医学生の覚悟
いつものように仕事に精を出すアフィ。
そんな今日は仕事を片付けのんびりしていた。
とはいえ街ではちょくちょくトラブルも起きる。
聖騎士団や神殿騎士団もそんな治安維持に一役買っているわけで。
「ん、あぁ~、こう日差しが気持ちいいと眠くなるなぁ」
「駄目ですよ、アフィ、こんな時間に寝たら夜眠れなくなります」
「はーい、シエスタは相変わらずだなぁ」
そんな中少し目の先に公園の地面で横になっている女性を見かける。
浮浪者かと思ったが、少し様子がおかしい。
念のため様子を見てみる事に。
「…これ飲み過ぎだね、おーい、あたしが分かりますかー」
「駄目ですね、完全に…待ってください、これ寝てるのではなく意識が飛んでますよ」
「は?つまりアルコール中毒?」
「はい、恐らくは」
その女性は寝ていたのではなく倒れていた。
シエスタが言うにはアルコール中毒と見て確定らしい。
この場合は騎士団ではなく病院、とりあえず知り合いを頼る事にした。
「すみませーん、流君いますかー」
「おや、アフィさん、流君なら講義がもう少しで終わると思いますよ」
「あの、彼女なんですが」
「…少し診せていただけますか」
流は今は講義に出席しているらしく少し待つそうだ。
その代わり別の医師が診てくれる事に。
彼女を任せてついでという事もあり流を待つ事に。
少しして講義が終わり医学生達がぞろぞろと歩いてくる。
その中に目的の流の姿を見かける。
「やほー、流君」
「アフィか、お前暇人なのか?」
「さっきアルコール中毒の人を運んできたんです」
「そうだったのか、すまなかったな」
「それよりさぁ、お姉さんが会いに来たのにつれないぞ?」
流もそんな態度に少し呆れつつも話に付き合ってくれる事に。
学食に移動して飲み物を買って少し話す事に。
ちなみにこの医術学校の食堂は一般にも開放されている。
この国は医術学校、城の聖騎士団の宿舎、教会の神殿騎士団の宿舎と全ての食堂が一般開放されている。
そのため王都にある飲食店は基本的にお高い店が多い。
持ち帰りが出来る店は人気が高いものの、レストランと呼べるものは基本的に割高だ。
とはいえ酒場やパン屋などとも住み分け出来ているため、治安維持にも一役買っているのだ。
「流君さ、この前怪我してる子供を助けたって聞いたよ、偉いじゃん」
「その事か、俺は医者として当然の事しかしてないぞ」
「ですが流、あなたからはどこか悲壮的な何かを感じます」
「そうだな、お前達は医者はどんな悪人だろうと助ける、そういうものって理解してるか」
流は医者はどんな極悪人だろうと救うのが医者だという。
だが同時に全てを救えるとは思ってもいないという。
「俺はここに来る前に名医って呼ばれる医者の講演会に参加した事があるんだよ」
「名医ですか?」
「ああ、その先生はこうも言った、医者は神ではない、全てを救えるなどというのは傲慢だって」
「名医がそんな事を言うんだ」
「その先生は神の手って言われる天才脳外科医だ、でもずっと現実を見てた」
流がその先生に受けた影響は確かに胸の中にあるのだろう。
流が子供だという事も同時に突きつけたような気がした、そう感じたそうな。
「でも俺はそれが医者の宿命だとも思った、だから救えるのなら諦めたくないって思った」
「助からないって決まってないなら助けたい、そういう事?」
「だから可能性がある限り俺は命を救いたい、即死でもない限り諦めないって決めたんだ」
「それが流が医者を志した理由なのですね」
「そういう事だな」
流の覚悟はその医者が言った言葉から来ている。
医者は神ではない、全てを救えるなどというのは傲慢だ、そんな名医の言葉。
流は恐らくその言葉はその先生の経験から言った言葉だろうとも感じたらしい。
「そうだ、今度必要なんだけど、痺れを取れる薬を頼んでいいか」
「痺れを取る薬?別に構わないよ」
「次のルナの日までに用意してくれ」
「了解、ならそれまでには用意するよ」
「メルクも仕事の管理はしているのですから、勝手に受けていいのですか?」
「旦那様もあたしの事は分かってるっしょ」
とりあえず痺れを取る薬の注文を受けたアフィ。
そのあとは次の講義があるという事で流と別れて街に戻る。
あとは流の依頼も忘れずにしつつ他の仕事をこなす。
流の覚悟は医者という職業の光と闇を感じさせた。