カイトの望みと流の過去~前編~
いつもと変わらぬ日々を送る中少し騒ぎがあった様子。
カイトが無茶をして怪我をして病院に担ぎ込まれたらしい。
そこで治療を受ける事になり、流がそれを志願したという。
カイトと流はどこか気が合う同士、気の知れた相手の方がいいとの事だろう。
「いつっ!」
「ほら、無茶するな、折れてないだけ幸運だぞ」
「はぁ、俺とした事がドジったなぁ」
流が病室でカイトの世話をする。
大きな怪我ではないものの、一週間ほど安静との診断結果らしい。
「なあ、お前、なんでそんな他人を煽ったり無茶したりするんだ?」
「…知り合いは聞いてないよな?」
「たぶん平気だと思う、それでお前、なんでそんな強い相手を探してるんだ?」
「…俺さ、認めて欲しいんだよ、だからつい、な」
認めて欲しい、それはカイトが抱き続ける欲求だ。
その理由は育った環境にあるらしい。
「俺さ、昔からずっと兄さんと比べられて育ったんだ、兄さんは天才って言われてて」
「天才の弟か、それは確かに何かとありそうだな」
「それで俺も小さい頃から頭角は現してた、でもどこに行っても俺は弟でしかないんだ」
「つまり天才の兄と比較され続けて、カイト個人として見てもらえなかった、か?」
カイトの承認欲求が異様に強いのはそんな兄と比較され続けた人生から生まれた歪み。
どこに行っても自分は天才の兄の弟だった。
カイトをカイトとして見てくれる人はどこにもいなかった。
学校の先生も、学生時代の同年代の人達も。
それこそ剣術の大会で優勝した時ですら兄と比較されてきた。
それがカイトを歪めてしまったのだと。
「俺は俺として認めて欲しくて、努力し続けた、でも結局は天才の弟でしかないんだ」
「それで誰も自分を知らない国に行けば認めてくれる、そういう事か」
「ああ、それがあってから兄さんとは険悪なままだ、子供の時は仲良しだったのにさ」
「兄と比較され続けて、誰もカイトとして見てくれなくて、それが今のカイトなのか」
「そうだよ、俺はただ俺を俺として見て欲しい、他の誰でもない俺個人として」
そんな認めて欲しいという気持ちは焦りを生む。
そして自分を誇示するかのように相手を煽る、カイトもそんな自分を分かっている。
ずっと比較され続けたその心はいつしか歪み、兄弟の関係も歪んでしまった。
天才と言われた兄、その弟のカイトもまた才能は確かにあった。
だがどこに行っても、どんなに結果を出してもついて回るのは兄の影。
その影を振り払おうとしても、周囲がそれを許さなかった。
だから国を飛び出して誰も自分を知らないこの国に来たのだと。
「そんなに認めて欲しいのか、比べられないカイトとして」
「そうだよ、俺は兄さんじゃないんだ、兄さんじゃなくて俺は俺なんだって」
「カイトは強い奴だよ、兄と同じ天才だ、でも俺はその兄さんと同じとは思わない」
「それで焦って無茶をして、情けないよなぁ、本当にさ」
流もカイトのそんな話をしっかりと聞いてやる。
誰もカイトをカイトとして見てくれなかったのなら、自分はカイトを見てやろうと。
「認められるってのは難しいもんだよ、俺も医者として認められるために努力してる」
「全くだな、でも俺は他の誰でもないんだ、兄さんと比べられるのはもう嫌だよ」
「誰かと比べられるって辛いよな、それが身内だと特に」
「それが天才なんて呼ばれる人だとさらに辛くなる、俺は兄さんじゃないんだよ」
カイトが弱音を吐くとは意外だった。
それでも流はカイトのそんな気持ちを少しは分かってやれるのか。
そんな気持ちも抱えながら、その話を聞いていた。
「結局さ、逃げられやしなかったんだな、だから誰も知らない国に逃げて」
「カイトは今、楽しいか?」
「楽しいな、この国は俺を俺として見てくれる、それだけで心の靄が晴れるんだ」
「そうか、なら怪我が治ったら一緒にドラゴンでもぶっ飛ばしに行こうぜ」
「お、いいね、流からのお誘いなら断れないな」
そんなカイトと流の関係。
それは全く違う道を歩みながらもどこか通じ合うそんな関係。
「…なあ、俺も少し話したい事があるんだ、俺の話も聞いてくれるか」
「流の話?もちろん聞いてやるさ」
「すまないな、俺もお前になら話してもいい、ありがとな」
カイトの歩んできた人生は心を歪めるのに充分すぎた。
そして次は流の話。
カイトと流はその話に何を思うのだろうか。
今に至るまでのその話は過去を断ち切るための独白。
中編に続きます。




