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図書館といっしょ!  作者: 雪ノ音
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認識の価値

 翼は立ち並ぶ屋台の1つを見つめたまま動きを見せていなかった。その視線の先にあるのは串焼きらしき屋台。

 何の肉かは分からないが、食べ物である事は購入していく人々が口にしている時点で間違いがない。何よりも匂いからして旨そうだ。

 ただ見ていた理由としては腹が空いていたからというのもあるが、一番の理由は回転率の速さ。

 実際に流通している状況を確認する事で価値を見極めようとする時にデータを取るのには必須な条件である。だからこその選択肢。


 もちろん手持ちの軍資金で足りない事はないだろう。

 だからと言って価値が分からないのでは使うのは厳しい。

 何故なら地球でも紙幣と言う物が出回る前の時代は、お釣りと言う文化がない国が多く、基本的には丁度のお金を渡すものだったからである。そして、その予想は当たっていたのだろう。


 先ほどからやり取りをしている様子を見る限り、客が受け取っているのは商品だけ。それ以外を受け取っていないという事は、お釣りは出ない様に渡している。だからこれは間違いないと見ていい。

 観察の結果から見るに串焼き2本で銅貨1枚。串焼きの大きさは2本あれば大人でも腹を満たせるサイズ。あれなら日本では1本500円~600円ほど。という事は1000円~1200円くらいの価値が銅貨1枚にあると見るべきか。

 後は注文方法についてだが、これは会話もなしで購入している者もいる事から必要なさそうだ。銅貨を渡せば商品はこちらに差し出される。難しい事ではない。


 そこまでの分析を終えると、早速匂いに釣られるように屋台へと足を向ける。

 こちらを視界に入れた屋台の親父は表情を崩し、笑いを浮かべたようだった。恐らく客向けようの商売顔に見える。


 断定できない理由はその顔は毛深く、耳が頭から飛び出している事から。地球人とは明らかに明らかに違う種族なのだから俺の勘違いであることを否定は出来ない。ただ客に愛想の悪い店など寄り付かない筈である。今はそれが間違いではないと信じて、その表情が笑みだと記憶しておく。

 

 こちらの考えも知らずに、その彼は何やら話しかけてきた。


「……! ……?」


 ――やはり分からない。ただ銅貨を渡せば代わりの物をくれる事は確認済。

 ゆっくりと銅貨を相手へと差し出す。


 相手としては妙に緊張気味の翼に対して首を傾げたように見えたが、銅貨を受け取ると焼きたての串焼きを差し出してくる。

 正直なところ、初めてのお遣いをする幼稚園児の気分だったが、こちらの緊張とは裏腹にアッサリと商品は手に入った。言葉など話せなくても意外と何とかなるものである。


 ちなみに串焼きの肝心の味については単純にうまかった。肉は鳥か何かなのだろうか、とても日本の鶏の肉に似ている気がした。と言っても鳥の肉はどれも基本的に似ているらしい。こちらの世界もそれについては同様なのだろうか。


 兎も角――1つの実験の成功と携帯用食料以外の食べ物を手に入れられた事で大きな満足感と自信を得て、翼は次の段階に向けて串焼きを咥えながら歩き出したのだった。



 

 どれくらい街道を歩いただろうか。

 重い疲れが溜まると共に、この町の様子は把握できてきた。

 まず、人種については様々。

 元の世界なら空想と言えるレベルの姿ばかりだった。中には翼と同じように地球人と言えるような存在も少なからずいたが他は獣と人の混血のような種族や、先ほどのホビット達のように童話に出てきそうなドワーフっぽい奴や魚人らしき奴まで幅広い。


 なるほど、誰もが翼を見ても警戒しないのも当然だと納得するしかない状況だった。


 次に建物関係。

 裏通りや離れた所の建物は住居のように見えた。逆に人々が行き交う表通りらしき場所には店舗らしきものが多い。裏通りの住居に興味がないわけでもないが、今やるべきことは店舗調査と、ある店を見つける事が最優先である。


 まず、先ほどの串焼きと同じように屋台については並んでいる物を見れば何の商売をしているかは丸わかり。問題は店舗を構えている方である。

 ただしこちらもなんとなくではあるが予測はつく。看板らしき物に、文字と一緒に簡単な絵が描かれていたからである。これもジェスチャーと似たようなもので文字が理解出来なくとも全く分からないという事はない。


 例えばコップのような絵は酒場、巻いた糸のような絵は服屋、剣や盾らしき絵の店もあったが武器や防具屋だろう。予想はしていたが地球程の科学を匂わせる様な物は売っている様子はない。恐らく当初の想像通り、文明レベルは低い部類に入る。


 ただ目的である店が見つからない。その店とは宿泊が出来るところである。早くなんとか見つけ出したい。というのも思ったよりも知らない土地の探検と言うのは体の負担が大きいらしく、限界を感じ始めていたのだ。特に元々自宅警備員だった俺にとって、今日は過剰な労働だった事は明白。


 もちろん野宿出来るように準備してきているが、賊に会ったその日に無防備を晒す勇気はない。ただし、その賊のお陰で軍資金が出来たのは妙な流れではある。現在までは結果的に良い方向に進んでいるがリスクを負いたくはない。出来れば安全に朝を迎えさせてほしい。そう願いながら探す。


 しかし――やはり見つからない。


 既に日は沈み始め、星の影が見え始めてきている。

 覚悟が必要な時が来たのだろうかと諦めかけた時、腹の鳴る音が先ほど見かけた酒場へと翼を誘う。


 ただしこれが問題の発生と解決のそれぞれを呼び込む事となった。

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