覚悟と心配と
エルメナとも正式にその関係を結んだアフィ。
そんな中メルクと一緒に流に何やら呼び出される。
話があるとの事だが、呼び出された場所は国の騎士団の食堂。
どうやらなるべく聞かれないように話したいようだが。
「おーい」
「我々に何かご用でしょうか」
「ああ、待ってた、とりあえず座ってくれ」
何やら神妙な面持ち、何かあるのだろうとメルクは察する。
アフィもそれを察したのか、一応話を聞く事に。
「それで何があったの」
「…ある人から手紙が届いたんだ」
「手紙?」
「差出人は影倉麗奈、俺が昔好きだった人の妹だよ」
「ただのラブレター、ではなさそうだね」
手紙の差出人は影倉麗奈という女性らしい。
話では彼女は過去に流が好意を抱いていた人の妹だとか。
それについての心配事が流にはあるようだ。
「どうやって調べたかは分からないけど、その人が近いうちにこっちに来るらしい」
「うん、それで心配事があるんだよね?」
「ああ、確実に麗奈さんをつけてあいつらも来ると思う」
「あいつら?それはただの友人、とは思えませんね」
「そいつらは昔に俺と俺の友人をいじめてた奴だ、一度は捕まってるんだがな」
流の心配というのは過去に流をいじめていた連中らしい。
流が言うにはそいつらはとてもしつこい奴で、まだ諦めていないという。
何も告げずにこの国に医学生として留学してからも奴らのニュースは聞いたという。
あのしつこい奴らが諦めているとは思えないからだという。
「あいつらは絶対に俺を狙いに来る、しかも街中でも平気でやらかす奴らだ」
「うわ、怖いもの知らずだね」
「絶対に麗奈さんも一緒に狙うと思う、だから事前になんとか出来ないかと思ってな」
「ふむ、確かにこの街は騎士団なども巡回していますが、あらかじめは難しいです」
「なんでもいいから手を打てないか?」
流が心配しているのは確実に凶行に及ぶという事だという。
とはいえ騎士団をあらかじめ動かしておくのは難しいとメルクは言う。
神殿騎士団は自警団的な役割ではあるが、起こるかも分からない事態には動けない。
流はそこで一つ提案をする。
「なら私服警官みたいな事って出来ないか?」
「なるほど、騎士団の数人を私服で市民に紛れさせ密かに監視すると」
「それなら動かすのは数人で済むし、騎士団自体にも負担は少ないだろ」
「出来るかは分からないけど、旦那様ならそれぐらい出来るよね?」
「ただ麗奈さんはいつ来るかは分からない、奴らに悟られないようにするはずだ」
とはいえ流が言うにはそう遠くないうちには来るだろうという。
この手紙も足がつかないように送られていると言ってそれを確認させた。
それでもいじめていた奴らはなんとしてでもつけてくると思っている。
だからこそ私服警官のような事をお願いしたのだ。
「とりあえず神殿騎士団の団長に話はしてみます、出来る保証はないですが」
「それでも助かるよ、すまないな」
「流がこの国に留学したのも覚悟を決めてだもんね、あたし達も出来る事はするよ」
「すまないな、二人なら頼めると思ったから」
「凶器は持ち込めないでしょうから、現地調達、あとはターミナルに配置すべき、ですか」
ただいつ来るかはわからない、連絡先は教えていないが、調べている可能性はある。
だがもし電話を使えば通信記録からバレる事もあり、連絡してくるとは考えにくい。
つまり流に連絡する事なくやってくるだろうと踏んでいる。
神殿騎士団の権限も使い、ターミナルから動かすのが最善手だとメルクは考える。
「とりあえず誘導役と監視役を用意させます、許可が下りれば、ですが」
「分かった、とりあえずアフィ達に会うように誘導させてくれるか」
「そこであたし達に流とのコンタクトを依頼させる、だね」
「そうすればあとはなんとでもなるだろうからな」
「ただし大人数は動かせません、バレる危険性と本来の仕事を疎かには出来ませんから」
「それで構わない、それじゃ頼むぞ」
「お任せを、なんとか口説き落とします」
そうして流に会いに来るという麗奈という人を密かに監視する事になった。
もちろん麗奈ではなく本当に監視すべきは、つけてくると思われるいじめっ子。
メルクはその足で神殿騎士団に交渉に向かった。
流は過去からは逃げられないのだと、改めて思っていた。




