第14話少女の決意と少年の言葉
やっと入学式
アビエルの一件の後刀花とともにレオルは、セントラル学園本館を目指し丁度到着したところだ。本館の前には何人もの生徒が集まっていた。
「うわ~すごいな」
案内では本館前で自分達のクラス分けの表が張り出されていると案内を受けてた。何とかしてレオルと刀花はクラス分けの表が張り出されている場所に到達し、各々自分の名前を探した。こういうクラス分けの時は、なんともいえない緊張感があるがレオルに関しては、いつまでたっても慣れる事ができなかった。
「あっレオルさん私の名前ありましたよ」
不意にレオルの横から呼びかけてきたのは特徴的な銀髪、レオルも見たことがないくらいの若干幼くもかわいらしい美貌の持ち主、この世界に来て始めての友人である桐崎刀花その人だった。刀花のほうに顔を向け彼女はそのかわいらしい顔をこちらに向けながら腕をクラス分けの表に向けていた。一瞬彼女の姿を見た途端時間が止まったかのように静止してしまったがすぐに我に返り彼女の向けた方に目をやると、桐崎刀花の名前がのっていて、上を見るとアルファベットのAがのっていた。刀花はA組と言うことなのだろう。さて、俺も自分の名前探さなきゃと小声で囁きつつレオルはクラス表に目を向けた。
こういう時友人や自分の知っている人と一緒のクラスになりたいものだが、そういう願いに限って敵わないことが多い。
中学時代1年間通して仲良くなったはいいが、上の学年に上がる時のクラス替えに限ってクラスで一番仲が良くなったやつと別々のクラスになるのを3年間経験したのは、レオルにとって嫌な思い出だ。嫌な思い出に浸っている場合かと自分の名前探しに集中する。
「あぁ!レオルさん!ありましたよ!」
さっきよりも声が大きく、喜びのこもった声が横から飛んできて一瞬ビックっとしてしまった。横の刀花に顔を向けるとさっきよりもうれしそうな表情でレオルを見ていた。何事かと思い彼女の腕が向いている方向へ視線を誘導すると自分の名前である橘レオルの名前があった。
「ありがとう桐崎さん見つけるのうまいんだね」
彼女を褒め称え感謝の笑顔を送る。
「それよりレオルさんの名前の上の方を見てください」
上?クラスを見ろということなのかとクラスを確認すべくゆっくり視線を誘導する。そこにはアルファベットのAが書かれていた。
あれ?Aってたしかと思った途端一瞬で察しが着いた。
「桐崎さんと同じクラス...」
途端思いもよらないことで固まってしまうがそれと同時に喜びが自分の中で爆発した。うれしさのあまり顔がにやけ彼女の方に顔を向けると「やりましたね」と同時に彼女の笑顔がこの結果を祝福した。
「うん!これからよろしくね!桐崎さん」
うれしさのあまり気づくと無意識に彼女の両手を握っていた。そして彼女と喜びを分かち合った。この気分を味わうのは中学の受験以来でとても懐かしかった。
刀花も「はい!」とレオルとともに喜んでくれた。しかし「あ」と何かに気づいた声がレオルの口から出た途端自分が今とてつもなく思い切った行動を取っていることに気づき彼女から手を離した。彼女も後から気づいたのか頬を赤らめ恥ずかしながらもなんとか笑顔を絶やさずにいた。
「ご、ごめん」
謝罪し、ひとまず人ごみの中から抜け出しこの後のことを確認する。カバンからあらかじめ送られていたスケジュールの紙を取り出した。
「えーと。この後は第2競技場で入学式をやるみたいだな」
(第2?ということは他にもいくつかの競技場があるということか、まあこれだけ人数がいればそうなるとは思うけど...)
「どうかされましたか?」
そんなことを考えていると横にいた刀花の声で自分が何をしていたか気づき彼女に目的地を話した。
「第2競技場ですか。あそこ大きいですからね」
大きいのかとそんなことを考えていては先に進まないと頭を切り替え2人で第2競技場へと足を動かした。
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足を動かし始めて5分ほどで第2競技場に到着した2人は次々と競技場に入る生徒を見てそれについていく流れ競技場に入るとすぐさま係りの人に「新入生はこちらです」と案内を受け競技場の待機室につれられた。入るとそこには何人もの新入生が来ていた。
「す、すごいな」
見ると大体30人ほど見て取れた。各々知人と喋っていたり本を読んだりと割と普通の風景であった。
「私達で最後でしょうか?」
そんな言葉が刀花からとんできた、確かに大体学校のクラスは少なくても30人くらいなものだ。入ると何人かの生徒の視線を感じていた。
と思いながら待機室のベンチに腰を下ろした。
「それにしても広いな」
待機室の広さはレオルの見に覚えのある学校の教室の広さに近いものを感じていた。
「そうですね。ですが私達が授業を受ける教室もこれくらいですよ」
「詳しいんだね」
不思議そうに関心の言葉を刀花にかけた。
「まあ自分の通う学校ですからこれくらいは知っておいて損はないかと思って度々見学には来ていたんですよ」
「この学校に何か思い入れがあるの?」
待機室を見回しながら語る刀花に自然と言葉が出ていた。
「そうですね思い入れがあるわけではないのですがやはり自分の剣の腕を一番伸ばせるのはこの学園だからここを選んだと思います」
刀花の回答にレオルの中に一つの疑問が生まれていた。
「他の学校じゃダメだったの?」
そう。世の中には学校が一つしかない国など普通では考えにくい、刀花がここが一番と言うことはこの近辺で一番知名度が高い学校なのかと内心色々考えをめぐらせているレオルの思考を一つの声がさえぎった。
声の先に目をやると待機室の自動ドアが開いていた。そこに1人のスーツ姿の女性が立っていた。
「あ、英莉先生」
舞園英莉。レオルの入学試験の相手でありこのセントラル学園の教員である。
「おはようございますみなさん、時間です名前を呼びますので呼ばれた生徒から出てください」
英莉は部屋内の生徒一人一人に目をやりこれからの流れを説明した。部屋の奥にいるレオルと刀花にも視線とともに笑顔を向けた。
それに気づくと二人揃って一礼した。
次々と生徒が待機室から出て行き英莉を先頭に二列に並び始めた。刀花とレオルが呼ばれたのは最後だった。
これから始まる入学式に対して緊張で足が震えた。だが、これからレオルが刀花とともに新入生代表として行う新入生代表挨拶。
これに関しては、ホテルで英莉に言い渡されて以来緊張のしっぱなしなのである。
「うぅ...」
緊張のあまり声が漏れてしまう。
「大丈夫ですか?」
レオルの隣を歩いていた刀花が心配の顔とともにレオルに声をかけた。
「あー...緊張しすぎて胸が苦しいよ...」
自身の胸に手を当てながら溜息まじりに答えた。
すると歩みを止めた刀花が、胸に手を当てていたレオルの手を自身の両手で握った。
「桐崎さん...」
突然のことに驚き彼女の顔に視線を向けた。
「大丈夫です。この三日間たくさん練習しましたし、何よりレオルさんが必死に練習しているところは私が見ていましたから胸を張って自信を持ってやればきっと大丈夫です」
その言葉はやさしくどこか温かみを感じ何より懐かしさがあった。
(そうだ...この感じ昔博士がやってくれた...)
昔の思い出に浸りながらも気づくと緊張は消え笑みがこぼれた。
「ありがとう桐崎さん元気でたよ」
レオルの言葉に刀花も笑顔で「はい」と言って離れてしまった列に急ぎ合流するため歩き始めた。
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列に合流後レオルのクラスは入場口まで来ていた。すでに入学式が始まっており新入生入場直前まで進行していた。
「新入生入場」
聞いた途端背筋が伸びるほどの女性の声が会場に強く響きわたった。声には聞き覚えがあった。
舞園千鶴。その名前がレオルの頭の中をよぎった。列は進みはじめ、競技場に入場した。中はスタジアムのようになっており、サイドと後方に席があり
いろんな人が座っていた。中には在校生の姿も見て取れた。椅子は二手に分かれており、その分かれ道を歩いては周りの拍手の音に圧倒されそうになる。
左の列は左へ右は右へサイドに、並べられた椅子の前に並ぶそして英莉は競技場の横はしにそして次々と他のクラスの新入生が入場していき、入学式は順調に進行された。
「新入生あいさつ」
そんな言葉とともに、ついに来たのだと気を引き締めるレオル。刀花とともに壇上に上がり演台に向かう。会場内の来賓客の数名隣同士で話しているのが見えた。
壇上に上がるさい少しだがレオルにも聞こえていた。どうやらこの学園で新入生代表が出るのが始めてらしい。中にはレオルの見慣れない服装聞いたことのない家名などを話題にしている話も聞こえていた。当然である数日前に異世界から来た少年を知るものなどいない。一部の人間を除いて。
演台に立ちまずは刀花が前に出た、途端来賓客は刀花の姿に釘付けになり刀花の挨拶が始まった。刀花の挨拶は観客を魅了し、とても素晴しいものだった。
気づくと聞き入っており、そのまま刀花の挨拶は終わっていた。そしてレオルが演台のそばに立ち挨拶を始めようと会場全体を見るとそこにはひどい光景が広がっていた。
会場の大半の人々が演台を見ないと言うものだった。端末をいじる者、隣人と小声で話す者、他にも様々。刀花の挨拶の時とは打って変わってまるで興味がないような雰囲気であった。朝のアビエルの事もそうだが刀花は誰もが認める実力持ち主そんな彼女の挨拶の後に出てくるレオルの挨拶を聞く者はいなかった。
しかし受けてしまった以上最後までやると決めた。レオル自身内容をしっかりと言えていた。
(なんとなく予想はしてたけど...やっぱきついなぁこういうのは)
悔しさも合い間って段々と自分に自信がなくなっていく、それでも笑顔は絶やさなかった。
気づくと挨拶は終わり、自信の席に戻り始めていた。終わるとホッとしたのか、涙腺が緩んだ。
(やばいなんか泣きそうだ)
だがここで泣いても何もならない。グッとこらえ自分の席に着く。
「レオルさん私が必ず...」
別れ際に刀花が何か言いかけていたが自分のことでいっぱいだったレオルにその言葉が届くことはなかった。
「かっこよかったぜ」
そんな声がレオルの隣から聞こえてきた。視線を向けるとレオルより座高の高く所々に寝癖のある黒髪寝不足のせいか目の下にクマがあり、少々大人っぽさのある顔立ちの男子生徒がレオルに視線を向けていた。
「はは...ありがとう」
お世辞なのかどうかは、ともかくその言葉でレオルは救われた気分だった。こんな見ず知らずの自分を見てくれる人がいるのだと自身の中で感動していた。
その後も入学式は進行していった。
「以上をもってセントラル学園入学式を終了する」
理事長、舞園千鶴の台詞とともに入学式は幕を閉じた。
(よし、ようやく終わったこの後隣のやつにお礼を言おう)
レオルはこの後退場した時に何をしようかと考え心の中で自分にそう言い聞かせていた。
「そしてここからは予定にはありませんでしたがささやかなイベントをご用意いたしました」
そんなことを考えていたのも束の間千鶴のそんな台詞が会場を満たした。
「イベント?何かやるのか?」
レオルの隣の男子生徒から楽しげな声が聞こえた。演台の千鶴の視線を向けると一瞬「ふっ」と楽しげだが怪しい笑みを浮かべたと思うと言葉を続けた。
「私は今日この入学式前とある新入生同士のいざこざを目にしました」
その言葉を聞いた途端レオルは一瞬で自分のことだと察した。
「そこで私はそのいざこざに対して試合の場を用意すると告げましたその試合を今から行おうと思います」
その言葉に会場中が騒然とした。
「さて試合を行う者を呼び出す呼ばれたものはその場に立つように」
(俺のせいで桐崎さんがアビエルと...)
自分のせいでこうなっている事に罪悪感に押しつぶされそうになっていた。しかし、だからこそレオルは自分の考えている結末を否定した。
(ダメだ!俺がやるんだ)
刀花に視線を向けると刀花は自分の名前が呼ばれるのをまるで待っているようなそんな雰囲気だった。
「では試合を行うものはアビエル・アンソニー」
アビエルの名前が告げられそしてもう一人の生徒の名前が告げるためその口を開いた。
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少女は怒りで胸が張り裂けそうだった。大切な友人の挨拶で会場の大半。来賓客、新入生、ごく少数の在校生。人々はレオルに興味を抱かず自分達のやりたいことに
没頭していた。友人の声は最初に比べると少々覇気はなくなっていたが笑顔を絶やさずたくさん練習した事を精一杯やっていた。だがほとんどの人がそれを聞いていなかった。中にはバカにした視線を送る者もいた。彼女桐崎刀花は拳を握り締め表には出さないが怒っていた。
(この人達はレオルさんの努力を何も知らずになんと無礼な)
その時少女は決意した。彼がどんな思いでこの場に立っているのかそれを証明するための決意をした。
やがて挨拶は終わり刀花はレオルとともに席に戻った。隣を見ると彼の目が少々潤んでいるのが見えた。自分の口をかみ締める。
「レオルさん私が必ずあの人達に頭を下げさせます」
別れ際に大切な友人である彼にそう告げ自分の席に戻った。
そして理事長のイベントの話があり、今朝のアビエルとの一件だとすぐわかった。チャンスが来たのだと刀花は思った。
(ここで私が試合に勝利し何としても会場中の人達に謝罪させます)
先ほどの決意を自身の中で言うと同時に理事長である千鶴がアビエルの名前を呼び上げた。
そして刀花も立ち上がるため足に力を入れた。
しかし、その刀花の自分が呼ばれるという期待は裏切られることになる。
なぜなら千鶴が呼び上げたのは桐崎刀花ではなく...
「橘レオル」
自分の友人の名前だった。
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「橘レオル」
自分の名前が呼ばれた少し以外だった。てっきり刀花が呼ばれそこに自分が割って入るつもりだったのだ。
刀花に視線を向けるレオル。彼女もあまりのことに驚きの表情を浮かべレオルを見ていた。
「両者壇上の前へ」
力強い声が響いたと同時にレオルとアビエルは壇上前に歩き出し互いが向かい合った。千鶴も演台を離れ壇上前まで降りてきていた。
「理事長これはいったい…僕は桐崎さんと試合を…」
アビエルは納得がいかないのか理事長に申し立てた。
「桐崎と試合がしたいのかそんなの入学式の後にいくらでもできるだろ」
「しかしこいつは!」
千鶴の回答に納得がいかないのか、レオルに指差しながら反抗するアビエルだったが…
「私が決めたことだ覆すことはできない」
反抗したアビエルに背筋が凍るような視線を千鶴は送っていた。その視線に一歩引くアビエル。
「納得できません」
声の主は刀花だった。
レオルとアビエルの間付近まで歩いてこようとしていた。
「桐崎...お前も逆らうのか?」
アビエルと同じような視線を刀花にも向けていた。
「ですがこれは私が起こしたことであって」
引くかと思いきや一歩前進しながら千鶴に否定の言葉を発していた。
「桐崎は橘がアビエルにあっさり負けると思うのか?」
その言葉にレオルは刀花に視線を向けた。
「いえ決してそのようなことは思いません...ですが」
少し焦っていたのか千鶴の言葉を否定した。
「まあ橘がどうしても譲りたいと言うならそれも仕方ないが...橘、決めるのはお前だ」
そんな言葉とともに千鶴がレオルに視線を向ける。レオルも丁度千鶴に視線を移動していた。二人の目が合う。
「レオルー」
透き通るような美声がレオルの後方から響いてきた。自分が呼ばれたのに気づきすぐさま振り返ると、黒い棒が投げられそれを取った。
よく見ると鞘に収められた刀だった。鞘から数センチ刃を出すと特徴的な黒い刃の刀だった。見間違いようがない、それはレオルが父の片身である刀「新月」だった。
投げられたほうに目をやるとやっぱりと自分の中で呟いた。そこには癖の強く腰まで伸ばされた金髪白衣姿で服越しからでも話かえる抜群のプロポーションレオルの義理の母にしてこの世界に連れて来た張本人桜井エミリその人だった。
「博士...」
彼女に視線を向けるとあいつをぶっ飛ばせと言わんばかりの顔でグッドポーズをかましていた。
(はぁ...ありがとう博士)
瞳を閉じ刀を強く握り離れたエミリにお礼をいい振り返る。
「ごめん...桐崎さんこの勝負は譲れない」
刀花から「えっ?」と声が聞こえた。
「理事長やります...いえ...やらせてください」
その言葉を待っていたと言わんばかりに千鶴の口の端が上がった。
そして再びアビエルに視線を向けた。
「アビエル君...君は桐崎さんに人を見る目がないって言ったよね?」
「あぁ言ったとも君のような一般人と桐崎さんが一緒にいるなんてありえないんだからね」
「そうか...じゃあその言葉僕が、いや俺が一刀両断しよう」
そんな言葉を告げ橘レオルの学園最初の試合が始まろうとしていた。
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