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ベジタリアンウルフ  作者: 前歯隼三
草原の生活編
8/10

草原母の会

ヒュオオオオオ


ここは血で血を洗う野生の王国 草原

弱者は強者の糧となる、残酷にして非情の世界だ。



ドシーン

ドシーン


大地を許し現れたのは“最強”の名を持つ像一族…のマダム


パカラッ

パカラッ


軽快な音を奏でながら軽やかに現れたのは“草原の風”馬一族…のマダム


バッサ

バッサ

ピョン

ピョン

モリモリ…ボコ


ハゲタカマダム、うさぎマダム、モグラマダム


「あら奥さん最近どーう?」

「大変よぉ、子供がすーぐ外でちゃってぇ~」

「まぁやんちゃねぇ~」

「知ってる奥さん!北の山の方でドングリがもの凄いらしいわよ!」

「あらーじゃぁ明日にでも行こうかしら」

「…/////」


…集まったマダム達は草原母の界の面々だ。

こんな世界だからこそ、互助の精神は大切。


…シュボ!

…シュッシュボボボ!


「あらら、この音って」

「きっと綿毛夫人ね」

「先月は狼と戦う姿を見たわ」

「わたしは空から見てましたけど、芋ライオンが挨拶してましてよ」

「まーすごい!」

「/////」


一番最後に現れたのが「草原の白い悪魔」母羊である。

彼女は去年川の向こう、南西の方から子供達とやって来たのだが

来るやいなやハイエナ盗賊団をぶちのめし、草原四天王、角虎、鬼岩亀、翼大トカゲ、ジェットバード

を片っ端から撃破した。

…彼女がもう少し早く来ていれば、助かった命もあっただろう。

そんな手前勝手な言葉が出た時、母羊はそっと後ろ脚日本で立ち上がり


ザッザッ


足をややひろげ腰を落とし

両腕を曲げ…大地を睨んだ。


「………」


ドゴオオオオン!


母羊の両腕が一瞬ぶれ、大地にヒビが入った。


…パラパラパラ…


そこからだ、母羊の元に草原の動物達が集まり

彼女の門下に下った。

彼女は多くを語らなかったが、ストイックなその姿勢と

子供達を見る慈愛に満ちた瞳のギャップから

「母とは強くあるべし」

と語っているように感じられる。



「きましたわねマダム…いいえ、師匠!」


ッザ


母羊の前に出たのはウサギマダムだ。

敬意に満ちた赤い瞳は、しかし強く相手を見据え…一切の油断が無い。


ガジガジガジ…プツン


足を結んでいた草を噛みちぎる、その草の先には岩があった。


「……では、お手合わせお願いします」

「………」


ケーン!


ハゲタカマダムのトンビめいた鳴き声をゴングにウサギマダムの姿が掻き消える。


…ビュボ!


小さい体を活かし、草原に完全に隠れたウサギマダムの…背後からの音速の攻撃!

しかし母羊はなんなくとそれをよける。


「当然、それはフェイントです!」


ビュバババ! “石弾!”


ッカ!


ヒュリュゥゥパァアン…!


「………」


パラパラパラ…


母羊が初撃を避けるため体をひねった。

その不安定な体制では、けっして避けれないだろう箇所への3連の石弾!

刹那、母羊は軸足を空に浮かべ、大地から…足の捻じれから解き放ち…その腕がつむじ風のようにうねった

蹄で掴んだ3っつの石は

母羊の両足が地に着くと、後を追う様に地に落ちた。


「…まいりましたわ、さすが師匠」


背後からの奇襲、不安定な体制への不意打ちが届かなかった。

今…万全の体制で目の前にいる母羊に、ウサギマダムは敗北を認めた。


「ありがとうございました」



「…おつかれ、次は私ですよ!奥さん!」


次に出てきたのはモグラマダムだ。

ウサギマダムよりなお体が小さい…一体彼女は何を…?


「あちらの木の下に、バトルフィールドを用意してございます…みなさんよろしくて?」

「………」



木に近づくと、肉食獣の骨が地面に杭の様に突き立てられてぐるりと一周そのエリアを囲んでいた。

これがモグラマダムの言うバトルフィールド

彼女は非力ながら、家族を守る強さを欲し…そしてたどり着いた答えが「トラップマスター」としての強さである。


彼女のバトルフィールドに踏み込むマダムたちは慎重に白爪草…クローバーの絨毯を歩く。

これだけが彼女のフィールドの、目に見える安全地帯だからだ。


バトルフィールドの中央で母羊とモグラマダムが退治する…


「それでははじめますよ…ケーーーン!」


ピン


…モグラマダムの手元で何かが光った!

ガバッ!


母羊の足下から大きな獣の口が現れた!…そう見えた!正確には立ち位置の左右の地面を突き破り

木で作られた牙が現れ…ハハ羊を中心に閉じたのだ!

…迷わず前に飛ぶ母羊!刹那の迷いも無い跳躍!…しかし!


「マダム!今日は私のかちよぉおおおおお!」


ピン ピン ピン!



着地するハズの地面がはじけ飛ぶ…落とし穴だ!

しかし、それの蓋の部分の土と砂が!狙い済ましたように母羊の方向に飛ぶ…否!

全ては計算しつくされている!


(あなたが大あごを砕く可能性もあった!でも向かって来てくれた!感謝するわ…マダム!!)


岩をも砕く蹄を持とうと!大木を打倒すパワーがあろうと!形の無い水や空!そして砂は防げない!


(目つぶし程度の意味でしかないけれど…アナタレベル相手にこれが通じれば…及第点でしょ?)



ビュゴオッバアア!


母羊とモグラマダムの間に生まれた「砂の壁」は、中央が綺麗に消失した…


…ットン


目の前に降りた母羊…驚愕のモグラマダム


「まるで竜巻ね…」

「一瞬風圧で体が浮いた…信じられる?」

「でも見て…落とし穴は飛び越えているわ…最初のジャンプでは…ありえない」

「/////」


「…残念、竜巻なんて…自然災害には敵わないわね」


モグラマダムは負けを認めた。


「次はどなた~?」

馬マダムが周りを見渡す


あとは像とハゲタカだ


「////」

「わたしはゴング係だから気にしないで~」


「というか、パカラカ夫人はよろしくて?」

「あらあれ…私は荒事はにがてなのよ。私は怪我人が出た時のために来てるんですから」


「…………」



草原母の会「母は強くあるべし」が理念のこの集会は自衛力の強化と生活の向上、

また愚痴大会のたに定期的に行われている。



「ねぇ 師匠?おこさん達はどうしたの?」

「………」


他のメンバーは家族に預けているのだが、母羊はたしかシングルマザーのはずだ

いつも集会には子供達がきていた。


「……え?狼に?」


…ザワァアア…悲しい空気が流れた。

去年までは、ごくごく当たり前にあった出来事だが…ここ最近は平和そのもので…えぇ


「あああああああああ!ぶっ殺してやる!カチコミじゃぁあ!」

「落ち着いて耳長さん!」


特に子供の一人を目の前で食べられたウサギマダムはブちぎれた。

自分の子供ではないが…あの三人の子供たちは毎回集会にきていて、みんなに良く懐いていた。



「…え?違う?預けた?ホワッツ?」



ウルフが彼女達の信頼を得て、本格的に保育所を運営するのはまだまだ先のお話だ。


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