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日に日に小さくなるカナタ。


 日に日に小さくなるカナタ。

 人間用の栄養剤やら野菜ジュースやらを気休め程度に飲ませていた。しかし効果は無いのか、どんどん小さくなるカナタを見て見ぬふりはできなかったので、ある日無理やり血を飲ませようとした。

 カナタには悪いが、栄養を取らせるためには仕方がない。そう割り切りこの手段をとったが――。


 嫌がるカナタの口元へ、傷つけた手首を押し付ける。。

「んんんんん~~~~」

 しかし、嫌な顔をして逃げてようと暴れて全く飲んでくれない。


「カナタ! 頼む。飲んでくれ!」

「や! ぃや!」

 アカのほうが力があるとはいえ、右手首を口元に持って行き義手の左手でカナタを固定するのは難しい。

 強い力では抑えられなかったのでするりと逃げられてしまう。

 机の脚にしがみついてしまった。


 アカは一度諦め、どうしたものかと思考した。

 そして、次の手を講じる。


「カナタ。さっきは無理やりしてごめんな? ……ほら、野菜ジュース飲むか?」

「ん……」

 カナタに野菜ジュースの入った子供用プラスティックのコップを渡す。血だけではダメだというなら、これならどうだと野菜ジュースに血を混ぜてみたのだ。

 そうとは知らないカナタはゴクゴクと飲む。


 3分の1飲んだあたりでカナタの手が止まる。

「! う……うえ……げぇぇ~ ゲホ」

 コップを手から落としてうつむき苦しみ始めた。


「カナタ?!」

 すぐさま背中を擦ってやる。

「アカ……うぇ~、はぁはぁ……」

「カナタ、きもちわるいか?」

「きもちわるい……ウェ……うぅ……」

「吐きたいか?」

「ゲホッ……はぁ、ん! ん! はぁハァ……」

 苦しそうにあえぐカナタ。



 どうすればカナタが少しでも楽になれるのかわからなかった。

 すっかり衰弱してしまったカナタを見て、アカは自分がしでかした過ちにショックで打ちのめされそうだった。

 カナタの身体はなぜだか血を受け入れられないらしいという事実だけが残った。

 吸血鬼の事なんて誰にも聞けやしない。


 今まであれだけ美味しそうに飲んでいたのに。「お前の血、上手いな。病み付きになりそうだ……」とエロい声で言っていた彼の面影はすっかり消え失せてしまった。


 ならばアカ以外の血はどうなのか。

 探せばあるものでネットで購入してみたのだが、カナタに「やー!!」と言われてしまった。

 もう無理に飲ませることはしなかった。


 ベッドで寝ているカナタ。無理やり血を飲ませてから、カナタの睡眠時間が増えた。省エネしているのだろうか。栄養を取り入れられず徐々に若返るカナタはこのままでは赤ん坊になってしまう。もうあまり時間はない。


 アカ以外の生血ならどうなのか……。協力者が必要だ。そう考えたアカは数少ない信用のおける人間に協力を求めることにした。



【ギン登場】

「わざわざ悪い。他に頼めるやつがいねぇんだ」

「いや……それはかまわねーが……おまえ……全然老けねーんだな?」

「……とりあえず入ってくれ」


「……その足……どうしたんだ?」

 歩き方を見て訪ねてきた。

 日常用義足は、カクカクと振り子のように頭を左右に揺らしながらの歩行になる。

「足はまーいろいろあったんだ。後で説明する。それよりこっちだ」

 左腕を失った時に世話になった警察官。名はギン。

 義足を見て驚いているギンを差し置いて、用件を済ませるべく部屋へ案内した。


 ちょうどカナタはベッドから気だるそうに上体をおこしている最中だった。


「…………」

 連絡は入れていたものの、本当に子供がいることに驚いているのだろう。ギンは子供を凝視する。

「……だれ?」

 カナタの視界にギンを捉え、眠そうな目をこすりながら尋ねる。


「このおじちゃんはギンだ」

「ぎん」

 アカが紹介した名をカナタが復唱する。ギンに対して拒否反応はないようだ。「お、おじ……」

 ギンは『おじちゃん』という言葉にダメージを受けているらしい。


「そうだ。友達なんだ。怖くないか?」

「ん……」

 ギンは身体が大きく顔もいかつい。まぁ俺が言えたことじゃぁねぇがな。怖がらなくてよかった。

「…………」

 カナタへ自己紹介されるギンは、険悪な顔はそのままになかなか見られない動揺さが伺える。


 ギンを家に呼ぶに、彼にはあたり事前に連絡をいれた。ちなみに10年前と電話番号はかわっていなかった。『血液嗜好症ヘマトフィリアかもしれない子供がいるので、刃物で血管を切って反応を確かめさせてほしい』と頼んだ。

 こんなヤバい相談、おいそれと出来やしない。


 家に招いていきなり「腕を出せ」と言いつつ刃物で傷けようものなら、いくら知り合いだとは言え目の前の警察官に捕まってしまう。

 どうやったってうまく隠して血をもらうことは難しい。

 吸血鬼うんぬんはさすがに隠した。

 実際に、血液嗜好症ヘマトフィリアという病気があるのだ。

 断られる可能性の方が高いことを承知でのお願いであった。


「んじゃギン。さっそく頼む」

 アカはギンへ予め用意してあったセラミックタイプの折り畳みナイフを渡す。彼はこわごわといった感じに受け取るが、目が踊っている。


「……ほんとに良いのか? 泣かれねーか心配だ……」

「そんときゃそん時だ」

「おいおい……」

 決意の決まらない様子のギン。

 警察官でも腰が引けるなら他の人間ならもっとだろう。


「さっさとスッパリ切ってくれ」

 自傷行為は注射の前の緊張感に近いと思う。

「ああ。わかってる……」

 わかったといいつつ行動に移さないギンにじれて「オレがやる。いいな?」とナイフを返すよう手を差し出した。

「あ、ああ……」

 豪快に腕を差し出してきた。


 気が変わらぬうちにサッと一思いに皮膚に傷を入れる。

 じわりと赤い血がにじみ出てきた。

 その間にナイフをたたみ床に伏せる。


 ギンの傷ついた腕をつかんでカナタの方へ引っ張った。

「やーーー!!」

 するとカナタは声を上げ拒絶を示した。

 布団の中へ隠れてしまい、すすり泣きの声が聞こえてくる。


「おい! やっぱ泣かれたじゃねーか!」

「そうだな。悪い」

 泣くカナタと怒るギンに挟まれるアカの内心は、打ちひしがれていた。


 純粋な人間の血なら受け入れるかもしれないという唯一の希望が無念に終わる。もう次なる手段は思いつかない。

 藁にも縋る思いだったのだがそんな心の内だとはカナタもギンも知らない。


 ギンはそそくさと自身の傷の手当てを始める。用意周到なことで、救急道具を持ってきたらしい。


「おい、アカ。俺ぁどうすりゃいいんだ? 帰ればいいのか?」

「あ、ああ……いや、時間があるならまだ居てくれ」

 とりあえず場をおさめなければとショックを頭から追いやる努力をする。


「カナタ? ごめんな? 仲直りしよう」

 アカは布団の上から声をかけつつトントンとあやすように布団をたたいた。


「ぐすん……」

 時期に泣き止み布団からごそごそと出てきた。ギンはすでに傷を隠し終えている。


「ギンおじちゃんはな、おまわりさんなんだぞ?」

「?」

「悪い人やっつけるのが仕事なんだ」

「…………」

 すでに警察官という職業を理解するのは難しいらしい。


「いい人だから、力になってくれる……」

 このままではカナタはいずれ消滅してしまうであろう恐怖。音楽漬けの人生で、見ず知らずの人間にここまで情を抱いたのは初めてだった。頭の悪いアカ一人には限界だった。




 カナタが寝静まったときを見計らい、寝室を出て、リビングにてギンにありのままを説明した。『吸血鬼』という摩訶不思議な話。まずは、アカがコンビニへ買い物に外へ出た時、たまたま吸血鬼と遭遇した話から――。


 住宅地の路地にある裏道がある。ここを通れば近道だ。アカはいつものようにその道を通ろうとしていた。


「キャハハー」

「まってまって~シロ~」

 アカがその道へ入る足元を通ってゆく子供がいた。

 アカも子供の後に続くように道へ進んだ。


 子供が進む先に、明らかに『ヤバい感じ』の人がいる。

 黒ずくめで壁に片手を突き、肩で息をしている。前かがみで体調が悪そにポトポト歩く。まるでゾンビのようだ。しかし子供を見るや否や、たどたどと歩いていた足取りは見せかけだったようにダッシュした。


 ありゃ面倒なことになりそうだ……と思い、なりふり構っていられないとアカは子供を庇うよう割って入った――。


 ということがあり血に飢えた吸血鬼を拾ったこと。求められたから暇つぶしに家に上げ、なんだかんだ世話してやったこと。オークによる両足欠損事件。起きたら10年経っていてその間世話されて、そしたらふらっと姿を半年消したこと。見つけたと思ったら、感情が乏しく徐々に身体が縮んでゆくこと。


 アカが半分吸血鬼になったのだと話し、傷の再生が早いことを証明するために自傷行為を見せてやったら信じたようだった。



「……いろいろ突っ込みてーこと山ほどなんだが……。話まとめりゃ、大人だったカナタが幼児化したっつーことか」

 ギンが、換気扇前で葉巻をくゆらせながら、聞いた話を要約するように言う。

「まーそうなるな……」

「…………」

「正直参ってる」

 失踪したカナタを見つけてから約1か月。やれることはやった。といっても無知なアカにやれることは……だ。

「こりゃ警察どうこうの話じゃねーな……」

 あたりまえだが、いろんな事件を経験している警察官のギンですら、こんな案件は初めてだという。

「そうだよな……」

 二人して言葉に詰まり、重い空気が流れる。


「にしてもおまえが子育てとはな」

 進まぬ話を差し置き、少しでも和ませようとしたのかギンが話を振ってきた。

「オレもこんなことになるなんざ思ってねぇよ……」

「ハハッ! 案外似合ってるじゃねえか。泣き止ませ方なんざ、様になってたぞ」

「嬉しかねぇよ……」

 子供の面倒を好き好んでやっているわけじゃない。今すぐ元のに戻ってほしい。


 三人寄れば文殊の知恵ならぬ二人で知恵を絞ったが、これといってよい案は浮かばずギンは帰宅した。


 <数時間後>

「……白いおじちゃんは?」

 起きて早々カナタが尋ねた。

「ん? ああ、ギンな。帰ったよ。カナタによろしくってさ」

「ん……」

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