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幼児化


 今や、カナタの見た目も精神的にも5歳くらいにまで幼児化してしまった。


 作曲の仕事をしているわけだが在宅で引きこもって曲を作るので外出はほとんどなかった。

 しかし、今日は打ち合わせのために現場へ出向かなければならなかった。

 本当の年齢はとうに大人も大人なのだが今のカナタを留守番させるにはいささか不安だ。


 アカ的にもカナタの事が心配過ぎて、仕事に集中できない気がする。かといって仕事を蹴るにはすでに進みすぎている話で、ドタキャンは気が退ける。この仕事は作曲のオファーを受け、是非ともと承諾した話なのだ。


「どーすっかな……職場に連れてけっかな……」



 ◆回想

 カナタが子供の身体になってからというもの。

 アカは買い物くらいはしょっちゅう出るが、長時間の不在は過去1度だけだ。


「時計あるだろ? 一番短い針が一周したら、帰ってくるからな」

「ん……」

 とカナタに言い聞かせ仕事に出たことはあるのだが、ぶっちゃけ仕事に手がつかなかった。


 <12時間後>

「ただいま……カナタ?」

 帰ってきたら真っ暗な部屋で、電気すらつけずぽつんと立っていた。

 カナタがこの部屋で半日何をしていたのか。いや、何もしていなかったという事実を考えると恐ろしかった。


 一人で留守番できるかできないかといえば出来るのだろう。

 ――まるで電源の落ちたロボットのように。


「カナタ! おまっ、ずっとこうしてたのか?!」

 冷えたバッと身体を抱きしめた。

「う……」

 カナタの苦しげな声が漏れた。

 勢い余ってしまい力加減を間違えてしまった。すぐさま抱擁をゆるめる。


「あ……アカ? ……おか……えり?」

「ああ。ただいま……」

 カナタをよいしょと持ち上げ一緒にベッドへ入る。

 アカは夕食を食べていなかったし、一日動きっぱなしで疲労溜まっていたはずだがそんなことはどうでもよかった。


 外出用の義足も取らずにしばらくカナタを抱きしめ、トントンと背中をゆっくり叩いてやる――。

◆回想終わり


 とまぁこんなことがあったので、一人でお留守番させるのはトラウマなのだ。

 今回は、カナタを職場に連れて行くことにした。



「よし! 出かけるぞ~! 気持ち悪くなったりしたらすぐいうんだぞ?」

「ん……」

 返事は小さくするのだが、それが理解しているとは限らない。

 感情にムラがあり、心ここに無しといった時もあれば食事についてはきっちり拒絶を示す。


 アカは時間を掛けながら、カナタの服を着替えさせ準備をした。どんどん身体が小さくなるカナタに合わせて服を調整するのは容易ではない。何種類も必要になる。仕方なしにサイズの少し大きめな服を着せる。

 タクシーの到着の連絡を受け、カナタに靴を履かせた。

 吸血鬼特有の長く鋭く尖った犬歯は、幼児化に伴い不思議なことに小さくなった。今や牙だとはほとんどわからない。他人がよくよく見なければバレないだろう。

 カナタを片腕で持ち上げ玄関を出た。




 現場到着後。

「アカさん! お待ちしておりました」

「お疲れ様です。あの、この子なんですけど……お留守番はまだ難しい年で、どこにも預けられなかったもので……。一緒でもいいですか?」

「ええ」

 カナタは見慣れぬ建物の内部に入ってもおとなしいもので、ぐずりもしなかった。眠っているのかと思えばそうでもない。むしろ放心気味で気がかりであった。


 データですでに渡してあるデモ曲を流しながら、依頼者からの希望を聞く。この部分に合いの手が欲しい、もっとベースゴリゴリで、ここはピアノが欲しいなど要求を聞き入れ、イメージを固めてゆく。


 同室の片隅にある一脚に座るカナタは、夢うつつにボーっとそのやり取りを眺めていたようだった。

 それから時々仕事合間にチラッと様子を伺えば、椅子から下げた足をブラブラさせていた。



「では、期限までにデータ修正してまたお送りします」

「はい。よろしくお願いいたします」

 トラブルなく仕事を終えた。

 強いて言えば、今回の依頼者は要求が細かくて修正に時間がかかりそうだなといったくらいだ。


「カナタ。おまたせ。疲れただろ~? ごめんな。さ、帰るぞ!」

「うん!」

 慣れない環境で疲労しただろうと思い、抱っこしようとした。しかし、声を掛ければピョンと椅子から床へ勢いよく着地し自らトコトコと出口へ向かった。


 予想外なカナタの活発さにアカは驚く。家から出してやらなかったのが逆に良くなかったのだろうか。

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