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図書館といっしょ!  作者: 雪ノ音
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覚え無き景色

 正面玄関から出ると記憶にある町はずれの景色はなくなっていた。

 中にいる時から妙に見通しが良くなっている気がしていたのだが、どうやらそれは間違いではなかったようだ。


 振り返ってみれば、外と呼べる風景が見渡せるのは正面玄関だけだったのだと理解できた。 

 その理由は図書館自体が巨大な洞窟内と思われる内部に一人ぼっちの迷子のように佇んでいたのだから。

 運がよくというべきか、正面玄関方向にだけポッカリと穴が空いており、そこから太陽の光が差し込んでいたようだ。


 ただ問題は、その穴の先であり、切り立った崖になっている事。

 恐らく、下までの距離は数十メートルはあるのではないだろうか。

 とても人が降りれるような状況ではない。まさに断崖絶壁である。

 高さのせいもあり、眼下に広がる景色の確認は出来る。


 簡単に説明すれば随分と自然豊かな緑が広がっている。

 建造物が見えない状況から考えると、元の場所どころか、下手をすれば日本ではないのかもしれない。

 ここが南米のアマゾンだと言われても納得しそうなくらいに衝撃的な光景だ。


「一体、どうなってやがるんだ???」


 2流SF映画の設定でありそうなくらいに突然の異変である。

 一瞬、それらの映画と同じように自身の頬を痛めつけて、これが現実なのか確認したい衝動に襲われるが、風が頬撫でる感覚が夢ではない事を証明している。


 つまり、とんでもない状況である事が確認出来たという事だ。


 今すぐに命の危機が迫っているわけではないとしても、このまま放置するわけにはいかない。

 とりあえずは携帯を取り出し、電波を確認する。


「やっぱり、ダメか……」


 こういう映画のパターンでは、お決まりの状況ではあるが、それが自分の身に起こると流石に笑えない。

 特に現代っ子にとっては携帯は3時のおやつよりも大事なアイテムである。最初に使えないと分かってショックを引き起こすのに、これほど強力なものはそれほどないだろう。


 しかし、ここで落ち込んでばっかりも居られない。

 まずは、この洞窟内から出られる場所を探すのを最優先とするべきだ。

 早速、館内に戻り探索の為の準備に取り掛かった。


 この洞窟がどれくらいの規模かは分からないが、迷わないために地図の作製ノートと、LEDライト、携帯食料に、どこかのゲームセンターで取った携帯アクセサリー型のコンパスを手に取る。まさか、飾り以外で本当に役立つ時が来るとは思わなかったが、ゲームセンターの景品も捨てたものではない。


 ただこの準備は、ほぼ無意味に終わった。

 準備に時間をかけたのが馬鹿らしい結果に終わったからである。

 その結果とは、この洞窟がピラミッド型の建造物の為に準備されたのではないかと思われるくらいに、スッポリと収まるサイズで抜け道など無かったからである。

 すなわち、唯一の出口は正面玄関の絶壁の崖だけだという事だ。

 実質、脱出不可能だと突き付けられたのに等しい。


「参ったな……こりゃ本当に成す術なしか?」


 言葉と共に絶望に近い状況が、見上げても岩しかない筈の洞窟天井へと視線を泳がせた。


「あれ?」


 予想通り岩しかない。それは当たり前だ。洞窟なのだから。

 でも、声が漏れたのはそれが原因ではない。


 図書館の先鋭的なデザインである、ピラミッド型の先端が”天井に突き刺さっていた”。

 完全に盲点。

 横の空間ばかりに気を取られていたが、どうやら天井部分については意識が足りていなかったらしい。


「もしかすると……上から出られるか!?」


 その僅かな可能性に賭けるべく、本来は必要なのかどうかも分からない最上階に行くためのエレベーターを起動させて確認に向かう。


 やがて最上階を知らせる音と共に扉が開く。

 最上階は小部屋になっていた。当たり前だ。エレベーターの先にあるのは図書館の最上階から出る為の扉しかない。

 このエレベーターと同じで本来は全く必要のない物だ。単なる区切りの為にあるような部屋に使い道など無いのだから、この程度のスペースで十分。税金の無駄使いという言葉は、このためにあるのではないだろうか。


 だが、その税金の無駄使いのお陰で翼は少しの希望の芽が出てきたのだから不思議なものである。

 今はその僅かな希望に賭けて扉のロックを外し、力を込める――




 扉の向こうには光があった。 

 どうやら希望は広がっていたようだ。

 県民達にとっては税金の無駄使いだったかもしれないが、翼にとっては十分に意味があった事を感謝するしかない。例え、このエレベーターと最上階の為に数億円が使われていたとしても、1つの命を繋げるために必要だったのだと俺は証言する準備がある。元の場所に戻れればだが。


 そして翼は――光の中へと歩を進めるのだった。

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