2 アランside
お父様が友人にだまされ、多額の負債を負ったという知らせが入った。
「なんとかするから、心配するな。」と言い残して、父は金策に駆け回っている。
最悪、家は爵位を売って平民になるかもしれない。
イレーヌはついてきてくれるだろうか?
ついてくるに決まっている。
イレーヌは、幼い頃に家同士が決めた婚約者だ。
だけど、僕たちは、お互いを愛している。
「アランのお嫁さんになるのが夢なの。」
「アラン、だいすき。」
小さい頃、君は、頬を染めて嬉しそうに僕に打ち明けてくれたっけ。
うちの家族もイレーヌのことを、実の娘のようにかわいがってる。
平民になっても、イレーヌと家族がいれば、僕は幸せに、やっていけると思う。
彼女は、かわいくてほんわりした外見と違って、しっかり者だ。
早くに、母を亡くしたイレーヌは、まだ幼い弟を育てながら、父を支え、子爵家の切り盛りを手伝ってきた。
かわいくてしっかり者の君を、恥ずかしそうに微笑む君を、苦難があっても前を向く君を、いや、君のすべてを僕は愛している。
今日は大事な話があると、イレーヌに呼ばれた。
僕らの結婚の話だろうか?
家の問題の行方によっては、結婚は延期しないといけないかもしれない。
苦労をかけてしまう。ごめんよ。イレーヌ。
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イレーヌは、自分から呼び出したくせに、こぶしを握りしめて言いだしにくそうにしている。
小さく手が震えている。どこかで見たことがある光景な気がするが、思い出せない。
「アラン様、お金のない貴方との結婚は考えられないの。婚約を破棄させてくださいませ。」
???? なにを言ってるんだイレーヌ。意味が分らない。
「イレーヌ、僕を愛してるって言ったのは、ウソだったのか? ずっと一緒に居たいって言ったじゃないか!」
「あのときの気持ちは本当よ。でも、没落する貴方と結婚する訳にはいかないじゃない。ドレスも首飾りも買えないわ。それにね、トレーニ伯爵のご子息が私と結婚して欲しいと、おっしゃるの。」
イレーヌが、小さく口をとがらせる。
君は、そんな物が、欲しかったのか?
確かに、貧乏子爵だから、ろくにドレスもアクセサリーも贈れなかったが.....。
「イレーヌ、女ったらしのフィリップか? それででいいのか?」
「ええ、トレーニ伯爵は、お金持ちだわ。フィリップ様も素敵な方よ。貴方との婚約破棄の賠償金も支払ってくださるって。」
「君は、金持ちと結婚したかったのか? 君なら平民になっても、ついてきてくれると信じてたのに。」
「平民になって、どうやって暮らしていくとお考えでしたの?」
「え? 護衛とか商人とか...。」
「失礼ですが、アラン様は、護衛ができるほど剣の腕前がお上手でも、商売の知識がお有りでも、ありませんよね?」
正直どうやって暮らしていくとか、考えてなかった。
君となら、なんとかなると思ってた。
でもでも、お金がないからと、僕を裏切って、フィリップと一緒になるというのか?
他の誰かのものになるというのか? 許せない。
「金の切れ目が縁の切れ目というのか! 君がそんな女とは思わなかった。女ったらしのフィリップが、君に似合いだな! 死ぬまで、君のことは許さない。」
今まで、イレーヌに見せたことのない憎しみのこもった目で、にらみつけた。
「ええ、貴方に許してもらおうとは思ってないわ。死ぬまで憎んでちょうだい。」と、嬉しそうに笑った。
「君って、女は!!!」
嬉しそうに笑うイレーヌに腹が立って、頬を打ってしまった。
「女に手をあげるって、最低だわ! 私の前に二度と現れないでちょうだい。」
イレーヌは、血がにじむほどこぶしを握りしめていた。
わかったよ。イレーヌ。
僕は、成り上がって、君が今日したことを死ぬほど後悔させてやる。