遙かなる旅路
ロスタンの町で、リンナは教会に立ち寄っていた。あれから三日が経過し、雪は量を増して、森の方にはどこまでも続く雪原が作り上げられていた。
リンナが帰って来ると、先生は顔をくしゃくしゃにして泣いて喜び、リンナを抱きしめた。そして、ガンドルトを倒したという報告を聞いて、すぐに調査隊を派遣すると約束した。
半日ほどしてようやく落ち着いたのか、先生は暖かい飲み物を用意してくれた。リンナの好きなヤチニと呼ばれる樹液のお茶だ。ほのかに香る木の匂いが好きなのだ。
ほっとひと息つくと、先生は言った。
「リンナ、これからどうするの?」
先生はここに戻ってきてほしいのだろうが、リンナの答えは違っていた。
「私は南に行こうと思っています。山狗で、私を守ってくれた、トガルさんと一緒に」
そう言うと、先生は驚いて両手で口元を覆った。
「あなた、そういう関係になっていたの? いえ、もうあなたも十五だし、おかしくないわよね」
そう思われることは覚悟していたが、あまりにも予想通りの反応だ。
「あの、たぶん、先生が思っているような関係ではありませんよ。好きですけど、夫婦になりたいとは違ってて……」
いくら話しても、先生は興奮気味に頷くばかりで、きちんとした説明は耳に入っていないだろう。
その日はそのまま教会へ泊まった。しかし孤児院へは顔を出さないことにした。すでに出て行ったはずの自分が戻ると、出て行きにくくなるからだ。
トガルは町の医者のところで怪我の様子を見てもらっている。治るまでじっとしていようと言ったのだが、大丈夫だと聞かなかったため、無理矢理医者のところに押し込めたのだ。
翌日の朝、トガルが教会の扉を叩いた。腹の傷は縫ってもらったようで、あとは自分でできる、と帰ってきてしまったらしい。
「無茶しないでください!」
リンナが怒ると、トガルは困ったように頭を掻いた。
「傷よりも、足の骨折の方が気になるな」
「そっちはどうだったんですか?」
「まあ、大丈夫だ。頑丈な添木を作ったからな」
山狗の持っている技術には、足をつけずに歩ける義足のようなものがあるらしい。骨折や怪我に慣れているから、どうすれば歩けるかよくわかっているらしい。リンナは呆れて何も言えなかった。
先生に別れを告げ、ふたりは南へ向かう馬車に乗った。どこを目指すかはまだ考えていないが、道中で住みやすそうな場所を見つけたら、そこに腰を下ろすつもりだ。
「オオカミと離れて寂しくないんですか?」
ルガが聞くと、トガルは笑った。
「元気なお嬢さんと一緒だからな」
馬車は雪原の中を進んでいく。日の光が銀色の景色に反射して、きらきらと輝く。
次第に小さくなっていくロスタンの町が光り輝いて見え、リンナは思わず目を細めた。




