エルメナに見える影
いつもと変わらずに仕事をこなしつつ自由に過ごすアフィ。
そんな今日は珍しく一人の様子。
それもありメルクからアクルスにクッキーを持っていくように頼まれる。
そこでエルメナにも出会う事になり、アクルスが思わぬ反応をする。
「はい、これ」
「すまないな、たまにこれが食べたくなるんだ」
「旦那様もアクルスが楽しみにしてて嬉しいって言ってたしね」
するとそこにエルメナが現れる。
どうやら武器の納品のようだが。
「あら、アフィ」
「あ、エルメナ、騎士団に何か用なの?」
「武器の納品よ、団長殿に頼まれてたの」
「そうだったか、少し待っていてくれ」
「助かるわ」
そうしてエルメナは団長に頼まれていた武器を渡す。
代金は先払いでしか受け付けないのがエルメナだ。
ちなみに代金を免除する代わりに素材は自力で確保するプランもある。
代金は当然安くないし、素材を自力で確保するのも難しいのが質の高さを窺わせる。
「それじゃあたしは仕事に戻るから」
「待て、すまないが、ハーゲンという男を知っているか?」
「…知らないわ」
「ハーゲン?それって突然いなくなったっていう聖騎士団の団長だっけ」
「その人が何か?」
アクルスが言う前の団長であるハーゲン。
なぜエルメナにそれを聞いたのか。
「知らないのならいい、ただあなたの背中にハーゲン殿の面影を感じてな」
「そうなの?だとしたら関係者なのかな」
「あたしは知らないわ、でもなぜそれをあたしに聞いたの」
「気のせいならいいんだ、ただあなたの背中にはどうしても彼の姿が重なる」
「その人は男でしょう、あたしは女、そこからまず違うわ」
とはいえアクルスはエルフという種族からハーゲンの事を知っている。
エルメナにその影を見るという事は、エルメナはその関係者なのか。
その昔、突然聖騎士団を辞め行方知れずとなった団長のハーゲン。
アクルスはエルメナにその影を感じ取っていた。
とはいえ真偽については分からない。
エルメナがその関係者なのか、ただの他人の空似なのか。
「エルメナだったか、あなたのその剣は?」
「これ?お父さんが知り合いの鍛冶屋に作らせたって言ってた」
「そうなんだ、立派な剣だとは思ってたけど」
「あたしが鍛冶屋の仕事をしてるのもその人に教わったからだもの」
「立派な鍛冶屋がいたものだな、それだけのものを作れるとは」
エルメナの素性についてはアフィも詳しくは知らない。
そもそも誰かに素性を話そうとしないのだ。
山に住んでいて休みの日にだけ街に下りてくる凄腕の剣士であり鍛冶屋。
それぐらいしかエルメナの情報はない。
冒険者も世話になっている人は多いが素性を知る者はいないという。
アクルスはエルメナについて何か知れないかと考える。
「エルメナはどこに住んでいるんだ」
「山の中よ、どこかは教えないけれど」
「そういえばそんな事言ってたね、どこの山かは教えてくれないけど」
「山か、ここに来れるという事はそんな遠くという事でもなさそうだが」
「あたしは仕事があるから、それがないなら本当は静かに暮らしたいのよ」
とはいえエルメナは剣聖の肩書を持つ凄腕の剣士。
誰がそう呼んだのかは知らないが、そう言われている。
「そういえば…エルメナ、あなたはあの剣聖のエルメナか」
「それは人が勝手にそう呼んだだけ、あたしが名乗っているわけじゃないわ」
「でもそれで浸透しちゃってるよね」
「勝手に困ったものよ、そのせいで注目されるんだから」
「だがその若さで剣聖とすら称されるのはとても名誉な事だぞ」
確かに剣聖の称号はその達人にのみ送られるもの。
とはいえ人が勝手につけるものなので、エルメナが名乗っているわけではない。
「それよりあたしは仕事に戻るから、装備が必要ならいつでも言ってね」
「やはり彼女の背中には…」
「例のハーゲンの影が見えるの?」
「ああ、密かに調べるべきなのだろうか」
「あまりそういうのは感心しないけどね」
アクルスが見たエルメナの影。
それは突然行方知れずになった団長、ハーゲンの影。
真偽については分からない。
だがどこかその面影をアクルスは感じていた。




