煮えたぎる血~後編~
再び山に登ったアフィ達が見たのは憎悪に駆られたエルメナだった。
なんとか落ち着かせようにも完全に頭に血が上っている様子。
仕方なく力で押さえつける事になる。
ヘインの力も借り、エルメナに挑む。
「はあぁぁぁぁっ!!」
「おっと、やはり武器の大きさから重圧が違うね」
「ヘイン、なんでそんな落ち着いてるのさ!」
ヘインの冷静さはその経験を感じさせる。
剣の腕が優れていてもアフィとはくぐり抜けてきた経験の差だ。
「彼女は恐らく血の力が強く働いている、ただ傷つけても倒せないよ」
「ならどうすれば?」
「精神的なダメージを与える、そうすれば大人しくなるだろう」
「分かった、任せて!」
「余裕ぶってないで、かかってきなさい!!」
とりあえずはエルメナの攻撃を誘う事を提案される。
そこにヘインの精神を攻撃する剣技を叩き込む寸法だ。
とはいえそれも簡単には行かない。
「足を絡めよ、風の鎖よ!」
「こしゃくな…!」
「なら、こいつを喰らえ!痺れガス爆弾!」
「っ!?そんな子供騙しは効かないわよ!」
「流石に体の自由を奪われれば今までのようには動けないだろう、一気に行くぞ!」
メルクの魔法とアフィの痺れガス爆弾でエルメナの自由はある程度奪われた様子。
あとは動きを抑え込むのみだ。
だがエルメナも簡単にはやらせてくれない。
「この程度で…勝ったと思わないで!!」
「アフィ!?」
「残念でした、至近距離なら流石に防げないよね!凍結ガス爆弾!」
「っ!?だからそんな…手足が動かない!?」
「ヘイン!やって!」
「その覚悟、しかと受け止めた!」
エルメナ剣を右腕の義肢で直接受け止めそのまま至近距離で凍結ガス爆弾を爆発させる。
その攻撃で右腕は砕け散るが、至近距離の攻撃によりエルメナは動きを封じられる。
とはいえ至近距離のためアフィも一緒に動けなくなっていた。
「生死を分かつは剣持つ宿命、奈落で悟れ!獄氷!」
「ぐうぅぅぅぅっ…!?」
「どうですか!」
「完全に、とはいかないけど、勝負ありね」
「ほら、立てる?」
地面に膝をついたエルメナにアフィが手を差し伸べる。
右腕の義肢は粉々になっているものの、なんとかの勝利である。
「…ごめんなさい、熱くなってしまって」
「別にいいよ、まともにやって勝てるとも思わなかったしね」
「だから動きを封じる手ばかり使ったのね、本当にずるい人」
「それよりそこの彼女はまだ息がある、治療をしてやるんだ」
「それは僕がやります」
「ダメ、魔物には聖なる魔法は毒なの」
「ならどうしますか?」
「あたしが持ってきてる薬を使うよ、それなら効くはず」
とりあえずは家の中へと運び、アフィの薬を使う。
右腕がなくともそれぐらいはお手の物だ。
少ししてその魔物が意識を取り戻す。
「うーん、あら、エルメナちゃん」
「お母さん!よかった…」
「やっぱりそうだったんだね」
「そのようです」
「とりあえずは最悪の事態は避けられたようで何よりかしらね」
とはいえ気になっている事がある。
見られていた事ではなく、エルメナの母親を拉致しようとした賊の事だ。
それについてはヘインが知っているっぽい。
「あの賊なら知ってるわよ、あれはこの近辺を転々とする盗賊団ね」
「それって騎士団も調べてるっていう…」
「なんでそいつらがここに?」
「恐らくこの近辺に来てたのよ、そこで見られてこうなったと」
「だとしたらもう逃げたかしら」
「本体はとっくに逃げてるわね、エルメナが殺ったのはただの下っ端よ」
「その盗賊団は昔から存在し、この国の中を転々としつつ悪事を働いていると聞きます」
以前騎士団から聞いた盗賊団、それで間違いないとヘインは言う。
本体はとっくに逃げていると思われ、追跡は困難。
とりあえずの一件落着である。
「えっと、エルメナちゃんとこれからも仲良くしてあげてくれる?いいかしら」
「もちろん、エルメナは大切な友達だからね」
「アフィ…」
「エルメナさんの料理は僕も教わりたいんですよ」
「メルク…」
「私は何かあれば頼ってくれていいわよ」
「うん、ヘインもありがとう」
そうしてエルメナとは今後も付き合っていく事になり、そのまま下山した。
だが盗賊団の事は気になるままだ。
帰ったら新しい義肢もガネクトに作ってもらわねばならない。
なお依頼に行った際にガネクトにこっぴどく怒られたという。




