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 〈半年後〉

【2章】


 〈半年後〉

 吸血鬼が出ていって半年が経った。

 アカは義手にも慣れ、仕事も定着してきて打ち合わせやなんやらで外出するようにもなった。


 カナタいわく、オレは半分吸血鬼半分人間らしい。

 半年でそれを実感している。驚くことに切り傷打撲なんかのちょっとケガは、すぐに塞がるのだ。治癒力が上がり、少しメシが味気なくなっただけ……というと充分だろうがと思われそうだがそれ以外の喪失感が大きすぎて、たかが食事なんかと思わざる負えなかった。

 今日も打ち合わせがあり、外出した。

 行きかえりはやはり義足は歩きづらいのでタクシーでの帰り。


 アカはタクシーの窓の外を眺めていた。

 いや、眺めるのではなく、目では闇雲で見つかるわけがない彼の姿を探していた。

 こうして少し遠くへ出るときは、無意識に彼の姿を探している自分がいる。もはや日々の習慣と化していた。

 直に自宅付近に迫る。あぁ、今日も見つけられなかった……と一人胸の中で無念に暮れていた時――。


 バス停のベンチでポツリ、黒い人影を発見した。

 遠目なのでハッキリと彼だとは分からないが、アカの中では確信しタクシーの運転手に「止めてください! すぐ戻ります」と急停車。荷物をそのままに車を降りる。

 焦る気持ちに対し、未だ走ることが出来ない義足で数メートルを必死に戻る。


「カナタ?」

 と声を掛けるが振り返ることはおろか、微動だにもしない。

 ついに彼の目の前まで到着。

 うつむいている彼の表情が見えない。義足で上手くしゃがむことができないので顔を覗けない。


 どうしたものかと思案していると、丁度停車してきたバスのドアが開く。アカは「すみません。乗らないです」と声を掛けた。バスのドアが閉まり、出発する。

 このままだと次のバスの運転手にも迷惑をかけ続けると思い、少々強引に肩を掴み顔を上げさせた。

 アカと目があった。しかし、琥珀色の目はうつろで依然の意思が強い目の面影はない。

「おい……。カナタ……。……行くとこあんのか?」

「…………」

 軽く首を傾げるものの、ぽわわんととした表情で返答はない。

 目は合うし、聞こえているようだがおかしな反応にアカは困り果てた。


 まるで睡眠薬を飲んだ後のような反応の鈍さに危険を感じ、吸血鬼の手を引いて駐車してもらっているタクシーへ戻ろうとした。

「来い」

「…………」

 頑なにベンチから動かなかったら義足では持ち上げるのは厳しいなと考えていたのだが、少し引っ張るとすんなり腰を上げた。


 吸血鬼が立ち上がった際、違和感を覚えた。

 アカの両義足は元々あった生足よりかなり短くなっている。

 したがって吸血鬼の身長はアカより高いはずなのだが、立ち上がった吸血鬼の目線の高さはアカより低かった。

 そのことに驚きつつも、待たせているタクシーまで小さい子の手を引く感覚で戻る。




 アカの自宅へ帰宅後。

 義足も履き替えず、カナタをとりあえずベットへ座らせた。初めて会った時のように、血に飢えているようには見えない。


 とりあえず血を飲めば回復するんじゃないかと思い、台所へ赴いた。

 包丁を手にした瞬間――。

 アカは固まった。不安要素が脳裏をよぎる。

 吸血鬼であるカナタに吸血鬼になってしまったオレの血を飲ませても問題いのだろうか?

「アカは半分吸血鬼、半分人間だ」とカナタが言っていた。

 それに飲むかと聞いたとき、「必要ない」と言っていたから『飲めない』わけじゃないだろう……。

 不安だったが半分人間ならイケるだろと右手首を包丁で切った。


 スパッと10センチくらい切れただろうか、包丁を捨てるように放ってカナタの元へ急ぐ。


 カナタの目線に、血がポトリポトリと垂れる手首をもってきた。

 虚ろな視界に血を認識した瞬間――。

 反射のように手首をつかみ、傷口にかぶりつき飲んだ。

「ん。……ぅん……ん」

 カナタの喉仏が動く。呼吸することも忘れ無我夢中で飲んでくれた。


 よく見ると来ている服のサイズもおかしい。服の袖があっていない。


 それからうっとりした顔で傷口を舐められる。

 やたらペロペロされて何かと思えば、さっき作った傷跡がもう塞がってしまっている。


「……」

 まだ物欲しそうにしているので台所にある包丁を取ってきて切っては血が止まり、切っては血が止まりを三度繰り返した。


 やっと満足したのか、お腹がいっぱいになったようでペロペロ舐める舌が止まったかと思えば眠ったようだった。


 口元に付いた血を拭ってやりベッドへ寝かせた。


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