2. 周知と防衛
御読みただきありがとうございます。2話目です。
灯りは父や母と妹だけでなく、村の皆も驚き、そして喜んでくれた。
村の主だったリーダーたちに「この道具」から電気エネルギーを蓄えて増幅することができることや、それが灯りになること、モーターで回転する力に変換できること、そして直接触れると人間や生物がショックやダメージを受けることを説明した。
使うと何が起きるかを理解してほしいので、実験ではわざと発火させたり感電させたり、壊れたときの危険性を考えてもらった。半日ぐらい実演と実験や体験を含め時間がかかったが、参加者は勝手な解釈をしないで、人や環境に危害を及ぼすことがないように使ってもらえると思うし、応用も一緒にやっていけると思う。
人に教えてみると、迷信というものがどうして出来ていくのかわかった気がする。途中で考えるのをやめてしまい何かのせいにしてしまう。それが霊や妖怪の力だなどとしてしまうと迷信になるし、なんでも神の御力だとすると悪い宗教になる。だいたい宗教や迷信が理解を妨げるのだが、この村では物事を理解することを放棄したり、過大解釈したりといったことをしない習慣があるようで、それが村の伝統のようだ。
人間はあまり深層まで考えられないとして、数段階でまとめて一つの機能として理解してもらうのがよさそうだ。
最初に説明したリーダー以外の村の住民全員に、少しずつ難度を下げながら講習をすることにした。誤った解釈をされるのが一番恐ろしい。わかりやすく噛み砕くということ自体に恣意的な解釈が入り込んでしまいがちなので、気をつけた。
不思議や魔法という言葉で誤魔化されないように徹底した。
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最近盗賊が、街道を襲っているらしい。
街道は村の外を通っている。僕の村は侵入者対策として柵もしくは河で囲われている。訪問者は分岐した道から門を経由してからでないと村に入ることはできない作りになっている。この構造で盗賊などの略奪者は容易に侵入できないようになっていた。しかし悪意のある人間たちにとっては別に攻略可能と思われるかもしれない。より強力な防衛手段を整備したほうが安心できる。この村ではかなり使いやすくて威力の強いクロスボウを作っている。しかしながら、当然相手も武器は持っているだろう。撃ち合いでこちら側に死人やけが人がでるのは嫌だった。
柵の周囲に仕掛けを作ることにした。動力は水車小屋に発電機を設置し、さらに電線で蓄電池と昇圧装置とつなぎ、補助用に二次電池の代わりとして、手持ちのガラス原料からライデン瓶の容量を大きくしたような蓄電装置を、瞬間的に大きな電流が流れるようにした。野獣対策なら弱い電圧でもかまわないが、いつ襲ってくるかわからない連中のことを考えると、触れたら一気に出力を上げて一撃で動けなくさせることにさせるほうがいいだろう。そして警報装置も組み込み、周囲に近づかないように村で徹底してもらう。
ついでに護身用のスタンガンを作った。元の世界の護身用よりも威力は高めになっている。そしてクロスボウや武器を扱えない女性や子供たちに渡す。触れれば痺れて確実に動けなくなると思われる。訓練するときは出力を落としてピリッとする程度に調整できるようにする。村の住民だけには絶対黒焦げになってほしくない。盾タイプやワイヤー針を射出するタイプや、ワイヤレス式も作ってみることにした。
侵入者が全員動けなくなるわけではないだろうから、警報装置が作動したら自動報復で据え置き型のクロスボウを連射するようにしたいという村の大人たちの依頼を受け、作動装置を追加した。一度周囲の畑を荒らしている大きな猪が警報装置にひっかかった。感電して動けなくなったところに、矢が発射されていたが狙いの方向をもう少し見直した方がよかったようで、良いテストになった。
ついに野盗たちが襲撃にきた。彼らが警戒線に触れたようで、警告音が鳴り灯りが点灯して村全体が明るくなる。村の男たちが武器を持って襲撃場所に向かうと、かなりの人数が柵の周りで感電し、矢が刺さって事切れていた。残酷だけど、人のものを奪って生活している連中に情けは不要だというのが、村の人間の一貫した考え方だ。一緒に作っておいた投光器で、周囲を照らし、逃げようとする連中がいないか確認する。容赦なく村の大人たちはクロスボウを打ち込む。明るいので狙いは正確だ。
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撃退したことを報告したら、数日後に王国の治安部隊がやってきた。
拘束した生き残りの盗賊から聴取を行い、罰するため連行する準備を始めた。
奴らの聴取が終わったあと、父と僕に対する聴取が始まった。盗賊たちが恐怖の瞬間をかなり大げさに脚色して話したらしい。
治安部隊の隊長は、どうやって盗賊たちを撃退したのか興味津々な様子で・・・これはまずい・・・王国に強制連行される予感がする。
治安部隊が引き上げた後、村の防衛対策をより強化したり、村の周囲の資源を探していたりしていた。
電池の次は通信手段を作ることにした。太陽電池ができたので半導体もなんとかできた。電波を送信したり受信したり、振動を増幅して音声に変換したりと、スピーカーや部品を具現化するのに苦労した。とりあえず村の中で届く範囲の出力で一斉通話や、個別通話ができるインカム型の機器をいくつか作ってみた。
そして、通信機は電波がもっと遠くに飛ぶように、出力の強化と回路の修正を行った。いくら能力の力で細密な加工や結晶構造の組み換えができ、また出力の良し悪しが手を取るようにわかるといっても、ありあわせの材料では性能の限界がある。しかし何とか、当面隣国や王都とも通信はできる性能の無線通信機を作ることができた。この世界にも伝書鳩はいるが、リアルタイムに双方向で話せるし、途中で外敵に襲われることもないので確実だ。
通信機の完成から数日後、ついに呼び出しの使者が来てしまった。万が一のことがあっても村の守りはできる限りのことはしておいた。うちの村は遠方にも関わらずなぜか国王の直轄領であるので、手中に収めるために何か事を国王が企てることはないだろうと父は言っていた。信じたいのだが、王一人ではなくて取り巻きや宗教団体の面々が何を考えているのかわからない。
同じ治安部隊の隊長が政務官を伴って村に迎えに来た、そして僕だけ王都に行って直接聴取をされることになった。移動手段は馬車だった。馬はエコであるが時間もかかるし、乗り心地も悪いので快適ではない。サスペンションが組み込まれればもう少しよくなるが、そこまで村の外では加工技術が発展してはいないようだ。
交通は最初石畳だった道路に鉄のレールが敷設され、最初は馬が引っ張っていたのを蒸気機関車の導入に取って替わられといった歴史をこちらの世界では辿らせないようにしたい。化石燃料を使わせないために、一度に電気機関車や電車、そして電気自動車や燃料電池での交通機関を整備したい。そして石炭や石油をこれから掘り出しても儲からない、メリットがないように仕向けなければいけない。そのためには安全な魔道具として、二次電池や太陽光と水力の発電システムをより進化させたいところだ。まず産業として化石燃料に手をつけさせない、賢い商人が手をつけさせなくすることが、持続可能社会維持のためと、発生した利権を失いたくない人を発生させないための方策の一つではないだろうか。
政務官はあれこれ聞き出そうとしてきたが、こちらからは余計な情報を与えないようにかつ機嫌を損ねないように、逆に質問を浴びせた相手を持ち上げるように気を使った。しゃべり疲れて眠ったふりをしながら、またいろいろ設計構想を考えて過ごしているうちに数日間の旅が終わり、王都に到着した。
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王都は石造りの壁に囲まれた都市で、外敵からの防御はかなり考えられた作りになっている。村の構造も何となく似ているので先祖が関わっていたようにも思える。街も清潔で石畳に馬糞が落ちてもすぐに片つけられるようだ。この暮らしを維持できていれば、地球環境が破壊されることはなかったのだろう。
しかし人々がより良い暮らしを求めたから、元の世界では化石燃料を大量に使う社会に変わってしまった。そして近代化の名の下に、多くの人々の尽力だけでなく犠牲や公害といった悲劇が生まれてしまった。こちらの世界ではそうはさせない。
政務官の執務所に到着した。彼の上司に面会することになった。
待たされている間に出された飲み物は紅茶ではなかった。まだ輸入されていないようだ。これも産業革命と多国間貿易の悪癖の一環だったが、よかった、まだ間に合う。
上司は担当政務官が作成したと思われる書類を手にして現れた。狙いがわからないので当面は腹の探り合いをする。途中の旅の印象を当たり障りなく話してとりあえず様子を見る。高圧的な態度は取ってこない、感謝の言葉がその上司から出る。彼らとしては街道を荒らしていた問題の盗賊の主戦力を殲滅できたので御の字のようだ。そして防御システムの話題に振られる。彼らとしても電気を流して動けなくして、自動で射抜いてしまったことは信じられない様子だった。とりあえず電気の概念を説明する。
政務官の上司は、次に学者たちとの面会を設定してきた。産業革命前後の学者たちのやってきたことは、目の前のできることで自分の存在感をひけらかすことに執心し、作ってきたことが後々どうなるか考えられない視野の狭い人々ばかりだったという印象がある。彼らはどうだろうかと思っていたら、やはりその通りだった。そんなことできるわけないと否定に入り、こちらがよくわからない理屈をこねる。多分彼らの想定外のことを僕がやってしまったのだろう。僕は実際に電気の流れを知覚できる能力を与えられているが、彼らの世界で規定された定義がわかりにくい仮定理論の話についていけない。話は平行線だ。そこで政務官の上司も時間の無駄だと決断したようで話を切り上げた。
政務官が謝ってきた。食事と宿泊施設に案内され、僕は今日会った学者たちの問題点を簡潔に指摘したら彼も同意していた。政務官が今日の議論を聞いて理解を深めていたのに驚いた。この理解度なら他の人に説明してもらってもほぼ大丈夫ではないかと思う。目的と効果から先に入って細部を掘り返さなければまだ理解しやすいと彼も言っていた。彼は本日の結果を上司と一緒に書類にまとめて、さらに上に報告するらしい。明日は別の人間をつけるので、都の見学をしてほしいとのことだった。