6. 電灯と人の心と氷と石鹸
一定数の電灯と太陽光発電システムを作ったので、設置を始めることにする。まずは城の周囲に篝火を掲げていた場所のうち1箇所に、照明機器として加工した器具を設置することにする。城内の運営や補修を担当している管理人や工人達に立ち会ってもらって、発電パネルとバッテリーと電線と配電システムの設置を行う。彼らは電気の概念がよくわかっていなかったので、説明したら感心された。
充電をある程度しておいた状態で、設置する二次電池を持ってきたので点灯してみる。篝火のように暑くなく、そして夜になっても明るく廊下が見やすいと驚かれた。感電や漏電などの注意事項を伝え、彼らに書面化してもらえるよう念を押した。
その夜に設置した一台をさっそく壊された。結論から言うと嫌がらせである。警備の衛兵が見回りで確認した時には、既に打撃が与えられ変形していた。ここまで人間はどうしようもないのかと頭を抱えた。
新しいものに取り替え、また壊しにこないか隠れて見張りをすることにした。来た・・・せっかく設置した照明をメッタ打ちにしはじめた男がいた。衛兵と一緒になって取り押さえる。神の所業に反する云々とか悪魔の仕業云々とか、追放された神官と同じセリフをブツブツ言っている。
公共物を破損した罪で男は捕らえられたが、このような人間がまだこの街に多くいるのだろうか。警備担当に聞くと把握はできていないが、偏った信仰を盲信している人間は一定数いるそうだ。頭を抱えたが、彼らの信仰の中身を分析した上で対抗策を考えた。エコルービスとザカライアさんに相談し、王の許可を得て或る事をやってみることにした。
僕はプロジェクターとスピーカーを設置して準備をした。夜投影像はあまり鮮明なものではなく、いかように解釈できるようなものにした。そして音声もエフェクトをかけ不明瞭ながら響いてくる音を選択した。実施当日の夜、上空にフォノグラムを浮かび上がらせる。神々しく威圧し光を放つ。闇がなくなる。影がなくなる。祈りを捧げた信徒たちの姿に見える。声が聞こえる「あれは神の奇跡だ!」「闇を消すわが町の奇跡だ!」あちこちでひざまずいて祈る人が出てきた。涙を流している人もいる。翌日に一斉に電灯への切り替えを行った。電灯のありがたさ演出はうまくいったようで破壊行為をする人間はこれ以降いなくなった。
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次に、コンプレッサーとポンプをセラミックで製作した。摺動抵抗も溶媒の漏れもないような精密加工はまだこちらの世界では無理なので、コア部品はこちらで供給し、職人達にはその他の部分を分担して製作してもらった。その一つとして自動製氷機を作り、市場に氷を供給した。
食品の保存に活用してもらう狙いだったが、市場の人々はもっと短絡的に冷たいものが飲んだり食べたりできることを喜んだようである。氷をお土産に持ち帰るような人もいた。溶けて水になることがまだわからないのかもしれない。そのうちに彼らにも気づいてもらおう。ドライアイスと保冷剤や冷凍倉庫の供給は、電力の安定供給の課題もあるし、もう少し経ってからやろうと思う。衛生問題の解決もあるので、いろいろ考慮しなければならないところがある。
次は洗濯をと考えて、とりあえず二層式洗濯機ならばこちらの職人でも製作できるだろうと考えて、図面を書きかけていたら、洗剤のことを思い出した。
合成洗剤は界面活性剤以外にも、蛍光増白剤や添加物が多くて大多数が自然環境で分解しにくいので、この世界の人々に先に便利さを覚えてほしくない。かといって石鹸も汚れが落ちにくくて石鹸カスが出るので、大量に使わせたくない。どちらを使うにしても住人が集中して清潔な暮らしのために大量消費が始めれば、河川の処理能力を超えてしまうので同じことである。
原料となる油脂やアルカリ剤なども質にこだわらず、洗浄効果が高いように溶解する構造になるよう、分散システムと反応プロセスを制御するような触媒構造や温度管理のシステムに徹底的にこだわった。これも、いったん洗濯の普及や清潔さの普及とともに、環境に悪い模造品が急激に出回る恐れがある。早々に大量生産して普及させるような体制を構築しなければいけない。
エコルービスさんに頼んで、石鹸を取り扱っている商人に頼み事をさせてもらった。僕が作った石鹸のサンプルを渡し、製造元に機械を提供し生産体制を整えてもらえるかの打診だ。石鹸の基本的な品質については満足してもらったので、あとは供給体制のところを製造元に説明して負担をどうするかといった話に持っていった。今のプラントなら家内製手工業の範囲で済むので、リース形式にしたほうがいいかもしれない。
そして自然での分解が追いつかなくなってくるときには、廃水処理が必要になってくるのが、その時の建設資金もプールするために、リースのほうがよさそうな気がする。