2話
「ここが謁見の間です」
王女様がそう言い足を止めたのは大きな扉の前だった。
「中には国王の他にこの国の運営に関わっている貴族がいますが、あまり礼儀など気にせず楽にしていてください。あなた方は私たちの都合によりこちらに呼んだのですから」
それはありがたい。国王に対する礼儀作法など全く知らないからな。
「それでは参りましょう」
王女様は扉を開いた。中はかなり広く先ほど王女様が言った通りかなりの数の人がいた。その中の中央に多分あれが王座というものだろうそれに腰掛ける一人の男性がいた。あの人が国王なのだろう。その男性からは威風堂々という言葉がピッタリあうたたずまいをしていた。
「おお、リリシア。勇者召喚は成功したのだな」
そういえば王女様の名前聞いてなかったな。リリシアって言うのか。
「はい。しかし、少々問題が・・・」
「うむ、そのようだな」
国王はチラリとこちらを見た。そして、王女様あらためリリシアと控えていたローブを着た女性をそばに呼ぶと何やら話し始めた。
少しして話がまとまったようで再度こちらに目を向けた。
「すまぬな、少々話さなければならないことがあったのでな。我が名はアルフリード・ルイネシア。そして、娘のリリシア・ルイネシアだ」
国王が自己紹介をしさらにリリシアのことも紹介した。
「お主たちの現状を説明を始める前に謝罪を。お主たちの事情も考えずにこちらの都合で呼び出してしまい申し訳ない」
国王は王座から立ち上がり頭を下げた。そして、国王にならうようにリリシア、控えていた貴族の人たち、さらには騎士たちこの部屋にいたすべての人たちが頭を下げた。
(あ、これ最悪な異世界召喚じゃなくてかなり良心的な異世界召喚だ)
ラノベなどにある召喚して謝罪もなしに勇者を奴隷のように扱う異世界召喚じゃなくて勇者の人権を保証して丁重に扱う種類のやつだ。
俺はこの人たちの行動、そして目を見てそう思った。
「あ、頭をあげてください。俺たちは気にしてませんから!」
焦ったような声で頭を上げるように言ったのはイケメン君だ。
だが、頭を上げるよう言ったのはいいがその後の言葉、俺『たち』というのはだめだと思う。
西園寺と九条もイケメン君の言葉に非難するような目を向けていた。それもそのはずだ、彼は俺、西園寺、九条の事情を考えずに召喚されたことを許すといったのだ。つまり、イケメン君以外の三人の考えを聞かずに勝手に結論付けたのだ。
俺は別に気にしていないが二人がどうかわからない。
「そうか、すまぬな」
西園寺と九条は話がややこしくなると感じたのか何も言うことはなかったがイケメン君を見る目は完全に冷めていた。
「では、お主たちの状況について説明しよう。すでにリリシアから異世界に召喚されたことについて説明されたと聞く。ならば、なぜお主たちをこちらに呼んだのかを説明しよう。それは最近魔物の活動が活発化してきており我らだけでは対処できなくなってきたので各国との協議の結果各国で一人ずつ異世界より勇者を召喚しようという結論が出た。そして、我が国でも勇者召喚を行ったのだが・・・」
国王はそこまで言うと少し困ったような顔をした。そして、俺も気づいた。
「実は勇者召喚は一人の勇者を召喚する魔法であるのだが、今回召喚されたのは四人であった。つまり、勇者以外の者は巻き込まれて召喚された可能性が高い」
その言葉を聞いた俺はあ~という感じで納得した。つまり、これは巻き込まれ系だと。召喚系のラノベとかによくあるやつだと思った。
そして、俺はちらっと西園寺と九条の二人を確認した。西園寺は別段気にした感じではなかったが九条は何か考える風に目を閉じていた。
イケメン君は知らん。興味ないし。さっきのことで完全無視することにした。
「重ねてすまん。勇者はもちろん巻き込まれて召喚されたものにも丁重に扱うよう心がけよう」
「ちょっといいか?」
「お主は・・・」
「ああ、こっちの自己紹介がまだだったな。俺は赤羽楽、アカハが名字でラクが名前な。で、後のが・・・」
「西園寺令奈」
「九条桜花」
「さ、佐藤雄志です」
と自己紹介した。イケメン君の名前そんななんだ。まあ、どうでもいいけど。
「アカハ殿にサイオンジ殿、クジョウ殿、サトウ殿だな。して、アカハ殿何か?」
「ああ、まず勇者として召喚された奴は魔物と戦わないといけないみたいだけど俺たちにそんな力ないよ?」
「それは心配いらぬ。召喚された勇者には勇者の刻印というものが刻まれそれにより力が与えられておるのでそこらの兵士よりは強い」
「魔物との戦いに拒否権は?」
「もちろんある。こちらの世界の都合を押し付けるのだ強制ではない」
「元の世界には戻れる?」
「戻れる。が、戻るために大量の魔力が必要なので最低1年、だが、安全に帰すために2年は欲しい」
あ、戻れる系なんだ。よく召喚して元の世界には戻れないっていうのが多いけどちゃんとしてるんだ。
「衣食住に関しては?」
「先ほども言ったように丁重に扱う。衣食住はこちらで手配するので安心するがよい。もちろん巻き込まれた者たちも」
「・・・他に聞きたいことはないか?」
俺は聞きたいことが聞けたのでよしとするが二人が聞きたいことがあるかもしれないので後ろを振り返りつつ二人に聞いた。
「私は今のところはない」
九条が首を横に振り答える。
「私は魔法の研究をしてみたい」
西園寺はそう国王に聞く。
「魔法の研究か・・・お主たちの希望はできるだけこたえたいと思っておるが勇者である場合魔物の討伐をしてくれたほうが良いのだが」
「それなら、まず勇者であるかどうか確かめましょうお父様」
国王の横にいたリリシアがそう提案する。
「そうだな。それではお主たち胸元に勇者の刻印があるか確かめてくれ」
俺はその言葉を聞き胸元を確認するが何もなかった。西園寺と九条のところは女兵士が集まり壁を作って周りから見えないようにしていた。
「あ、なんか変な模様がある」
そう声をあげたのはイケメン君だった。その声を聴いたイケメン君のほうに近づいた男性がそれを確認した。
「間違いありません。勇者の刻印です。この方が勇者です!」
その声におお!と声が上がる。
「サトウ殿が勇者ということだが、サトウ殿どうか我らに力を貸していただけないだろうか」
国王はイケメン君に頭を下げた。
「わかりました!僕がこの世界を救ってみせます!」
あ、これだめなやつだ。イケメン君の言動と目を見てそう思った。
理由はイケメン君は勇者というものを理解していない。勇者は物語のように悪を倒してみんなから崇められる憧れだと思っているのだろうが実際は違う。確かにもてはやされるだろう。その一方で恨まれる対象でもある。何かを救うとき勇者は大を助けるために小を切り捨てなければならないこともある。物語のようにすべてを救えるわけがないのだから。そして、切り捨てられた小から恨まれることもある。
さらに、人殺しもしなければならないだろう。これはこの世界の治安がどういったものかわからないので強く言えないが魔物がいるということはこの世界では命が軽いかもしれない。しかも、貴族や国王がいるので文明的にも中世くらいだろう。なので、命が軽いと思われるこの世界では人を殺さなければいけない時が来るはずなのである。
そのことを分かっていないと思われるイケメン君は物語の主人公にでもなったかのような表情をしている。
「そうか!ありがとう、感謝する。では、巻き込まれた他の三人については・・・」
「少し考えたいから時間をくれないか?」
国王が俺たちの処遇を考えていたようなので俺はこれからどう動くべきかを考えるためにそう言った。
「うむ、それもそうだな。おい、彼らを部屋へ案内しろ」
「それではついてきてください」
国王がそういうとメイド服を着た人が前へ出てきてついてくるように言った。
「後で話がしたい。俺の部屋に来てくれないか?」
俺は謁見の間を出るとき二人に聞こえるくらいの声で言う。
すると、二人は小さくこくりと頷いた。それを確認した俺はメイドさんについて行く。