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なくしたものと手にしたもの

今日も特に変わらぬ日々を送るアフィ。

最近は騒がしかったため、この平穏を噛み締めている。

とはいえ盗賊団の噂はたまに聞くため、完全な平穏がない事も知っている。

そんな中ヘインがどこか物悲しげな顔で空を見上げているのを見つける。


「やっぱり平穏はいいものだね」


「仕事はしているからいいものの、僕も仕事はあるんですからね」


「旦那様には苦労をかけてるからね、感謝してるよ」


すると広場の噴水の近くにヘインの姿を見つける。


何やら空を見上げているようだが。


「やほー、ヘインじゃん、何かあったの?」


「あら、アフィ、別に何かあったっていうわけでもないわよ」


「その割にどこか悲しげな顔をしていましたが」


「そうね、私も今が幸せ、そう思っていただけよ」


「今が幸せ、ずいぶんと詩的な感じ」


ヘインの過去については知る者はいない。

本人が話そうとしないのもあるが、その素性そのものが謎に包まれている。


分かっているのは凄腕の剣士で暗黒剣の使い手であるという事だけ。


「私もここに来るまでに多くのものをなくした、でも手にしたものもたくさんある」


「ヘインって自分の事を話そうとしないよね、何か暗い過去とかあるの?」


「そうね、何もかもを失ってそれでも手にしたものは大きくて、ってところね」


「それはつまり故郷が今はないとか、そういう事でしょうか」


「失う事の辛さは失ってはじめて分かるのよ、身近なものがどれだけ大切か、とか」


その言葉には失ったものの大きさを感じさせる。

だがそれについては話そうとはしない。


ヘインは一つの問いを投げかける。


「ねえ、優しい人ってどう思う?」


「優しい人?うーん…いい人…じゃないの?」


「そうね、それは間違っていないわ、でも優しいから判断を誤ってしまう、としたら」


「それはつまり大局的な判断を出来なかった、と解釈してよろしいですか?」


「ある国にとても優しい王子様がいました、その王子様の優しさが国を滅ぼしました」


詳しい事はぼかしつつも、それはヘインの過去なのだとメルクは感じた。

優しさが国を滅ぼした、それは判断を誤ったという事だと。


優しさが判断を誤らせ、その結果国は滅びてしまった、そんな話。


「その王子様には婚約者がいました、その婚約者は騎士団の隊長でした」


「婚約者、優しさが国を滅ぼした…」


「ある日突然隣国が国境を越え宣戦布告もなしに攻め込んできました」


「戦争、ですか」


「騎士団はそれを食い止めるべく出撃、ですが物量の差で押されます」


ここからがその話の核になる部分。

優しさが国を滅ぼしたという言葉の真意。


「婚約者の騎士は敵軍に捕虜にされ、解放条件として国を明け渡せと迫ります」


「王子様の事を知ってて言ってるんだ…」


「王子は一週間前に父である前王を病で亡くしていて、即位して間もなかった」


「それを知って隣国は攻めてきた…条件は釣り合わないのに…」


「王子は選択を迫られます、婚約者を救い民を殺すか、民を守り婚約者を殺すか」


それは個と全の天秤。

個を取り全を捨てるか、全を取り個を捨てるか。


王子の選択は優しさに流され甘い選択をした、という事だ。


「王子は婚約者を取った、その結果隣国は国に侵略、民は一人残らず皆殺しにされました」


「そんな…話が違うんじゃ…」


「そして王子とその婚約者も殺されます、そうして隣国は領土を広げました」


「最初から分かっていて…王子がそういう性格だという事も…」


「優しさっていうのはこういう事態も招くものよ、大切な人を捨てても守るものは何か、ね」


それは国を治める王にとって求められるもの。

冷酷になれない人間に上に立つ資格はない、それを証明した話。


全てを救うなどという事は決して出来ない、取捨選択の意味でもある。


「まあ私の過去についてはこの話から好きに推測していいから」


「国を治める王に求められるもの、優しさを捨てるという勇気…ですか」


「その王子様が大切な人を捨てられないって見透かされていたのよね」


「優しさを捨てるという勇気…即位したばかりの王子様が選んだもの…」


「世の中そんな優しくない、それだけは覚えておいてね」


ヘインの過去についてはその話からある程度の推測は出来る。

恐らくその国の人間の生き残り、なのだろうと。


優しさに流されて判断を誤るならそれはただ甘いだけ。


その話は真偽はともかく、どこか生々しさを感じた。

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