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図書館といっしょ!  作者: 雪ノ音
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森の中の航路

 空は今日も晴れである。旅立ちの日としては悪くない。

 普通に歩いている分には元の世界と違いは感じられない。いや、1つある。

 妙に空気が薄くなっている気がする。それに体も重い。


「ぜぇぜぇ、ひぃいいい、きちぃなっ」


 ただ、これはこの世界が悪いわけではない事は自身でも分かっている。

 何年も自宅警備員をやっていたせいで体力が落ちていた事が大きな原因。そこに加わる、リュックの荷物が疲れを加速させている。


 ちなみに現在は昨日の夜に確認した光の地点へ向けて行進中である。

 西と東に見える大きな山を目印に、コンパスをフル活用しての森の中を大航海していると言ってもいいような状態。それくらいに森は深い。


 もちろん、迷子になる事が無いように図書館の場所も目印になる物を昨日の時点で確認している。

 それは、あの「バカでかい木」。

 東西の山と、バカでかい木の3点を軸に、手元にあるコンパスを利用すれば何か問題でも発生しない限りは帰れない事などはないだろう。


 現段階で一番心配しているのは現地人の事。

 夜間に安定した光があったのだから、知的生物がいる事は間違いない。

 ただ、その相手が必ずしも友好的とは限らないのである。

 その為の準備は十分にしてきたつもりだった。

 もちろん、相手が友好的だった時の為の準備もしてある。

 お陰でリュックは思った以上に重くなってしまい、体の疲れを加速させているわけである。

 しかし――


「入れ過ぎたかっ……はぁ~」


 恐らく、日中に光の発生源には辿り着ける。

 それを計算して食料と水を往復も考えて2日分入れてある。

 日数にすると大した事がないが、それだけで4キロを超える。そこに毛布、未完成の地図、ライトまでは元の世界の冒険でも考えられる荷物ではないだろうか。冒険家になった事がない為、あくまでも予想だが。


 とりあえず、ここまでは仕方がない。ただ、この旅は普通じゃない世界である。その為に更に未知の旅へ必要と思われる物を追加している。


 まずは辛子スプレーとスタンガン。警備用の装備の2つ。

 殺傷するような効果は期待できないが、時間稼ぎに使うのは十分な効果を見込める。

 もし害獣が出た時に熊や虎のようなレベルが相手では有効なのか分からないが、これ以上の装備は邪魔になるだけだと持ってきていない。あくまでも戦いに行くのではなく、調査的な旅である限りは十分と言えるのではないだろうか。


 もう1つは光の発生源に友好的な相手が居た時に使う物である。

 あっさりと食料をとも考えはしたが、相手の文明レベルによっては価値の出る物を可能性に考えてきたつもりである。

 と言っても、所詮、図書館にある物は本が中心。その中から言葉が通じなくても理解してもらえる本を3冊用意してきた。


 1冊目は絵本。

 多少、言葉は書いてあるが絵だけで理解してもらうには最適だろう。

 2冊目は写真集。

 風景画を中心としたものを選んでいる。

 3冊目は医学図鑑。

 単純に元の世界では高価な本だから持ってきた。もしかすると相手によっては一番効果があるかもしれないと。ただ、これが一番重く、俺の体を蝕んでいる原因になっているかもしれない。


「今回は調査だけにするべきだったかもしれない……」


 一度に何もかも可能性を追求し過ぎた結果が大きな負荷となっている。

 今考えると愚かな行為だったかもしれないと後悔も頭をチラつく。

 しかし、ここまで来て戻るのも馬鹿らしい。既に道の8割以上を進んでいるはずであり、そろそろ目的地が見えてくるはず。最悪、帰りで邪魔な物は捨てて行ってもいいかもしれない。


 そんな事を考えていた矢先だった。

 人の声らしきものが微かに聞こえてきた。どうやら言葉を話せる程度の文明は確認できたようだ。明るい兆しと言ってよいだろう。もっと良く耳に入れる為に距離を縮める。

 



 やがて――建物らしきものも見えてきた。

 建物を作る文明まであるならば、色々と期待は膨らむというものだ。

 そんな期待は、あっさりと1つの事実により霧散する。

 それは聞こえてきていた言葉が理解できる距離になった時。


「なんだ? 何語だよ……あれは」


 学生の頃に学んだ外国語は英語くらい。それすらも苦手な分野だった。それでも英語かどうかくらいは判断できる。

 スペイン語やポルトガル語、中国語や韓国語だって、ある程度の判断は耳にしていれば意味が分からなくても判断はつくものである。それなのに耳に届いてくるのは聞き覚えのない言葉だった。


「や、やべぇ……予想出来なかった事じゃないが、実際に体験すると絶望的だな……」


 だからとこのまま帰るわけにもいかない。


 翼は覚悟を決めたように声のする方へと近寄っていくのだった。

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