影倉麗奈と因縁の相手~後編~
流を昔いじめていた連中は騎士団に連れて行かれた。
そして流は改めて麗奈に今後の事も話す事に。
アフィ達はそれを見守りつつ流の事を考える。
カイトもそんな流を気遣っているのか、今回は大人しい。
「麗奈さん…」
「そんな顔しないで、私はあなたを責めに来たわけじゃないから」
「でもお姉さんが亡くなったのは半分は俺のせいでも…」
流の過去、それは麗奈の姉に好意を持っていた事。
そして流をいじめていた連中はそれを利用してその姉を殺害したという事だ。
「あの時は本当は救えたはずなんだ、でも…」
「そうだね、でもいじめっ子の中に警視総監の息子がいた、そうだよね?」
「それは…」
「その時点で警察が動けるはずもなかった、私は分かってたよ」
「本当なら俺が助けてやりたかった…それなのに…」
流は今でもそれを悔いているのだろう。
警察の上層部の人間を親に持つ相手に警察を無力化された。
権力を使って自分達のしていた事をもみ消していた。
それが原因で麗奈の姉は誰にも助けられないまま殺されたのだ。
「それでも何者かがあの人達の悪事を全部暴いた、それだけでいいの」
「結局は因果応報、なのか」
「うん、悪い事をしてる人にはいつか必ず罰が下る、そうでしょ」
「お姉さんの事は…本当にすまない」
「そんな顔をしないで、お姉ちゃんもあなたにそんな顔をして欲しいと思ってないよ」
こんな状況でも麗奈さんは強気に振る舞ってみせる。
本当は自分が一番悔しいはずなのに。
だがもしその姉が復讐を望んでいたとしたら。
それは今回の一件で果たされたという事になるのだろうか。
「もし復讐を望んでたとしたら、今回の一件でそれは果たされたのか?」
「どうだろうね、死人に口なしっていうけど、復讐が何も生まないなんて戯言だよ」
「意外と言うんだな」
「一番悔しいのはその家族と周辺の人達、本当なら今すぐ殺したいと思うかもしれないし」
「そうだな、麗奈さんの家族もずっと苦しんできたんだ」
麗奈の言う復讐は何も生まないなど戯言という言葉。
それは大切な人を失った人なら誰もが思う事なのかもしれない。
復讐は何も生まない、それは違うのだ、自分がスカっとするから復讐をするのだ。
あいつらが笑ってるのが許せない、人を殺してのうのうと生きている事が許せない、と。
「私も本当は殺してやりたいと思ったよ、でもそうしたら一緒になっちゃうから」
「そっか、それなら安心だな」
「流君も私も本当はずっとそう思ってた、でもそうしなかったのは理由があるんだよ」
「結局は誰とも分からない奴が全部暴露して転落人生、分からないもんだ」
匿名掲示板に投稿された流をいじめていた連中の情報。
それによりそれは一気に拡散され、親もそいつらも一斉に逮捕された。
そのまま家庭は崩壊し、そいつらの親は心身を病んでいるという。
それでもここまで追ってきた事にはある意味敬意を表したいものではある。
「それで、これからどうするんだ?」
「少しこの国を観光したら国に帰るよ、それまでは案内してくれるよね?」
「はぁ、そういうところはあいつにそっくりだ」
「妹だからね、寧ろ私がお姉ちゃんに似たんだよ」
「それもそうか、それじゃ行くぞ」
そうして流と麗奈はアフィ達の家を出る。
人がいる場所ではあれだという事で、家を貸したアフィとメルクも人がいい。
カイトはそんな流をからかいつつも、その辛さは理解してやっている。
カイトは流の大切な親友なのだから。
「それでこれからどうするの?」
「少し案内してあげるつもりだ、数日はいるんだろ?」
「うん、そのつもり」
「ならしっかり彼女をエスコートしてあげるんですよ」
「僕は今回はお邪魔みたいですから、ロイドの相手でもしていますよ、それでは」
そう言ってカイトはその場をあとにする。
アフィとメルクもその背中を見送る。
「なんか背中が大きく見えるね」
「成長したという事ですよ、男の人の背中はそうして大きくなるんです」
「旦那様もそうだよね、あの時の背中は大きく見えたなぁ」
「ふふっ、ほら、仕事をしてもらいますよ」
「はーい」
そんなこんなで今回の騒動は落ち着いた。
麗奈はそれから数日後に国に帰っていった。
いじめっ子達は国で然る手続きの上で本国に送還、裁判にかけられる事になったという。
男の背中が大きく見える時、それは成長の証なのかもしれない。




