草の味知る狼と遠吠えを知る羊
(………!)
モシャモシャ…
「うーん、この葉はすっぱいなぁ…」
くんくん
モシャモシャ…
「苦!ペッペ!」
くんくん
もちゃもちゃ…
「ん~?ん~?」
…今日は更なる美食を求めて草原の草を食べ歩いている。
草は草だと思っていたが
結構色々な味の草がある、苦い酸っぱい甘い辛い
噛むとドロッと白い液が出る草があり…妙な味なので試しにいっぱい食べてみたら
めまいがしてきた。
「ほっわほっわウフフ~」
…そんな事をしながら
普段は行かない、草原の東側を探索していると
目の端に見慣れた白い塊が入ってきた。
…それも一個、二個、三個、四個…
モシャモシャモシャモシャ
(………)
「……ほわ~、羊さんだ…モシャモシャ」
どうやらあの羊さん
白い悪魔さんはお母さんだったようで
三匹の子羊をつれて草を食べている。
長年の朝の挨拶が築いた信頼関係でもって
狼である自分が目に入っても警戒はしていない。
(……!)
ッあ
子羊一匹が自分に気付いたようだ。
トコトコと母を離れ自分の方にやってくる。
なんだろーなー
無防備だなぁ~
モシャモシャ
「お…おじさん!」
(おじさん!?)
ウルフはちょっと考えた。
モシャモシャ
うん…まぁおじさんか。
「うん、こんにちわ」
「こ…こんにちわ!え~っと」
白い悪魔は無口なので、声を聴いたことは無いのだけど
なかなか子供は元気にしゃべる
うんうん、いい子みたいだな~…もしゃもしゃ
「おじさんはどうして草を食べてるの?」
「…ッえ?」
「狼なのに?」
「…ふぇ…っえ」
子羊の向こうの母羊=白い悪魔を見やった
もしゃもしゃ…
何も警戒していない。…いや、あれは“自信”の現れた。
知っている。あのモコモコの下の鍛え抜かれた肉体を
あの土を踏む、蹄の痛さを…
…ごくん
唾と一緒に草を飲み込んだ。
「おじさん?」
「か…か…」
目の前にいる子供は無垢だ。
小さな瞳の中、好奇心をキラキラさせて答えを待っている。
何も答えないわけにはいかない…うん
ちゃんと言うぞ
「か…体に…良いからね!!」
その後の事はよく覚えていない
なんだか子羊達に懐かれて
おいしい草を教えてもらったりした。
白いドロっとした草は食べ過ぎると毒になると教えてくれたり
なかなかに…うん
なかなかに収穫のあった一日であった。…うん
「うぉおおおおおん!!」
今日も寝る前に
狼は屋根に上って月に吠えた!
「うぉおおおおん!」
「あー、ママ、あの声おじさんかな~?」
(………)
その遠吠えに秘めた悲しみを
知っているのは草原の白い悪魔一匹だ。
「うぉおおおおん!」