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「アカ、うたって?」


「アカ、うたって?」

「……うた?」

「ん……」

「ああ、いいぞ」

 カナタが言う『歌』というのは、昼間に職場で流した曲のことだろう。あの提供する曲は、アップデンポで眠るには向かない曲だ。即興でアレンジし、子守歌として鼻歌で歌ってやった。




 カナタは翌日から子守歌に歌をねだるようになった。


 アカは元バンドマンだ。イケイケな曲ばかり演奏していたため、アコースティックな曲はほとんど持ち合わせていなかった。そのため、カナタには持ち曲をスカナタテンポに変えて歌ってやった。


 自惚れかもしれないが、子守歌を歌ってやるといささか早く眠ってくれる気がする。音楽療法』というのだろうか。カナタにはそれが効くかもしれないと思った。


『ヒーリングミュージック』というものに興味を持ったアカは、そちらの勉強を始めた。

 触れてこなかった分野だが同じ『音楽』というくくり。アカはハマった。



 カナタを家から連れ出したほうがいいことがわかり、ショッピングセンターに来ていた。

「これ、ほしー」

 カナタの指さしたものがどれだと探すと、中央に飾ってある超巨大なキャラクター『スズ』のバルーン展示だった。5メートルはあるだろう。

「こりゃ……」

「アカ、これほしー」

「おう、欲しいな……」

 家に入らねぇよ……と思いながら否定はしないように気を付けつつ話す。なぜなら『子育てNGワード』で学んだのだ。子供は頭ごなしに「ダメ」と言ってはいけないと。しかし、こりゃいくらなんでも無理だ。



 ある日。

 アカは曲作りの締め切りに追われていた。カナタはひょこりと仕事中のアカの元へ顔を出してきた。作業部屋で絶賛パソコンへ打ち込み中だったアカは、おずおず入室するカナタに気づかない。


「アカ」

「…………」

「アカ」

 アカの服を軽くひっぱり呼ぶ。

 

「ん?」

 カナタへ意識を半分ほど向けて耳を傾ける。ヘッドホンを付けて作業している為、外さなければ聞こえない。30秒ほどでキリのよいところまで進め、ヘッドホンを外す。


「カナタ、どした?」

 お利口に待っていたカナタに尋ねた。

「おなかすいた」

「え」

 まさかの発言にアカは驚き固まる。

 なぜなら失踪したカナタを発見して家に連れてきてから、自発的に空腹を口にしたことはないのだ。

 今まであれこれ飲ませ食わせはすべてにアカが与えていたものである。

 

 「えっと……何食べたいんだ?」

 硬直から戻ったアカはカナタにきちんと向かって尋ねた。


「アカ」

「…………わかった」

 刃物で手首を切り、恐る恐る口元へ伸ばしてやる。


 すると、両手でぎしりと手首をつかみ、ごくりごくりと飲んでくれた。あれだけ拒み続けた血を自ら求めたという喜びがこみ上げる。しかし、食事を邪魔してはならないと声をあげたくなる気持ちを抑え、じっと我慢した。




 もういらないと口を放したカナタへ「ちゃんと飲めてえらいな!!」とすかさず言ってやった。

「えらいの?」

「ああ!」

 カナタは首を傾げよくわかっていない様子。それでもやっと栄養を体内に取り込んでくれた嬉しさで一人舞い上がってしまった。


「アカ、いたい」

「悪い悪い」



 翌日――。

「いて」

 一緒の布団に入っているカナタにがぶりと首筋を噛まれた

 寝ぼているらしい。


「ん、ねーアカ、おなかすいた」

 起きた第一声がこれである。幼児化した身体では噛みついたところで皮膚を千切れなかったようだ。


「ああ、わかった」

 おきがけの身体を苦にもせず、カナタの望むがまま生き血の食事を与えた。


 ヒーリング効果が功を期したようで、カナタは生き血を求めるようになった。

 時期に身体の幼児化が止まり、成長を待つのみである。



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