アカが目覚めてからというもの。
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アカが目覚めてからというもの。
カナタは、一日中付きっ切りで甲斐甲斐しくオレの世話、すべての補助を手伝ってくれた。
仕事をしていないカナタだから出来ることなのだが……ホームヘルパーのように扱うことに抵抗があったのだがカナタは「もともと世話になった礼だ」と言い、一切引き下がることは無かった。
義足作成のための技師を紹介してくれたり、車椅子をひいてくれたり、リハビリもずっと付き添ってくれた。
義足のリハビリ内容は基本動作練習だ。体位変換(寝返り)、座位バランス、四つ這い、膝立ち保持、移動。起居動作訓練として寝返りからの起上がり。
「ハァ……はっ……く!」
感覚をつかむまでは何度も横転してしまい、すぐ息が上がった。
慣れるまで結構大変で、帰りは決まって右腕がパンパンになった。 しかし、半分吸血鬼になったことで基礎代謝も上がったのだろう。寝れば回復する。
たかだかトイレの便座まで安全に移ること、立ち上がることすらできない。
オレも半分吸血鬼らしいが、昔と変わらず7時間ほど睡眠を摂っていた。
人間の食べ物がそれほど美味しく感じなくなった。
昔はとにかく肉が好きだった。
肉さえあれば生きていけるぜ! という感じだったのに、今はそれほど肉に魅力を感じなくなった。まだ人間の血を飲んだことはないが、ウマいのだろうか?
<数週間後>
アカはリハビリを根気よく毎日続けた。
階段昇降、坂道悪路歩行、方向転換も時折ふらつくことはあるが、ゆっくりなら自力で歩けるようにもなった。
「おまえ、寝なくていいのか?」
介助されて気づいたことだが、カナタが寝ている場面を見ていない。
起きれば早メシだ便所だなんやらと夜はどこかへ行ってしまう。
「フッ。おれを誰だと思ってる? 世にも恐ろしい吸血鬼サマだぜ? 本来の力を取り戻せば睡眠なんか必要ない」
そう言って部屋を出て行ってしまった。
多分、夜な夜な誰かの血を吸っているのではないだろうか。
カナタはオレから血を飲まなくなった。
「オレの血飲まねぇの?」と聞いたことがあるのだが、「いらない」と断られた。「なんで?」と聞けば「必要なくなった」と言う。
両足を気にして遠慮しているのか、他に理由があるのか。本当の理由は口にしたくないのだろう。
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「ギターは弾けねえが、打ち込みで曲作ってみるわ」
「作曲家ってやつか?」
「ん~。……まぁそうだな」
右手メロディー、左手メロディー。くっつけたら両手で弾いてるみたいになる。打ち込みでギターはどうしてもクオリティが悪いが仕方ない。必要ならば打ち込みでドラムもする。
10年年取っていないとバレるとまずいため、顔出しはしない。
しかし『元ミュージシャン、アカ。作曲家デビュー!!』という肩書で世間を賑わせた。
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「なあ、ネイル塗ってくれ」
「ああ」
アカはカナタに頼んだ。
義手で細かい作業は難しいからだ。
カチン、カチンと爪切り音のみが響く。
20本中、たった5本だけになってしまった指をカナタは丁寧に大切に切ってくれる。
アカはもう一人でほとんどのことをこなせるようになっていた。
カナタはこの家での仕事がなくなったからか、ふらっと出かける時間が増えた。
料理はカナタが食べる必要がないのにいつまで作ってもらうのも悪いと思い、リハビリを兼ねてアカが作っている。
義足は入浴用、日常用、外出用と3種類あるのだがどれもバッチリ身体に馴染んでいる。
爪を切り終わって続いて真っ黒なネイルを同じように時間をかけて真剣に塗ってくれた。
翌日。吸血鬼はアカの元から消えた。
【1章END】