鍛冶屋と侍
いつものように仕事をこなすアフィ。
そんな今日は休日なので、仕事もさっさと終わらせ自由にしていた。
休みの日といえばあの人が山から下りてくる日。
せっかくなので会っておこうと思い立った。
「失礼しまーす」
「おう、アフィじゃねぇか」
「おーっす、鍛冶屋のおじさん」
鍛冶屋に顔を見せるアフィ。
そこには主人のおじさんとエルメナがいた
「エルメナも来てたんだね」
「うん、いつもの仕事でね」
「エルメナの嬢ちゃんは鍛冶屋としても優秀で助かるんだ」
エルメナ、素性が謎に包まれた剣士で鍛冶屋の仕事もしている。
休みの日には山から下りてきて鍛冶屋の手伝いをして報酬を得ている。
彼女の作る武具は概ね好評で、壊れにくいと評判でもある。
「それで、何か武具でも欲しいの?」
「うーん、そっちは間に合ってるかな」
「冷やかしかよ」
「まあまあ、エルメナに会いたくてきたんだしさ」
アフィもエルメナを慕ってはいる様子。
エルメナは若くして剣聖の称号を持つ剣の達人だ。
誰に教わったのか分からないその剣術。
だが国には噂がある、それはある時聖騎士団の隊長が仕事を辞めている事。
それからはその隊長の話を聞かなくなった事。
その隊長と同じ剣だと証言する者が聖騎士団にいるという事だ。
真偽は分からないが、その隊長の娘ではないかと囁かれているのだ。
「失礼するぞ、エルメナはいるな」
「…また来たの?」
「うむ、私は諦めんぞ」
「エロイドの姉ちゃんは本当に諦めねぇのな」
「刀を打って欲しい、そうよね」
エロイドはエルメナの腕を買っている。
そのため刀を打って欲しいと前々から持ちかけているのだ。
エルメナは断りこそしていないが、金属を自分で調達するように条件を出している。
流石に金属を自分で作れないエロイドはそれについて考えている。
「なあ、アフィ、お前金属を作れるだろう?」
「そりゃ作れるけど…」
「ならアフィに作ってもらえばいいか?」
「それはいいけど、あたしは休みの日にしか来ないわよ」
「それでもいいよ、それでエロイドはどんな金属の刀を作らせたいの?」
エロイドは少し考える。
そして思いついたのはよく斬れる刀というざっくばらんな答えだった。
「よく斬れる刀かぁ、だとしたらハルモニウムかな?あれ結構大変なんだけど」
「そういえばエロイドは強い相手も探してたのよね?」
「む?ああ、そうだが」
「なら噂だけどいい材料を持ってる魔物を知ってるわよ」
「そうなの?ハルモニウムよりいいとか?」
エルメナが言うのは少し遠くではあるが、雪山に生息する氷竜だ。
その氷竜の鱗は金属のように硬く、氷の力を秘めている。
それを使えばハルモニウムにも匹敵する刀が打てるという。
だが相手は氷竜、簡単に勝たせてくれる相手ではない。
少なくともアフィとエロイドだけで勝てる相手ではないという。
「ふむ、武者修行も兼ねてそいつに挑んでみるか」
「いいねぇ、ならあたしも付き合うよ」
「一応言うけど、鱗と刀の材料の玉鋼も必要だから忘れないでよ」
「分かってるよ」
そんなわけで話は一応まとまった。
とはいえアフィとエロイド以外に誰か誘える人を考えると、一人思い浮かんだ。
エルメナに約束は取り付けたため、同行者を増やして氷竜退治に行く事に。
早速その人に会いに行く。
「ヘイン!」
「あら、アフィにエロイド、私に何か?」
「実はかくかくしかじかでね」
「なるほど、つまり刀の材料の鱗を持ってる氷竜退治についてきて欲しい、と」
危険なのは知っているが、ヘインの剣の腕は騎士団だけでなくアフィも買っている。
アフィは一応メルクの許可をもらう必要はありそうだが。
「別に構わないわよ、腕がなまらないようにするにはいい相手だし」
「決まりかな、あたしは旦那様に許可もらってから行くよ、先に門に行って待ってて」
「分かった、では待っているぞ」
そうしてアフィはこの時間は教会で働いているメルクのところに向かう。
そこで事情を説明する事に。
「なるほど、つまり手伝いで氷竜退治に行くと」
「うん、いいよね」
「あなたがそういう人なのは知ってます、仕事の期限には余裕がありますから」
「ありがとね、旦那様」
「ただし無茶をする事だけは許しません、いいですね?」
アフィも過去の経験からそれは理解している。
そんなわけで許可はもらったので、門に向かう。
「お待たせー」
「来たか、では早速行くぞ」
「腕が鳴るわね」
そうして三人は氷竜退治に向かう。
アフィが錬金術で作った転移の翼ですぐにそこまで行けるので楽なものだ。
雪山の氷竜は簡単な相手ではないことを知りつつ、相手に挑みに行くのである。