苦手な理由
仕事をきちんとこなしつつ適度に休んでいるアフィ。
そんな彼女の夫妻にも協力してくれているガネクト。
ガネクトは動物が大の苦手であり、動物恐怖症でもある。
外にあまり出たがらないそんなガネクトもたまには外に出てくるようで。
「ん、んー…にしても今日は曇ってるね」
「夜には雨だそうです、今は平気だと思いますが」
「ならいいんだけど、あれ?ガネクトだ」
広場のベンチでかなり疲れた顔をしているガネクトを見つける。
一応声をかけてみる事に。
「ガネクトー、またずいぶんお疲れみたいだね」
「アフィとメルク殿ですか、さっきまで仕事をしていたもので」
「もしかして動物関係ですか?」
「ええ、私が動物は駄目なのに結構その手の依頼が来るんですよ」
「それで生気の抜けたような疲れた顔をしてたんだ」
ガネクトは重度の動物恐怖症であり、触るなんて当然として近づくのも怖いのだ。
それなのに来客の多くが動物の怪我に効く薬などを要求してくるという。
その際にそのペットの動物も連れてくるものだから、それこそ顔面蒼白なのだと。
「獣医もいるんですけど、軽い怪我ぐらいなら私の薬の方が早いんですよ」
「それでよくペットの傷薬を作ってくれっていう人が来るのか」
「そのせいで精神がどれだけすり減っているか…本当に魂削ってるんですよ」
「でもガネクト殿はなぜそこまで動物が苦手なのですか?かなりの重症のようですが」
「大体は過去にあるんですけどね、本当に怖かったんですよ」
ガネクトが動物を苦手とする理由。
それは過去にあるのだというのはなんとなく察しがつく。
それでその苦手になった理由というのは。
「昔に採取で外に出ていた際に猫だけが住む島というのに行きましてね」
「猫だけが住む島、人によっては楽園かも」
「そこでうっかりマタタビの粉末を持ち込んでしまったんです、あとは察してください」
「猫に一斉に襲われた、という事ですか」
「ええ、あの時の恐怖が今でも忘れられないんですよ、悪夢に出るぐらいには」
自分のミスとはいえあの時に猫に襲われた恐怖がずっと忘れられないという。
そして気づいたら動物そのものに拒絶反応が出るようになっていた。
犬や猫は当然として、うさぎやハムスターですら拒絶反応が出るようになったと。
「あれから考えも変わりました、ペットを飼う人の気持ちが一切理解出来なくなって」
「心の奥底にまで刻み込まれた動物への恐怖心ですか」
「ええ、あれからは動物の鳴き声に条件反射で身構えるようになりました」
「恐怖が完全に全身から心にまで染み付いちゃったんだ」
「近づいてきただけで全身が固まります、触るなんて絶対に無理なんですよ」
その時の恐怖が完全に全身から心にまで染み付いてしまった。
それにより口には出さないものの、過激な思想にまで発展しているという。
ガネクト曰くペットを飼うのは国の許可制にするべき、という。
「それなのに昔よく作っていた動物用の傷薬が人気なんですから、本当に怖いんです」
「一度染み付いた恐怖は簡単には消えませんからね」
「ペットは許可制にするべきです、審査は厳しくして当然で」
「ガネクトって結構過激な思想を持ってるよね、大々的に言わないだけいいのかもだけど」
「許可制に出来ないならペットなんて犯罪にしてしまうべきです」
大々的に言わないだけマシではあるが、そこまで過激な思想にさせた当時の恐怖。
それは500年以上経過した今でも脳裏に焼き付いていて悪夢として出るほど。
その恐怖がガネクトを過激な思想へと走らせたのだと。
「本当にペットを飼う人の気持ちが一切分かりません、癒やしとか何かの冗談かと」
「それなのに動物用の傷薬を作ってくれっていう人が来るのか」
「その仕事が舞い込むたびに精神をすり減らしますし、魂は削られますし」
「それでこうして凄く疲れた顔をしていたと」
「記憶を消せるなら動物用の傷薬のレシピを記憶から消したいです」
ガネクトがどれだけの重症なのかが分かる話でもある。
過激な思想へと走らせ、しかも条件反射が出るほどになっている事。
過去に刻まれた恐怖はずっと消えないという事が分かる話でもある。
「それじゃ私は仕事に戻ります…また動物用の傷薬だ…」
「いつか消えちゃいそうだよね」
「恐怖は消せないという事なんでしょうか」
ガネクトは疲れ果てた顔で工房に戻っていった。
それを見ていたアフィとメルクも心配になっていた。
恐怖は消せない、それは過去のミスが今に至るまで続いているもの。
得意だったものが恐怖になってしまったのだから。




