第13話 波乱の始まり
よろしくお願いします。
「はぁ~」
力の抜けたたため息。これで何度目だろうか数えるのも馬鹿らしいくらいため息をついた。
どんよりとした空気で橘レオルは学校への通学路を歩いていた。
「大丈夫ですよ。私も一緒にやるんですから前向きにいきましょ」
笑顔で励ましの声をくれたのはレオルの隣で一緒歩いている腰ほどの長さの美しい銀髪、周りの人達の視線を集めるほどの顔立ち桐崎刀花である。
「と言われても俺なんかがこんな大役本当に大丈夫なのか?」
刀花の励ましはありがたかったものの、やはり自分の任された大役を想像するだけで胃が痛くなった。
なぜレオルがこのような状況に陥っているのかそれは3日前舞園英莉の経営するホテルで
刀花と自己紹介した時まで遡る。
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「さて自己紹介もすんだところでお二人にお話があります」
パンと手を鳴らした舞園英莉はレオルと刀花に話しかけた。
英莉の方に視線を向けるレオルと刀花、英莉はテーブルにおいてあったセントラル学園のパンフレットを
二人に見えるように持った。
「お二人はセントラル学園の入学試験がどのようなものか理解していますか?」
「はい」と刀花は即答するも偶然受けさせてもらったレオルは何も知らずに受けたため、首を横に振った。
「え?レ、レオル君はこの学園を希望して受けたんですよね?」
意外すぎる回答だったのか恐る恐る英莉がレオルに聞き返した。
「いや、俺受けられる学校がなくてセントラル学園の受付に言ったら理事長が試験を受けられるように
取り計らってくれたんです」
レオルの試験を受けることを許してくれた、器のでかい理事長のこと思い出しながら学園での出来事を語った。
「あぁ姉さんまた滅茶苦茶なことを...だからレオル君の点数があんな点数になったわけですか」
あんな点数と言う単語が出てきたということは、何かやばい点数だったのかと思った瞬間レオルは変な汗が出てきた。
「レオルってそんなに点数悪かったの?」
それを見てか英莉の隣で話を聞いていたエミリが英莉に問うた。
「私も見ていましたが、実践試験であそこまでやりきったのならかなりの高得点のはずですが」
刀花も納得がいってないのか英莉に物申した。
二人の言葉を聴き英莉は首を横に振った。
「いいえ悪い方の意味ではなく良い方の意味で言ったつもりなのですが」
「良い方の意味?てことは高得点って事だよね?」
英莉の回答にエミリは質問を返す。すると英莉は机の上においてあったファイルから1枚の紙を出し、それを机の上に置いた。
「こちら本日のレオル君の試験結果です」
机の周りに3人集まり結果の紙を見た。そこには判断力、瞬発力、反射神経など様々な評価が記載されており、その能力の評価がアルファベットで載っていた。そしてそのほとんどにAとSの文字が書かれていた。
「うわー!レオルやっぱすごい!」
エミリはまるで自分のことかのように喜んだ。そして肝心の点数を見ると、100の数字が書かれていた。
「あっあぁ」
まさか自分が満点の100点を取っていることに驚嘆しうまく言葉が出なかった。隣で見ていた刀花も驚きのあまり試験結果の紙を凝視していた。
「本来セントラル学園は今の時期試験を受けることはできません」
試験結果の紙を見ながら英莉は告げた。
「じゃあなんで」
エミリが英莉に問う。
「姉さんは人を見る目は学園一です。姉さんはレオル君の身体能力その他含め何かを感じたのでしょう」
英莉はレオルを見つめながら笑顔で答えた。
「それにしてもいきなり実戦試験を受けさせるなんて」
笑顔を崩しまるで自分がやらかしてしまったかのような顔になる英莉。
「試験っていくつか形式があるの?」
エミリも試験のことは無知だったがゆえ英莉に質問した。
「はい、学園は2つ試験形式があります。まずは技の試験です。自分の専門とする分野の技を披露しその技や体の動きから全てを評価し合否を決めます。普通だったらこちらを受けた方が合格の確立はあがりますから」
英莉の言葉に引っ掛かりを感じたのかエミリが首を傾げた。
「確率が上がるってどういうこと?」
エミリが英莉に問う。
「そこに2つ目の試験が関係してきます。2つ目のテスト実戦試験です。こちらの試験は教員と一対一の実戦を行いその中で受験者達がどういった戦闘をし、どういった行動を取るのか身体能力など様々な部分を評価されるので技の試験より評価項目が多いのです。
なので点数が同率だった場合実戦試験を受けた受験者の方が優先的に合格をもらうことができます」
丁寧に英莉が説明をした。
「ということはその身体能力とかの評価によって点数が決まるから同率が多いってことなんだね。そして実戦試験の方が遥かに難しいから高得点者が少ないため技の試験で高得点を取った方が合格できる確立が高いわけだ」
英莉の言葉に英莉は首を縦に振った。
「しかし今回レオル君の場合点数は100には届かないはずなんです」
その言葉にエミリは「なぜ?」と聞き返した。
「本来100点を取るためには全ての評価をSにする必要があります。しかしレオル君の評価にはいくつかS以外の評価が混じっている」
「たしかにおかしいですね」
英莉の言葉に刀花が反応する。
「今回レオル君は点数関係なく合格か不合格の2択で評価されていたんですよ」
「え!?てことは下手したら不合格だったって事ですか!?」
英莉の言葉にレオルは驚きを隠しきれなかった。
「私も後から聞かされていたので、姉さんが最初受験者が来たと聞いた時は、私も驚きました」
どうやら英莉も評価について知らされていなかったらしく、理事長が独断で判断し実行しただけだと英莉は語った。
「どんな形にせよレオル君は100点を取りました。ここからが本題です」
英莉が話を切り替えレオルと刀花に目を向ける。
「そういえばさっき大役を任せるって」
その言葉に英莉は首を縦に振り、学園のパンフレットを机に開いた。
「セントラル学園は毎年トップの点数を取った人にある大役をやる決まりになっています。」
(点数トップで入学式でやる大役?いやな予感しかしない)
英莉の説明にレオルは内心不安を感じていた。
「入学式全校生徒の前で新入生の挨拶をやってもらいます」
(あぁやっぱりか)
聞いた瞬間自分の予想が当たり胃が痛くなり始めた。
「そして今回レオル君と桐崎さんはトップの点数100点を取ったので2人にやってもらいます」
「ちょっと待ってください。普通新入生挨拶って1人の生徒がやるんじゃないんですか?」
笑顔の英莉の説明に反発するレオル。たしかに普通入学式の新入生挨拶は1人の生徒が抜擢されるはずなのに英莉は2人を指名したのだ。
「そうい言うかと思ってパンフレットを持ってきたんです」
英莉はパンフレットのとある一文を指差しレオルはその文を見た。そこにはこう書いてあった。入学試験において、トップの点数を取った者は入学式で新入生挨拶をやってもらいます。
「この通りです。そして、人数は書いてありません。今回は私が姉さんに頼んで2人を抜擢したのでやっていただきます」
もう逃れられそうにないので諦めてレオルは「わかりました」と首を縦に振り承諾した。
「でも俺そんな大役今までの人生でやったことありませんよ。まあ原稿が用意されてるなら何とかなりますけど」
人生の中で新入生挨拶と言う貴重な体験をする人は限られている。その限られた人材に選ばれたことに対してレオルはやけに緊張していた。だが原稿が用意されていれば書いてあることを読むだけだから、自分の中で大丈夫だとホッとしていたがその期待はすぐに裏切られることになる。
「原稿は生徒で考えていただきます。そして本番では紙は見れません」
「・・・え?」
その一言でどん底に突き落とされた。
「無理です」
即答だった。初めての自分にそんなことができないとすぐにわかったからだ。
「でも新入生挨拶って簡潔に言うと俺みんなと頑張りまーす!って宣言するやつだよね?」
エミリの発言に苦笑いで「うーん」と返す英莉。
「がんばってみませんか?」
しかしすぐに刀花がレオルの両手を握り熱い眼差しでレオルを見つめた。
英莉とエミリと刀花3人に見つめられながら数秒がたち、さすがに耐えられなくなり
「わかりました。やります」
諦めて新入生挨拶をやることを承諾した。
「私もお手伝いしますのでがんばりましょう」
笑顔の英莉には敵わずただ笑うしかなかった。
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そして時は現在に戻り通学路をレオルと刀花は歩いていた。
「あぁ胃が痛い」
あれから英莉の助力もあり3日間新入生挨拶の文を考えるのに専念した。
「やることはやったのですから、後は覚えた文を言うだけですから」
明るい笑顔で刀花がレオルを励ます。その励ましはレオルにとって少し気が楽になる慰めとなった。
「それにしてもさっきからやけに視線を感じるな」
通学路を歩いている途中からだったがレオルは周りの刀花と同じ制服を着た生徒達から視線を感じていた。それもそのはずセントラル学園の制服ではないまったく別の制服を着ている人がセントラル学園の生徒と共学園に向かって歩いていれば注目もされる。
視線を感じながらも何とかセントラル学園に到着した。見渡すとまるで未来世界の学校である。大きな建物ドーム上の建物もあり、その見た目に圧倒されそうになるレオル。
「すごいな」
正直な感想がレオルの口からこぼれた。刀花からも「そうですね」と言葉が出た。さっそく自分のクラスを確認しに行こうと歩き出した。
「ちょっと待ってもらおうか」
突如2人の目の前に金髪の男子生徒が道を塞いだ。
「俺達に何か」
いきなりのことで少し驚きはしたが相手の目的を質問するレオル。
「君はこの学園の生徒かな?」
レオルの制服はまだできていなかったため異世界に来た時の学ランのままだった。まったく違う制服を着た人物がいれば怪しまれるのは当然である。しまったと思ったレオルはすかさず自分の生徒手帳を金髪の男子生徒に見せた。
「ん?そうだ思い出した。講習会で試験を受けてたやつか」
男子生徒が思い出したのか警戒をといた。
「まあそんなことはどうでもいい。今すぐその人から離れ失せろ」
爽やかな顔から一変まるでゴミを見るような目でレオルを見た。思いもしない言葉にレオルは一瞬固まってしまう。しかしすぐ我に返り、「どういう意味かな」と聞き返した。
「言葉の通りさ、君はそこの桐崎刀花さんに相応しくない。入学試験を見ていたがあれはないよあれは。あの程度の実力でその人の隣にいるなどこの僕アビエル・アンソニーが許すとでも?」
アビエルと名乗った男子生徒は敵意丸出しでレオルを凝視した。とりあえずここはやっかい事を避けた方が良いと思い考えているとレオルの隣にいた刀花が歩き出しレオルの前に立つようにいちどった。そしていつもの笑顔とは違いアビエルを睨んだ。
「これ以上私の友人を侮辱することは断じて許しません」
「はぁーあなたも目が腐りましたね桐崎さん」
刀花の発言に対し煽りで返答するアビエル。
「別に私は目を腐らせたとは思っていませんよ。少なくともレオルさんはあなたより強い」
その言葉を聞きうれしさとともに何かハードルが上がった予感を察知し事態を収拾しようと動き出そうとした瞬間だった。
「はいそこまでだ」
声の方に目を向けるとスーツの女性がこちらに歩いてきた。
「理事長先生・・・」
レオルが理事長と口にした。声の先には行く当てのないレオルに入学試験を受けさせ合格判定をだした恩師舞園千鶴が3人の間に入った。
「3日ぶりだな橘」
自分の名前を呼ばれ理事長に一礼した。
「この勝負私が預かる。時が来れば試合を用意してやる。そこでお互い決着をつけろ」
千鶴の提案に刀花とアビエルは納得がいき2人とも首を縦に振った。
「よし。さあ各々自分達のクラスを確認の後第2競技場に向かうように」
千鶴の一言で生徒達は各々の教室に向かい始めレオルと刀花も教室へと歩き出した。
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