1話
俺、赤羽楽は世間で言う快楽主義者という者だ。
快楽主義とはエピクロスという哲学者が説いたもので、「人生の目的は快楽であり、快楽こそが最高の善である」という考え方である。
俺は何をするにもまず楽しいか楽しくないかで物事を判断する。それが楽しくないのであればやる必要はないしやる気も起きない。逆に楽しいことであるならば積極的に関わり真剣に取り組む。
そんな快楽をこよなく愛する俺は今の生活に満足していた。なぜなら、この世には数多もの楽しいことがあふれている。だから、満足していた。
しかし、俺に起こった非日常的出来事のせいで今までいた世界から切り離されてしまった。でも、俺はそのことに対し怒ってはいない。むしろ感謝している、この世界に来れたことを・・・
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「ようこそいらっしゃいました、勇者さ・・・ま?」
突然地面が光りに目をつぶり次に目を開けると知らない場所に立っていた。俺の目の前には困惑した表情のきれいなドレスを着た少女と騎士のような恰好をした人たちがいた。周りをちらっと確認すると俺と同じ制服を着た男女がいた。
(あれは、同じクラスの西園寺令奈と九条桜花と・・・イケメン君か)
西園寺令奈はIQ300もある天才だ。その頭脳で様々な研究をしており学校が終わると研究所で研究をしているそうだ。学校ではよく寝ている。授業中も寝ているが先生は特に怒ったりはしない。前に一度赴任直後の先生が西園寺を叱ったが西園寺が論破した。そんな彼女であるがクラスでは結構人気者だ。なぜなら、彼女は高校2年の割には体がちっちゃい。そして、顔もかわいい。なので、よく女子などが西園寺にお菓子などをあげて可愛がっている。
九条桜花は剣道部の所属していてそこのエースだ。彼女は剣道の全国大会で個人優勝している。彼女の力は圧倒的だった。全国大会なだけあって他の選手たちの実力もかなりあったのだが九条の前では全く歯が立たなかった。なんと彼女はその大会相手からの有効打を受けることなくすべてストレート勝ちしているのだ。解説にいたプロの人も「世界を見てもここまでの選手はいない」というほどだ。・・・え、まるで見てきたみたいな言い方だなって?そりゃあ、見てたからに決まってるだろ!なんかおもしろそうだったからな!おっと話がずれたな。そんな彼女も西園寺とはまた違った天才だ。
そして、イケメン君だ。
・・・いや、だってマジなんも知らんから!まったく興味なかったから名前も知らん。確かにクラスメイトなのは覚えている。顔がかなり整ってたから。
そんな三人と一緒になんか知らない場所に立たされたわけだが・・・
「えっと、勇者様方?混乱していると思いますがお話を聞いてもらえますか?」
少女が鈴の音のようなきれいな声でそう声をかけてきた。
混乱しているのはイケメン君だけで俺と女子二人は今の状況を冷静に分析しているのか真剣な表情をしている。まあ、腰に剣を差した騎士がいるんだから警戒しているのもあるのだろう。
「それでは、今あなたがたに起こった現象について説明させていただきます。まず、ここはあなたたちのいた世界ではありません。あなたがたは私たちが行った勇者召喚によりこの世界、あなた方からすると異世界にあたるここに召喚しました。召喚した理由は後程会っていただくお父様、国王より説明させてもらいます」
ん、今国王のことお父様って言わなかった?てことはこの子、王女様なわけか。それにしても異世界か・・・
「ちょっといい?」
俺が少女が王女であったことと異世界に召喚されたことに若干驚いていると西園寺が手をあげた。普段眠たそうな目をしている西園寺が真剣な顔をしていた。
「はい、なんでしょう?」
「あなたの話ではここが異世界ということになるけど信じれない。私たちを眠らせて拉致した可能性がある。だから、ここが異世界である証明はできる?」
西園寺の質問を聞いてはっとする。俺はラノベとかを読んでいるのでこういう異世界召喚をすんなり受け入れてしまったが西園寺はこの王女様たちが何かの目的のために俺たちを拉致したのではないかと疑った。
確かにその可能性もある。というか普通に考えて非科学的な現象をすんなり受け入れるなんてことそうそうあってはいけないのだ。俺は気を引き締めなおした。
「ん~、そうですね。では、魔法を見せましょう。確か勇者様がいた世界には魔法がないのでしたよね?」
「うん、魔法はおとぎ話に描かれているもので実在しない」
「では、『ライト』」
王女様がそう言うと指先に小さな光の玉が浮かび上がった。
(やっば、本物の魔法だ!!)
王女様が使った魔法を目にした俺は人生で一番テンションが上がった。そして、ここが異世界であることが証明された。
「触ってもいい?」
「どうぞ」
「・・・他のを見せて」
が西園寺は王女様が出した光りの玉に触れると他の魔法も見せるよう言い出した。
そして、そのあといくつかの魔法を西園寺に見せた。
「い、いかがですか?」
「ん、とりあえず納得した」
様々な魔法を見せた王女様は若干疲れたようだ。
俺は出される魔法をワクワクしながら見ていた。そして、九条はまだ警戒していた。まあ、この反応が普通で俺みたいに簡単に警戒心を解いていい状態ではない。西園寺は多分探求心かなんかが上回ってるんだろうな。イケメン君はやっと混乱から立ち直ったようだ。
「それではこれからのことについて話をするためにまず国王に会ってもらおうと思います」
「ん、了解」
「では、ついてきてください」
そういうと王女様はドアのほうに歩いて行った。その際、左右を騎士が固めていた。そして、その後ろを俺たちがついて行くとその後ろを残った騎士がついてきた。
この時、俺はこれから始まる面白そうな未来を思い描きわくわくどきどきに心躍らせていた。