第12話 恋する歌姫【後奏曲】
「はぁはぁ…何で僕は今外にいるんだろう…」
今日は一日中ごろごろする筈だったのに蓋を開ければ町までダッシュ
そして当然のようにトラブルに遭遇すると…
「おい、何ぶつかってやがんだ!」
「あーこれ兄貴下半身不随だわw」
「あの…その」
不良が女の子に絡むという凄いテンプレが目の前で起きてるんですけど!?
てか、下半身不随って…
つくならもっとましなのあるでしょ…
「ちょっとこっち来いよ!」
「嫌離して!誰か…」
彼女の拒絶の悲鳴が耳元で木霊する。
はぁ今日は本当に踏んだり蹴ったりだなぁ…
無視できない偽善者の僕が悪いんだろうけど…
「その子から手を離せよ!」
こうゆうとこが僕の悪いとこなんだろうなぁ…
「アッ…兄貴に喧嘩売ってんのか?」
きれる沸点ひく!?
てか、兄貴さん部下の制御ぐらいしてよ…
兄貴さん!?何で顔面蒼白なの!?
「兄貴やっちゃいましょうぜ!」
「やめろ!」
「こんなやつやろうとおもえばすぐにでも【やめろと言ったぞ!】」
「やつは……だぞ!」
「なっ!?」
えっと…よく分かんないけどこちらの言い分をきちんと言わなきゃ。
「あの、彼女を離してくださ【すみませんでしたぁぁぁぁァアー!!】」
「「ほぇ!?」」
コワモテの男たちが叫びながら走り去っていったんだけど……
あれかな?気づいたらコワモテの男たちが叫びながら走り去っていて助けた女の子は美少女って言えばいいのかな?
えっと…どこのイキリトさんだろう?
僕がそんな痛々しい物思いにふけっていると、彼女から、話しかけられた。
「あの、助けていただき本当にありがとうございます。」
彼女からの素直な好意が受け入れられないのはあれか……僕がなんも出来てないからか…
「あの、このあと用事とかありますか?お礼がしたいんですけど!」
「えっと…CDを買いに行くぐらいかな…確か星野梨花っていう人の。」
「ファンですか!」
すっごい目をキラキラさせてこちらを見てる。
なんだろう彼女もあの歌手が好きなのかな?
「いや、僕じゃなくて妹と幼なじみが好きなんだよ。」
「そうですか……」
えっ…なんでそんな暗いの?
僕は今何をしでかしたの?
「ここでめげちゃ駄目よ!頑張らなきゃ…あのお昼とか今からいきませんか?」
時刻はもう11時30分か。
まぁ別にご飯食べるくらいならいいか。
僕もおなかすき始めたし
「いいよ。どっかたべいこうか」
「はい!行きましょう!!!!」
・・・・
その後僕達はお昼ごはんを食べに行った。
二人してたわいない話をしていたとき、彼女の夢について、教えて貰った。
(どっちかというと話し始めたのほうが正しい気が……まぁ些細なことだ。)
要約すると、彼女は歌手になりたいらしく、歌の稽古を頑張っているらしい。
でも、自分にまだ自信が持てず伸び悩んでいるそうだ。
「私自信をもちたいんです!それで、頼みたいことが……」
「何かな?」
「あの、私の歌を聴いてくれませんか?」
他人に聞いて貰って自信をつけたいのか…
「いいよ、僕でいいなら」
「本当ですか!あの、出来ればLIMEとか教えてくれませんか?」
「連絡手段がなかったら厳しいもんね!いいよ」
すると、彼女は今までとは違い緊張した面持ちで僕に話し始めた。
「あと、あの私がもし皆の前でコンサートするような歌手になったら見にきてくれませんか。」
いきなり言われて少し対応に遅れたが、彼女の顔は本気だ。僕は彼女の目を見据えながらきちんと答えた。
「いいよ!じゃあ僕が君のファンになるよ、必ずその時には見に行くから。」
「約束ですよ!香月さん!」
彼女はとても和やかに笑った。
僕にはそれが夜空で輝く月のように見えた。
その後は冒頭でお伝えしたように、色々な店を彼女とまわった。
それはもう足が本当に棒になる勢いで。
そして楽しい時間はすぐに過ぎ去っていき、別れの時間が訪れていた。
「香月さん今日は楽しかったです!ありがとうございました!」
「うん、僕も楽しかったよ。また、会おう!」
「はい!あっ…それと予備知識ですが私は狙った獲物は逃さない人なんですよ!ですからまたあいましょうね、ma destinee【マ・ディスティネ】」
「えっ…それってどうゆう意味?」
「ふふふ、内緒です!気になったのならヤホーで調べてください!あっ…ヤホーニュースも見た方がいいですよ!」
彼女が言っている意味が分からず、僕が呆けた顔をしていると、彼女は
「約束忘れないでくださいよ!私が皆の前でコンサートするようになったら最前席で見るんですよ~!」
と念押しすると悪戯っ子のように笑いそして嵐のように去って行った。
・・・・
あの後僕は棒のようになった足を引きずりながらも家にたどり着くことができた。
「帰ったよ~」
「お帰りお兄ちゃん!」
「お帰りなさい黎~!ご飯にする?お風呂にする?それともひゅ!?」
咲良が言いたいことは理解したので可及的速やかにほっぺをむにっとして無力化っと
なんか最近咲良の扱いに慣れつつある自分が悲しい…
昔はもっと慎み深い淑女だったのに…
いや、そんなこともないわ。
「あっそういえば…これ。後は…」
僕は藍に頼まれていたCDを渡したあと、先ほど彼女が言っていたようにヤホーニュース速報をスマホで確認した。
すると、そこには
【歌姫星野梨花さんが遂に顔出しを許可!】
この度歌姫星野梨花さんが遂に顔出しを許可した。
彼女曰く、振り向かせたい人がいるからだそう。
彼女はその人に対するコメントで、「必ず来て下さいよ!」と語っていた。
(うわぁ、嘘ぉぉぉぉ!?)
1時間程前まで一緒にいた少女が歌姫 星野梨花と言って誰が信じられるだろうか?
僕が驚愕に身を震わせていると、彼女が言っていた言葉を思い出した。
「なんだか調べたくないなぁ…でも気になるし」
なぜたか調べたら今あるのかすら疑問に感じる平穏が完璧に消え去ってしまう気がする……
色々嫌な気がするが、僕が腹を決め調べると、そこには
ma destinee
フランス語で【私の運命の人】
と書かれていた。
La prochaine fois encore !




