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プロローグ

ゆっくり平行連載予定です。

その日、ティーナは夜勤だった。それも一人。機械とスクリーン以外は誰もいない。それをいいことにティーナは禁じられた行為をしていた。今日新発売の駄菓子を制御室に持ち込んでいたのだ。


「うーん、この、上品な風味と、サクサクした食感! ほんとにシュークリームを食べてるみたいっすよ。今回の冬の新作は当たりっすねえ!」


トウク製菓はティーナのお気に入りだ。駄菓子なのにクオリティーが高い。ティーナはもう一粒口の中に放りこむ。かたいシューを保つためにか、内側に入っているのはクリームではなくペーストであるが、ティーナは満足気な顔を崩さなかった。


「つぎは、トリュフソース風味のポテスナックっすね」


ニコニコしながら、ティーナは袋の裏表を握り、開こうとする。スクリーン下のパネルの隅の赤い点滅に気づいたのはそんな時だった。


「誰すか、こんな真夜中に転生してくるのは。非常識っすよ」


至福の一時を邪魔されたティーナはいつもより乱暴な所作で、点滅する部分を叩く。すると、スクリーン上に大きく、転生状況ステータスが表示される。そこには、


「転生途中0 転生完了直前1 一年以内の転生完了数 3」


と表示されていた。


ある世界から違う世界への道の所有権は世界同士の力関係によって決まる。そもそもティーナの世界のように、自覚的に世界を所有しているモノがいる世界自体が少なく、事実上、ティーナの世界に至るすべての道は、ティーナの世界に所属していた。それを利用して、ティーナの世界は、その道の難易度や距離を、異世界人が通過する時間によって、変化させている。だから、異世界人がいつ、ティーナの世界に転生しようとしても、正午またはお昼前後に転生して来るように調節されている。だから、今回のように、真夜中に転生完了に至ることは、レア中のレアケースなのだ。


「転生調整システムの故障っすかねえ。どうせ、アーノ先輩がシステム管理の人に払うお金ケチッたすよ。ホント、アーノ先輩は鬼っすから」


そうグチりながら、ティーナは今度転生してくる異世界人のステータス検査を請求した。異世界人の場合、ステータスを出しても、うまくすべての情報が載らないらしいが、そもそも異世界人は、魔法も使えない最弱な状態で転生してくることが多いので、それで問題が生じたことはティーナの在職中、一回もない。


「あーあ、また魔力0のヒト。鍛えても、二桁いくっすかねえ? 転生先の街からほとんど外出れないんじゃ可哀そうっすよ。保護院への案内員も手配するべきっすね」


それでも、っとティーナはつばを飲みこむ。異世界人は面白い知識を持ってくることが多いのだ。たとえば駄菓子とか。


「駄菓子を作る会社で働いてた人だったら、ジブンが有給休暇とって、最初の面倒みてもいいっすね」


ティーナの夢は膨らんだ。思えば、ティーナがいるときに転生してきたのはラッキーだったかもしれない。ティーナはそんなことを思った。


転生はあと10分ほどで完了するらしい。あとはティーナが転生許可を出せば、転生は無事完了する。許可を出さなくても完了するのだが、出さないと、システムがうまく働かず、場所が指定できない。トイレの中に転生したりするし、転生者が一杯いるところに転生するかもしれない。そうすると、ホームシックが長引いて、この世界になかなか順応できないだろう。それを避ける為である、とティーナは教えられていた。


「さあ、転生許可を出すっすよ。お菓子の人、出てこい!」


ティーナは下っぱなので、転生許可のボタンを押すのははじめてである。右手をプルプル震わせながら、ガチャでも引くように、目を細めて、指先を伸ばす。その細目に、ステータスのとある文字が映り、ティーナは突然手を止めた。


「えっ、世界を崩壊させる知識度:80+% って。えっ?」


ティーナの顔面は蒼白になった。世界を崩壊させる知識度、とはつまり、ティーナの世界でいう、魔王を倒す可能性を意味する。それが、80+%!! ヤバイなんてもんじゃない。ティーナは個人的には魔王のことなんてよく知らないが、この人をそのまま転生させたら、アーノ先輩に何をされるか分からない。


「知識封印! 封印っすよ!」


ティーナはパネルを操作する。転生人の知識の一部は、転生時に封印することが可能なのだ。


<永続的知識封印ー完全に拒絶されました>


「永続的じゃ、やっぱダメッすか!」


<一時的知識封印ー適切なスキル付与を代償とすれば可能です>

<付与するスキルを選択して下さい>


ティーナは、少し緊張を解いた。最悪の事態は避けられそうだ。


「転生人が望みそうなスキル…」


<炎魔法Lv1ー無効です>

<光魔法Lv1ー無効です>

<転移魔法Lv1ー無効です>

<空間魔法Lv1ー無効です>

<魔王魔法Lv1ー無効です>


「もう! ガンコな知識っすねえ! 何だったらいいんすか!」


Lv1を獲得しさえすれば、あとはLv限界まで上げていける。魔王の概念を使う魔王魔法なんて、普通の転生人は絶対に取得できないし、ティーナだってまだ使えない。これでも、こっちは結構譲歩しているのだ。付与ガイドラインでも、付与が認められる限界ギリギリのスキルだったりする。


「ひょっとして」


<生成(食)魔法Lv1ーー

ー無効です>


「ちょっとガッカリ」


考えてる時間はあまりない。あと5分ちょっとで転生は完了してしまう。ふと、ティーナは知り合いの転生人との会話を思い出した。


「俺、魔眼に憧れてるんだよねー」


「へえー、なんでっすか? 魔眼ってそんな役に立たないっすよ。スキル持ちの熟練の人と組んだことありますけど、ぼんやりとしたことが分かるだけで、モンスター倒すスキルじゃないし、その人は虫めがねを持って狩りをするようなもんだ、って言ってたっす」


「ティーちゃん、そういうことじゃないんだって。カッコイイでしょ、魔眼って」


「そうっすか?派生スキルも、魔法の角度補助とかそんなんっすよ。超地味っすよ?」


「だから、実用性じゃないんだって。分からんかねえ、このロマンが」


転生人はそれからロマンを語り出したが、ティーナは目の前のパフェに集中していたので、よく覚えていない。実際、付与ガイドラインの危険度でも、魔眼は中の下レベルのスキルである。


「でもこの転生人にもロマンがあるなら…」


<魔眼Lv1ーーー受理されました>

<世界を崩壊させる知識度: 62%への封印に成功>

<派生スキルのポテンシャルも解放することで更なる封印を実行しますか?>


「やったあ! ロマンあったっすよ! まあ所詮魔眼。半分まで封印ができなかったのは仕方ないっすね」


<派生スキルのポテンシャル解放ーーー受理されました>

<世界を崩壊させる知識度:19%への封印に成功>


「まあ、こんなもんっすね。異世界人は普通30%くらいは持ってるもんですし」


それに可能性25%で倒せるほど魔王は簡単ではない。40%くらいなら0%に潰せるのが、魔王魔法である。というか、19%で魔眼だけで生きていけるのか。ちょっと減らし過ぎたかもしれない。友達の転生人の顔が浮かんだ。


「おまけ付けときますか」


<炎魔法Lv1ーーー受理されました>


魔法が一つでもあれば、貧しくとも、この世界で生きていける。世界を崩壊させる知識度は19%のままである。あと10秒で転生する。


「危なかったっす。さあ、どうぞ、来てください!」


<転生許可ー実行されました>

<転生まで5,4,3,2,1,0>

<転生完了しました>

<転生先はゴヤの街です>


「ゴヤの街って、超田舎じゃないっすか。転生人一人もいないんじゃ? 保護院もないっすよ?」


ティーナのいる魔王首都からは端と端ほど離れている。ティーナと会うことはないだろう。首都から近かったらティーナの友達を紹介してもよかったのだが。


「まあ、仕方ないっすね。やることはやったっすから」


逆に転生人がいない場所は転生人差別も少ない。転生人、という概念がないからだ。その方が幸せなのかもしれない、とティーナは思い直す。


「はあー、今日は仕事しました。すっごい危機対応でした。自分を褒めてやりたいっすね」


はじめての転生許可、それも先輩と一緒のときですら出くわしたことのないほど危険度の高い転生。それを無事に終えた安堵感からか、ティーナはあくびをした。そして、開け損なっていた、ポテスナックの口を開け、中の空気を胸一杯に吸い込んだ。

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