それでも努力する
仕事を適度にこなしつつ自由に暮らすアフィ。
年甲斐もなく自由だが、ここまでの道のりは楽なものではなかった。
それでも今を精一杯楽しく生きるのがアフィの生き方。
そんな中街中で流の姿を見つける。
「んー、暑い日はアイスに限るね」
「アフィは本当によく食べますね」
「そういう旦那様こそトリプルで食べてるじゃんよ」
今日は久しぶりに夫婦で時間を持て余している様子。
すると流が転んだ子供に絆創膏を貼ってあげているのを見つける。
「おーい、流じゃーん」
「なんだ、アフィか、それとメルクさんも」
「子供の手当てですか、相変わらず絆創膏を常備しているんですね」
「最低限の応急処置が出来るものは常に持ってるからな」
今日は流はオフとの事で、少し暇だという。
カイトとは常に一緒にいるわけでもない。
幸い給料も悪くないので、休みの日は少し贅沢をしたりもするという。
「それにしても流殿はなぜ医者になろうと思ったのですか」
「…昔大切な人を助けられなかった、だから人を救えるようになりたかった」
「それで医者なんだ」
「才能があるとかは分からないけどな、でも人を救えるようになりたいんだ」
流の過去にあった事はカイトには話している。
過去にあった事はあまり言わない方だ。
それでもその目には確固たる信念が感じ取れる。
「努力ってさ、報われるとは限らないんだよ、あたしはそれを見てるから」
「そんなの当然だろ、努力は報われるなんて信じてるのは努力信者だけだ」
「報われるとは限らなくても人は努力をする、そういう事ですね」
「努力が報われるとは限らない、でも何かを成し遂げた人間はみんな努力してる」
流もアフィも努力が必ず報われるとは限らない事は嫌というほど知っている。
アフィはアカデミー時代に努力しても報われずに去っていった人を見ている。
流も今でこそ腕はよくなったものの、報われずに去っていく人を見ている。
メルクは聖職者ではあるが、人が何かを成せるのは人の力だと説いている。
祈りによって救われるのなら世界は平和だし、戦争なんか起きないのだと。
そんなメルクの価値観は聖職者でありながら、自分の力を信じなさいという事でもある。
「俺が憧れて尊敬する先生が言ってた、医者は神じゃない、救えない命もあるって」
「その先生は医者でありながらリアリストなのでしょうか」
「医者は神じゃない、救えない命もある、でも救える命は救うのが医者なんだって」
「前も聞いたけど、その先生は過去に何かあったんだろうね、だからこその考えだよ」
流が憧れ尊敬する医者の言葉。
それは努力は必ずしも報われないという事を言っているのだろう。
手を尽くしても救えない命がある、それでも救うために努力するのが医者なのだと。
だからこそ流も救える命は救いたい、手を尽くしても救えないとしても諦めたくないと。
「流ってどこかリアリストなのに、変なところで熱血な感じがあるよね」
「そうか?俺はそれでも努力を続ける、それだけだよ」
「流殿はその言葉があるからこそ医者としての誇りもあるんでしょうね」
「医者ってのは相手に関係なく救わなきゃいけない、それが極悪人でもな」
医者はどんな相手でも治療するのが医者なのだ。
その患者は極悪人かもしれない、殺人鬼かもしれない、それでも救うのが医者なのだ。
過去にその先生の講演会を見に行った時に流はそれが医者なのだとも理解した。
流の過去にあるもの、それは大切な人を奪った相手。
死ねと思った事はない、だが不幸のどん底に落ちた時そいつに対して思った感情。
それは流の気持ちに一区切りをつける細やかな復讐だったのかもしれない。
「さて、今夜のおかずでも買いに行かなきゃな、またな」
「流殿はその先生の影響は確かに受けているんでしょうね」
「医者としての務め、医者は神じゃない、それでも救える命は救う、か」
流なりの考えは確かにそこにある。
医者を目指すに当たり聞いた講演会での名医の言葉。
それは流の決意を固めるには充分すぎるものだった。
努力とは必ずしも報われるとは限らないのだ。




