間の暗がりに消えていくのであった。
城内を隈なく探し、師匠シャクールの手伝いもあって魔王城に繋がる貢の部屋を発見した。
魔王城からの返事はなかったようでそこには半径20cm程度の魔法陣があるのみであった。
辛うじて人一人送り込める大きさだ。
その為人一人位の大きさの魔族であれば送り込める。
要注意しなければいけないだろう。
それから俺達は今後の国をどうしたらいいのかを話し合わなければいけない為、主だった者を城内の一室に呼んだ。
既に城内から王族は追い払っている。
その後国を出るか留まるかは本人達に任せている。
貴族にもその話しは既にジョシュより告げられており、こちらも国を出るか留まるかは本人達に任せてある。
今後身分差制度復活を目論み動かぬように両者に睨みを利かせる必要があるだろう。
そして城内の一室に村長のプルーフ、町長のビザール、商業ギルド長のクナイヴァ、冒険者ギルド長のバングズ、貴族代表のマーシャル、スクータ、アイキュ、ジョシュ、王国軍代表イムホテプ、トレシアスク ファミリー、師匠シャクールの16名である。
そしてジョシュがこの場を仕切る事となる。
「この度は戦争お疲れ様でした。無事王国を王族から奪取する事が出来ました。本日は今後この国をどうして行くかを話し合いたくお集まり頂きました。既に王制廃止、身分差制度廃止の意思は国中に広まっています。そちらについては問題ないかと思いますが今後貧民、平民だった者が貴族に仕返しでしたり、逆に貴族が未だに身分差があるように振る舞う様な事がないよう注意が必要かと思います。残る問題は次の王と皆様もご存じであるように戦争中に来襲して来た魔王軍の事です。魔王軍に関してはこちらのトレシアスク ファミリーにて処理済みですが今後魔王軍の更なる追撃が予測されます。その二点をどうするのか話し合いたいと思います」
すると白髪混じりの茶色く長い癖毛で、これまた白髪混じりの着ろく長い無精髭を生やし、左目が傷で見えなくなっている片目の冒険者ギルド長バングズが口を開いた。
「あの魔王軍を撃滅したトレシアスク ファミリーは流石としか言いようがねぇ!町を襲って来た魔王軍の連中を倒してくれたシャクールさんにも感謝しきれねぇ!うちだけじゃどうしようもなかったからな。だが撃滅は不味かったんじゃないか?必ず報復に来るだろう」
俺はその言葉に答えた。
「ああ。だから俺達がいたんじゃこの国が滅ぶ。だから俺達はこの国を出ようと思っている。たまたま居合わせたガキ共が魔王軍を撃滅させた。その後国を出て何処に行ったかわからない…そういう事にしてもらおうと考えている。そうすればこの国は安全だろう」
俺の言葉に反論するように口を開いたのは金髪の短髪で目の青い色白の貴族代表のマーシャルだ。
「それで済むのですか?腹いせにこの国を滅ぼしたりはしないでしょうか」
その問いに俺が答える。
「それはないだろう。どうやら王は定期的に貢物を魔王に送っていたらしい。だから貢物は今後も続ける。その利益がなくなるのは魔王軍としても損だからな。この国を守る為に苦しいかもしれないがあんた等には今後も魔王へ貢物を続けてもらいたい。死ぬよりはマシだろう」
そう答えるとその場はシーンと静かになった。
恐らく皆仕方ないか…と言う答えは出ているが不服ではあるのだろう。
するとジョシュが口を開いた。
「それは致し方ないでしょう。国を守る為、国民にはこの事を話し理解してもらうしかない。次の問題は王を誰がするかです。実際には王ではなく、国のまとめ役を誰がするか…と言う事ですが…」
俺はこの国の代表者は一人しか思いつかなかった。
頭が良く、差別をせず、平等に人に接し、それでいて信用出来る者。
そんな人物は一人しかいなかった。
「俺はジョシュを推薦する」
「え!?私ですか!?」
俺がジョシュを推薦すると本人はとても驚いた顔をしていた。
他の者も真剣に考え答えをだそうと俯き顔だ。
そこで俺はダメ押しをする。
「ジョシュの補佐にイムホテプを付けたいと考えている。ジョシュだけでは武力面が乏しい。その面をイムホテプに補佐をさせる。この二人の補佐を冒険者ギルドが…と言う風にしてもらえると武力面は補えると考えている。商業はジョシュがそもそも出来るからジョシュの命令で商業ギルドが動いてくれれば金銭的な面では大丈夫だろう。聞く所によると外交は元貴族が伝手を持っていると聞く。商業ギルドは国内を…自分達の事は自分達でなんとかしようと動いてくれれば良いと考えている。外交面は元貴族達が伝手となってジョシュを助けてあげて欲しい。この国は貧しいからな。外から物が入って来ないと国が飢える。村や町は今まで通り長がまとめてくれたら良い。自由にやってくれ。上がりの何割か自分達が苦しくない程度に収めてくれれば良いと思う。そんな所でどうだろうか」
その後、皆賛同してくれたようでそのまま話しは終わる…かに思えた。
会議終了間際レイが口を開いた。
「そういや魔王軍を殺っちまったのはいつ頃バレるのかな」
俺はそれは然程問題には思わなかった。
出来るだけ早く国を出ようと考えていたからだ。
だが師匠のシャクールが口を開いた。
「もう既にバレておる。魔王軍は隊長に就任する際に魔王に命を預ける儀式を行う。その儀式を行う事によって魔王と隊長の生命線が繋がるのだ。隊長が死ねばその情報を魔王が逸早く感じ取る。もう変わりの隊を送っているかも知れないな」
「と言う事だから支度が済んだら国を出よう。ジョシュ、言い訳は先程言った感じにしておくといい。もう少し着色してもいいから魔王軍が来た時の言い訳を考えておけ」
師匠の言葉が終わると俺はジョシュに指示をし、国を出て行く準備を早々に行った。
出て行く頃には新しい国の代表が決まったと報告され、国はお祭り状態となった。
そんな騒がしい国を見ながら俺達は国の出口へ向かって歩いた。
「いいなぁ…お祭り参加したかったなぁ」
とレイが言う。
「仕方ないよ。この国を守る為だもん」
とアレンがレイに言う。
「俺達はもっと強くなってこの国を守れるようにならないといけない。その力を付けた時にまた帰って来よう。町はずれにある家はまだ所有権があるし、今回の襲撃でも無傷だったしな」
「良かった!じゃあ私達の帰れる家はいつでもあるって事だね」
「ああ。強くなって帰って来よう。ダンジョンから帰った時みたいにな」
シーナの言葉に返事するのと一緒に皆にも俺は話すように言うと皆顔が引き締まった。
すると師匠シャクールが口を開く。
「君達にこの世界の全てを教えよう!各々がその目で見て判断してくれ。この世界がどうあるべきかを」
そして俺達のこの世界を知る旅が始まった。
後に聞いた話しだが、新しい国の名前はジョシュの名字に因んで、また優しく温かい国になろうと言う思いからハートランドとなったらしい。
そして国を変えた英雄達の名前を取って王都の広場の名前をトレシアスク広場と名付けたのだと言う。
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