3 イレーヌside
アランのお父様が友人にだまされ、多額の負債を負ったという知らせが入った。
うちもそうだけど、弱小子爵家だ。
お父様の話だと、秋の支払期限までに負債を払えないと、アランの家は破産することになるらしい。
秋になれば、領地からの収穫で負債の半分は払えるらしいが、あと半分が難しいらしい。
アランのお父様は、金策に駆け回っているらしい。
やつれたアランのお父様が、うちにも金策にいらした。
うちも貧乏子爵家、悲しいけど、支援は難しいらしい。
アランのお母様には、心臓に持病がある。
破産したら、高いお薬を買うお金もないだろう。
アランのお父様お母様は、優しい方だ。
早くに母を亡くした私を自分の娘のようにかわいがってくれた。
アランも優しくて美しい少年だった。
大好きな優しい人たちだ。この人達と家族になるのが、私の夢だった。
優しいおっとりとした人たちだから、今回もだまされてしまったのだろう。
その頃ちょうど、遊び人の息子に、しっかりした嫁をとりたいトレーニ伯爵から、結婚の打診があった。
伯爵家と釣り合う家から、相手にされなかったのだろう。
格下の子爵家のうちに、打診があったのだ。
婚約者が居るとお断りしたのだが、婚約破棄の違約金も払うし、うちにもそれなりの支援を行うと言われた。
しょうがない。アランと結婚する訳にはいかない。
私がトレーニ伯爵家に嫁げば、婚約破棄の違約金で、負債の半分以上がまかなえる。
アランの家が破産しないで済む。
だって、しょうがないじゃない。お金がないんだもの。
アランと結婚する訳にはいかないわ。
お金がないと、アランのお母様は死んでしまう。
薬が買えなくて、アランのお母様が死んでしまったら、アランのお父様もアランも、きっと悲しみで立ち直れなくなる。
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アランに婚約破棄を告げた。
アランは、私の頬を打って出て行った。
打たれた頬より、胸の奥が切り裂かれるように痛かった。
一部始終を見守っていた女中のアンナが、わんわんと泣き出した。
(泣きたいのは私のほうなのに...。)
アンナは、エプロンで涙でぐしゃぐしゃの顔をぬぐいながらこう言った。
「アラン様は、お嬢様の気持ちも知らず、あんまりですわ。お嬢様、本当のことを言わなくってよろしかったんですか?」
「だって、本当のことを言ったら、アランは、私を許すでしょう? そして私のことを忘れるわ。
一生、私を憎むなら、一生、私のことを忘れないでくれるわ。
だいじょうぶよ。アンナ。 私、伯爵家に嫁いでも幸せになるわ。」
貴方が、どこかで元気でいてくれて、私のことを忘れないでくれるなら、
私は、ちゃんと前を向いて歩くわ。
どこかの遊び人なんて、キッチリシメて、上手く転がして、ちゃんと幸せになるわ。
だいたい、貴族の結婚なんて家同士の政略なのよ。愛なんてないの。
大好きなアランと婚約できた今までが、運がよかったのよ。夢が見れただけ幸せだったの。
だからお願い。
憎んでも忘れないで。 私が初めてすきになったひと。
ずっとずっと、私が一番好きなひと。
本編はここで、完了です。
あと2つおまけが、つきます。