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鈴谷さん、噂話です

期待の新人が辞めた理由

 うちの課にとても優秀な新人の子が入って来たのよ。それほど学歴は良くなかったけど、たくさん資格を持っていてね、表計算ソフトなんかを手足のように使いこなして効率良く仕事を終わらせていたわ。もちそん、それだけじゃない。新しい使えそうな情報にも敏感で他の人達に教えたり、新しい企画を提案したり……

 あ、お客さんの受けも良かったな。

 ここまで来るとちょっと可愛げがないくらいよね。

 それで社内でもその子は“期待の新人”とまで呼ばれるようになったのだけど、しばらくが過ぎたら急に仕事ができなくなっちゃったのよ。

 ミスは少なかったけど仕事が遅くなって、新しい企画を提案するような事もなくなっていってしまった。

 課長とかお偉いさん達は期待していただけに落差も大きかったみたいで、すっかりその子の評価を下げてしまった。

 “始めだけやる気があって、バリバリ仕事をこなしていたが、直ぐに飽きてしまったのだろう。最近の若者の悪い典型例だ……”とかなんとか。

 それから、その新人君が「社を辞めようと思います」と発言した時は、だから“ほーら、案の定だ”なんて思っていたみたい。そしてそんな事情だったから、その子が辞めていく時の周囲の反応は冷ややかだった。次の会社は決まっていたみたいだけど、“どうせ、また直ぐに辞める”と思っている人が多かった。

 だけど、その新人君は辞めなかったのよ。いえ、それどころかうちの課でバリバリやっていた頃以上に懸命に働いているみたいで、取引先から聞こえて来る噂によると、その会社内での評価もかなり高いみたい。

 多分、これって環境がその子に合っていたって事だと思うのだけど、どうしてうちが駄目だったのかはまるで分からないのよ。

 聞いた話だと、その子が転職した先の労働条件はうちよりもむしろ悪いくらいらしいのよね……

 

 そこまでを話すと、私は鈴谷凛子ちゃんの反応を窺ってみた。

 彼女は同じアパートに住んでいる大学生で、民俗学だとかの社会科学方面が得意だ。だからこういう話にも興味を持ってくれるのじゃないかと思って話してみたのだ。

 凛子ちゃんは下唇に少し触れるくらいの感じで指を置いて、ほんのわずかだけ首を傾けると口を開いた。

 「綾さん。その人は本当にただ単にやる気をなくしていただけなのでしょうか?」

 私はその彼女の疑問を不思議に思う。

 「どういう事?」

 よく意味が分からなかったのだ。

 「例えば、あまり良い成績を残すと転勤させられるとか」

 「それが嫌だったから、わざと仕事の手を抜いて辞めていったって事?

 でも、そういうのはあまりないわね。小さな会社だもの。あっても出張くらいじゃないかしら? それに、その子はそんなのを気にするようなタイプにも思えなかったし」

 それを聞くと凛子ちゃんは「そうですか……」と呟くように返すとこう続けた。

 「話を聞く限りでは、気分に流されたりせず計画通りに事を進めるタイプに思えたのですが考え過ぎでしたかね」

 凛子ちゃんは妙に勘の鋭いところがあって、ちょっとした謎を簡単に解いてしまったりする事があるのだけど、今回ばかりは当たらなかったようだ。

 私はその時、そう思っていたのだけど……・

 

 「え? ユキちゃん、結婚するの?」

 

 それからしばらく経ったある日、突然に職場の後輩からそう結婚の報告を受けた。

 ユキちゃんはボブカットがよく似合う可愛い女の子で、私のお気に入りの一人だったから少し残念だと思ったのだけど、今のところ退社は考えていないと聞いて少し安心した。ところがそれから、

 「で、肝心の相手は?」

 と、聞くと、なんとユキちゃんは例の新人君の名を告げたのだった。

 「彼が辞めてからもちょいちょい会う機会がありまして、それでいつの間にか……」

 などと彼女は説明する。

 それを聞いて私は“そういえば、うちの会社はオフィスラブを禁止にしていたな…”とそんな事を思い出していたのだった。長年勤めた社員なら暗黙の了解で見逃してくれるケースも多々あるが、新人になると厳しい……

 その予想がほぼ正解であろうことは、隠し事が下手な彼女のそのはにかんだ笑顔を見れば明らかだった。

 “どうやら今回も凛子ちゃんの予想は当りだったらしい”

 それで私はそう思ったのだった。

推理として読むとちょっと微妙ですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハッピーエンドですね。 上司や同僚からのいじめじゃなくて本当に良かった。
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